第15話
「はぁ。やっと出られた……。」
漸く脱出の叶った主人公。
進化完了から既に数時間が経過しており、そのほとんどが脱出の為に使用された模様である。
具体例を挙げると
・ノブを掴んで力ずく(魔力による強化含む)……失敗
・蹴りや打撃等による物理的な破壊(魔力による強化含む)……失敗
・剣による斬撃(魔力による強化含む)……失敗
・闇魔法による魔法攻撃(あらかじめ習得していた中級魔法含む)……失敗
等々
それで良く脱出出来たもんだと我ながらに思うが、とある試みが項を制して現在こうして外にいる訳である。
それは上記のアプローチが全滅した後の事。
我ながらなんでこんなにガチガチに固めたのかと呆れながら軽く絶望していた時、ふと『そう言えば、鑑定まだ使ってなかったな』と思い出して使ってみる事にした。
ついでに、目の前で本来の役目を放棄している扉がどうなっているか見てみる事にした。
「んじゃ『鑑定』っと」
ちなみに態々声に出す必要性は無い。
あえて言うならば、初回位はやっておいた方が良いかなぁ?程度の考えである。
『封鎖された扉』(闇魔法強化状態)・耐久性EX
闇魔法によって強化が施され、封鎖された扉。
無駄に頑丈。
……へー、こんな感じで出るんだ……。
…………なんなんだよ『耐久性EX』って。
説明の『無駄に頑丈』って文も地味にムカつく。
んなもんとっくに分かっとるわ!
(ちなみに後でヘルプ機能に『耐久性EX』について聞いてみたところ
「上位種のドラゴンの攻撃にも余裕で耐えられ、最上位種の一撃にも辛うじて耐えられる程度」
とのことだそうで。)
その後、半分湯だった頭で色々と鑑定してみた。
それこそ、今まで良く分からなかったスキルの類いもステータスを開いて鑑定してみた。
そして、ソレはあるスキルを鑑定した時の事である。
光魔法【浄化】・特化魔法
浄化能力に特化した光魔法。本来の様な汎用性は失われているが、その分浄化能力が強化されている。
浄化の対象・アンデッド、呪い、状態異常、バフ・デバフ等
その時である。
この空っぽな頭骨にある天恵が舞い降りた。
光魔法【浄化】使えばイケるんじゃね?
扉が開かないのは、俺がガチガチに闇魔法で強化したから、らしい。
そして、光魔法【浄化】では強化状態も解除出来るらしい。
ならば、固まっている原因を解除してやれば、上手く開いてくれるのでは!
よし!早速やってみるか!
(対象は扉、目的は浄化、目標の強化を解除せよ)
「光魔法『ピュアリケーション』!」
放った魔法は外れる訳もなく、扉へと命中する。
それまで紫黒色に塗り潰されていた扉が、当たった所から徐々に色が抜けて行き、最後には完全に元の色へと変化していた。当然、封鎖も解除されていた。
そして漸く冒頭へと戻るのだが、そこでとんでもない事に気が付いてしまった。
……別に玄関の扉からじゃなくて、窓からでも外に出られたって事に……。
思わず崩れ落ちましたね、はい。
******
それまでの行動がある意味途労であった事実に軽く絶望していたが、気を取り直して辺りを見回す。
本丸にこもる前にゴブリン・ゾンビを死霊術で制作・使役し、魔石の回収等をさせていたハズなので、何処かにソレっぽいのがあるはずなのだけど……。
……あ、いた。
魔石の山と、まだ骨食の餌食になっていない死体と、ゴブリン・ゾンビが本丸の陰になっている所に固まっているのを発見した。
……なんでまたそんなところに居るのだか、と思わなくはないが、まぁ気にする程でもないか、と立ち上がって近付いて行く。
とりあえず、役目を終えたゴブリン・ゾンビに光魔法【浄化】を使って浄化しておく。
……実質的な功労者にそんなことして大丈夫なのか、って?
……以前にも言ったけど、全身が紫黒色で目だけが白濁色のゴブリンがこちらを凝視しているのである。
そんなの、用事が終わればさっさと始末するに決まっているだろう?余りにも不気味過ぎる。
そうしている間にゴブリン・ゾンビは、魔石だけを残して消滅していた。
南無、と手を合わせてからメインとなる2つの山に向き直る。
ついでに、闇魔法剣も展開しておく。
では、いただきます!
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とりあえずとばかりに、魔石は魔石喰いで、骨は骨食で全て吸収し、今後について考える。
この辺り一帯のゴブリンは狩り尽くしてしまっている。バランスが崩れるのでは?と最初は心配したが、ゴブリンは殲滅した方がむしろ環境に良い(ヘルプ機能情報)とのことだったので、自重等欠片もせずに狩りまくったのだが、本当に全滅させてしまった。
つまり、獲物となる魔物が付近にいないのだ。
ステータスの確認もまだではあるが、とりあえずは、と言う訳でヘルプ機能に相談してみようとしたその時だった。
森に突然轟音が響き渡る
木々が薙ぎ倒され、軋みを上げながら砕かれて行く
そして、傷付き苦鳴を挙げる獣の叫び声
ソレを追い詰めていると思われる人間の掛け声らしきモノが聞こえて来た。
その時、俺が何を思っていたかは正直良くわからない。
混乱?衝撃?恐怖?それとも、人間との初接触への期待?
ただ、あの獣を死なせてはいけないと感じていたと思う。
それ故に俺は、
反射で、いまだに鳴り響いている、その音源へと駆け出していた。
彼はそこである一つの“運命”と出会う事になる