第19話
安全な塒までの道なき道を彼女を抱えて進む。
先程の『主殿』発言の意図を聞いてみた所、何でも彼女の部族では
『守られ、助けられたのならば、その相手を主と仰いで尽くすべし』
と言う掟があるらしく、それに則った行動であるのだとか。
それに、彼女曰く
『あれだけ辱しめられてしまっては、もう何処にもお嫁に行けない身体にされてしまったのであります。なのでその責任を取るのであります!』
とのことなので、しばらく俺と行動を共にするつもりらしい。
まぁ、俺としても仲間が出来てくれるのならば嬉しいので否は無いのだが、どう返事したものかと考えていた所、それを『否か応か』の選択で迷っていると勘違いした(本人からの自己申告)彼女は、頭頂の耳をペタンと寝かせ、それまで上を向いていた尻尾を項垂れさせ、上目遣いで
『ダメ、でありますか……?』
と聞いて来た。
咄嗟にこちらの胸の内を説明すると、とても嬉しそうに尻尾を振り回しながら
『では、よろしくお願いするであります!』
と満面の笑みを浮かべながら傷を忘れて飛び付こうとして、動いた際の痛みで悶絶する等の馬鹿騒ぎがあり現在に至る。
そんな彼女を抱えて移動しているのだが、別段背負っている訳ではない。
いわゆるお姫様だっこと言う奴をしている状態だ。
……仕方がなかったのだ。
背中は糞ムシから追い剥いだ諸々で埋まっているし、普通にだっこする形にすると、意外と身長があるので前が見えなくなる。
腕を椅子にするアレや肩車等は俺の身長(目算で約180)でやると、高所の枝に頭を突っ込む事になりかねないので不採用。
こちらとしても、不安定な足場の森歩きに加えて魔物の出現にも備えなければならない関係上、片手は空けておきたかったのだが、それしか選択肢がなかったので、結局お姫様だっこをする事になった。
……実を言えば彼女本人から
『お姫様だっこでお願いするであります!』
と強い要望があったからでもありはするのだが……。
何か憧れでもあったのかねぇ?
まぁ、結果から言ってしまえば、魔物は気配察知と魔法剣でどうにでもなっているし、抱えられている本人も、尻尾をパタパタと振ってご機嫌な様子なので問題はなかったのだけど。
そんなこんなで森を進んでいると、「そういえば」と前置きしてからガルムがこう尋ねて来た。
「主殿の本当の種族って何でありますか?」
……ん?
何を言ってるんだこの子は?
「本当も何も俺は『スケルトン』だぞ?多少バグってるけど。」
だが、彼女は信じていないらしく、笑いながらこう言った。
「またまた~。主殿がアンデッド、しかも最下層のスケルトンな訳無いであります。
もし仮にスケルトンだったとしたら、あんなに素早く動けるはずがないでありますし、そもそもあんなに強い訳が無いであります。
それに、主殿からは死臭がしないであります。
アンデッドであるのならば、スケルトンだろうがリッチだろうが変わらずに死臭や腐臭がするのであります。
それと、アンデッド系の魔物はあまり理性的では無いであります。主殿はとてもそうは見えないであります。
それに、さっきからバカスカ魔法使っているのであります。
ただのスケルトンなら、今使っている魔法の一発で力尽きてしまうはずでありますよ?」
……フム。成る程。
世間一般的にはそこまで弱いかスケルトン……。
世間一般的にはそこまでアレなのかアンデッド……。
まぁ、俺はそれらと比べると少々イレギュラーなのだけど。
とりあえず、誤解を解くために背中側に回していた手でバイザーを跳ね上げる。
「ほれ、この通り。俺は『一応』スケルトンだよ。
まぁ、多少他とは違うし、その事についても説明するさね。」
真実とは異なると思い込んでいたことが、真実であった衝撃に言葉を失うガルム。
当然と言えば当然か?
自分の価値観を否定されたようなものだろうから、少しそっとしておくとしよう。
……しばらくして衝撃から覚めたらしいガルムは怒涛の質問ラッシュを俺に仕掛けて来た。
やれ『何故スケルトンが板金鎧を装備しているのでありますか?』とか、やれ『何故アンデッドなのに嫌な臭い(死臭・腐臭)がしないのでありますか?』だとか聞かれたので、俺は正直に全てを彼女に教えた。
話して良いモノだったのかはよく分からないが、彼女であれば話してしまっても大丈夫だと、そう感じていた。
******
俺が直接聞いた事、推測出来る事、分からない事、全てを話終えた頃合いで、ゴブリン共から奪い取った砦に到着した。
……全て話したと言っても、ぶっちゃけ要約すれば
『神様(仮)から人類を衰退させろと指令を貰ったから魔王になって実行する予定。ただし、どれだけ何をすれば良いのか不明』
である。
他にも一応
強さに関しては原因らしきスキルと特性がある
魔法に関しては、やってみたら出来たので知らん
とだけ教えておいた。
最後に
「これらを聞いた上で手伝っても良いと思ってくれるのなら、仲間になって協力してくれないか?」
と付け加えておいた。
まだ返事は聞けていないけど、考え込んでいる以上、何かしらのメリットは見出だしてくれているのではないかと期待はしている。
まぁ、断られたからと言って特に何かするつもりは無いのだけれどね。
そんな事を考えていると、何かを決めたような表情で「よし!」と呟いてから声をかけて来た。
「主殿、少々よろしいでありますか?」
「うん。どうやら答えは出たみたいだね。
では、聞かせてくれるかい?君の答えを……。」
「はい。では一度下ろして欲しいであります。」
お願いされた以上、下ろしはするが、まだ傷は治ってないのにどうするのかと戸惑っていると、その場で片膝を地面に突き、頭を垂れて臣下の礼を取る彼女の姿があった。
「自分、ガルム=フェンリルは貴方様の下僕と成り、貴方様の手足として働く事をここに誓わせて頂くのであります。
この命と身体は既に貴方様が救って下さったモノ。
既に貴方様のモノであります。
そして自分は残る心、忠誠をこの場にて差し上げる所存であります。
どうか受け取って頂けますか?」
「……どうしてそんな極端な思考にぶっ飛んだのかは知らないけど、俺と行動を共にするって事は、文字通り『世界』を敵にするって事だと理解した上での発言だと受け取って良いんだよね?」
「もちろんであります。
自分の集落の周辺も、人間に荒らされていい加減頭に来ていた所であります。
それにさっきのアレもあるのであります。
ぶっちゃけ人間には怒り心頭なので、ある意味『渡りに船』であります。
それに、主殿と一緒に居れば『成年の儀』の条件を両方とも達成出来そうでありますしね。」
「……はぁ。分かったよ。
汝、ガルム=フェンリルを我が『仲間』として受け入れ、君の忠誠を受け取ろう。
下僕ってのはなんとなく響きが嫌でね。
それに、俺に従うと言っても、出来るだけ対等な関係で居たいのだけど、それでは嫌かね?」
「……フフ!やはり貴方は面白い方だ、主殿。
こちらに否は無いのであります。
よろしいお願い致すのであります!」
「ああ!こちらこそよろしく!」
そう言って彼女の手を取る。
こうして、最初の部下にして仲間が誕生した。
【主従契約が結ばれました】
「「……………………ん?」」




