第16話
途中まで新キャラ視点です
しくじった、であります。
そうこぼしつつ、痛む身体と重い足を引き摺りながら必死に進む。
時折飛んでくる魔法を回避し、前衛として突っ込んで来る大剣使いと大楯持ちの雄からの追撃を耐え、それらに反撃するも、後衛として控えている雌が即座に回復させてしまうので、はっきり言ってじり貧である。
さらに質の悪い事に、その後衛の雌は何か特殊な無属性魔法でも使えるのか、こちらが予め受けていたダメージ分を差し引いて考えたとしても、明らかに身体の動きが悪くなってきている。
正直な所、不味すぎであります……。
今から思えば、最初からタイミングを図られていたのではないかとさえ思えてくる。
成年の儀の為とはいえ単独で行動し
儀式の祭場として使われるこの森で
満たさなくてはならない条件の一つである『格上との戦闘』の直後
体力も魔力も半分以下で手傷を負ったこの状況
そこで満を持しての襲撃である。
正しく狙って嵌めに来たとしか考えられない、そんな思考に囚われる。
しかし、おちおち思考の海に沈んでもいられない。
こちらの意識が他に向いたと見た大剣使いが、獲物を振り上げて斬り込んで来る。
咄嗟に武器で刃を反らして反撃を入れる。
なかなか良い所に入ったらしく、数瞬ではあるが動きが止まる。
これ幸いとばかりに追撃に出ようとすると、大楯持ちが間に割り込み、後衛共が回復と火力を飛ばして来る。
こちらも楯を蹴って距離を取りつつ、追撃を抑える為に魔法を撃ち込んでおく。
……恐らく、防がれてしまっているから大したダメージは負っていまい。
後衛の回復役をやっている雌が、光魔法の結界も使っていたのは確認済みだ。
元々攻撃の為ではなく、足止め目的で放っているからそこまでの期待はしていない。
していないが、このままでは余りにもよろしくない。下手しなくても、このままでは殺されるだろう。
そう考え、ジリジリとした焦燥感に襲われていた時だった。
(あー、あー、テステス、マイクテス。
もしもし?聞こえてますか、どうぞー?)
ファッ!?
思わず心の中で変な声を上げてしまう。
いきなり声が聞こえたであります!
い、今のは一体何でありますか!?
そうやって狼狽えていると、『隙在り』とでも見たのか、大剣使いが突っ込んで来て、肩から重めの一撃を貰ってしまう。
(痛ーーーーい!
痛い!!
超痛いであります!!!)
さすがに足が砕け、地面に倒れ込んでしまう。
(うおっ!通じてた!って大丈夫か!)
(あんまり大丈夫じゃないであります……。
ってか貴方誰でありますか?
こちとら貴方が突然話しかけて来たから良いのを一発貰ってしまって逝きかけてるのでありますが?
それとどうやって話しかけているのであります?)
思わず返事を返してしまった。
(俺が誰かねぇ……。俺も知らん。そもそも名前無いし。
会話に関しては、『意志疎通』ってスキルのお陰だと思う。詳しくは知らん。
なにやらピンチっぽいなら手、貸そうか?)
かなりのふざけた返答に驚愕を覚えながら、どうせ最期ならばと返事を返す。
(いや、それには及ばないかと。
そもそも、貴方が自分に味方するとは限らないでありますし。
それに……)
と、眼前に大剣を見つめながら彼女はこう付け加える。
(どうにも、もう間に合いそうに無いであります……。)
と。
しかし
(いや、そうでもないぞ?)
ガキィィィィン!!
甲高い金属音が鳴り響く。
もう自分の最期であろうと、眼を閉じていた彼女が瞼を開くとそこには、
自分より遥かに小さく
己の手の一振りで消し飛んでしまうであろう存在。
その小さいハズの背中は
今の自分の瞳には
とても大きく、逞しく写し出された。
その小さな誰かは
その手に握られた剣で
自分へと振り下ろされるハズだった大剣を
使い手ごと吹き飛ばし
紫黒の兜に隠された顔をこちらに向け
「ほら、間に合っただろう?」
と、笑いかけてきた。
後に彼女はこう語る
「あれは正しく運命でありました」
と……。
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ゴブリンの砦を飛び出してから、辺りに響く戦闘音と何故か感じられるようになった気配を頼りに移動を開始する。
最速で移動しながら、ヘルプからの指摘でステータスの確認をしておく。
「【ステータス・オープン】」
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名前・未設定
種族・スケルトン(死霊聖騎士)
レベル・182/300
スキル・剣術、剣術【二刀流】、闇魔法、闇魔法【剣】、魔力操作、クリティカル、骨食、魔石喰い、思考加速、遠斬、死霊術、光魔法【浄化】、簡易鑑定、気配察知New!、意志疎通New!
特性・スケルトンの特性、死霊聖騎士の特性、転生者の特性、???の特性
ギフト・【ヘルプ機能】、【成長促進】、【?】、【?】
残進化可能回数・2
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行き先が分かるのは、恐らくこの『気配察知』の恩恵であろうと考えられるが、『意志疎通』とはどんなスキルなのか?役に立つのか?
解・『意志疎通』は指定した相手との情報のやり取りが可能になるスキルです。
……成る程、んじゃこのスキルで接触してみるかね。
そこで、俺はスキルの対象に進行先で最も大きな気配を指定して、こう念じてみた。
(あー、あー、テステス、マイクテス。
もしもし?聞こえてますか、どうぞー?)
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「ほら、間に合っただろう?」
そう言いながら背中に庇った彼女に視線を向ける。
俺より遥かに大きな身体、太い四肢、鋭い牙と爪。
それはとても巨大な蒼白の狼であった。
気配察知で監視は続けているが、敵は動く気配が無いので、彼女へと問い掛ける。
「俺には名も無く、種族はいまだにスケルトンだ。
それでも、この場はどうにかしてやれる。
どうする?手を貸そうか?」
すると彼女も応える。
『自分はガルム。気高き神狼の族長の子。
助けて頂けるのであれば、お願いしたいであります。』
全身に傷を負い、蒼白の毛並みを血と泥で汚し、格下であるハズの俺に助けを乞うその姿。
本来であれば、哀れみを誘い、嘲笑を浮かべ、汚濁を見る目で接する事になるはずのソレを
俺は気高く、美しいと感じていた。




