第121話
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ガルグイユのじい様との本気での死闘により、軽く山の二つ三つを消し飛ばしたり、新しく湖となる窪地を作ったり(当時は水はまだ無かったのでただの穴だった)、空振った斬撃によって新たに谷を作ったりと、我ながらはっちゃけて大暴れしたなぁ……と思い出す度に遠い目にならざるを得なくなってから早一年。
今俺は、旧イストリアの街であるイストに存在する、先輩転生者が造り上げたと思われる木造建築様式の自宅の居間にて、真っ昼間から寛いでいた。
……『魔王様』としての仕事?
あぁ、辞めてきた。
まぁ、『辞めた』と言うよりかは、正確に言うと『押し付けて』来たと言う方が合っているとは思うけど。
何を無責任な事を抜かしているのか、こいつは?と思うかも知れないが、そもそもの部分を思い出して欲しい。
……俺、別段最初から最後まで『王様やりたい』なんて一言も言った事無いからね?
思い出して欲しいのだが、俺が最初に『魔王』を名乗ったのは、あくまでも『魔物の首領』としての『魔王』であり、その後のアレコレにしたって必要かつ他に適役がいない、又は、いても他の処で活躍していたりしたので動かせなかった、と言う理由から俺が『魔王国の王』としての『魔王』を名のる様になった訳である。
諸々の仕事にしても、一応であれ『王』を名乗った以上は、着いてきて暮れた人達を守らねばならなかったし、ぶっちゃけた話俺がやらねば他に出来る人がいなかった、と言うだけのお話なので、こちらもぶっちゃけると『権力』にも興味は無いし『魔王国の王の座』にも特に愛着やら執着やらがあった訳でないので、表舞台で俺がこなさなくてはならなかった諸々を片付けた暁には、魔王の地位を退位して表舞台から降りる、と言う予定だったのである。
何時までも俺が居ないとダメ、って言う状態は、正直健全な国家運営が出来ている、とは言い難いし、俺が寿命の類いでの退位や交代が無い以上は何処かでこうする必要が有ったのだから、そこまでバッシングの類いを受けねばならない事でも無いだろう。
俺の次代の『魔王』には、確りと俺を支えてくれていたアルヴを指名した上で、退位する際にも、暴走する様ならば暴力装置として俺が戻ってくるからね?と釘を指しておいたから、多分大丈夫なんじゃないだろうか?
良い意味でも悪い意味でも様々な経験をした彼女ならば、独裁者としての君臨する事も道を違う事も無いと信じているからね。
……まぁ、本人にその話をしたら、
『ますます仕事は増えるだろうし、『魔王』になんてなってしまったら結婚出来る相手も居なくなるだろうが!』
と最初は拒否られてしまったけど。
……正直な所、俺としては過去にアレだけの体験をしていたのに、まだ結婚願望が有った事に対して驚きの余り呆然としてしまったのはここだけの話である。
そんな彼女をあの手この手で宥めすかし、最終的に『魔王位を譲るのに相応しいだけの後継者を見付けるか、もしくは『魔王』自体が不要になる様な枠組みを造り終えるまでに結婚出来ない、又は特定の誰かと付き合っていなければ、責任を取って俺が結婚する』と言う条件にて手を打たせた結果、俺は魔王を退位して晴れて無職となったのである!
……いかん、言葉にしてみると、何だか凄く情けない様な気がしてきた……。
ちなみに、俺の退位の少し前に式を挙げ、『婚約者』から『伴侶』にジョブチェンジを果たしている五人は、今はこの家にはいない。
それぞれでまだ役職を持ったままになっているため、その後釜の教育や申し送りをしていたり、故郷の方へと『報告』に行ったりしているのだ。
……そう、何の『報告』かと言えば、『懐妊』の報告である。
少し前からウシュムさんが何やら違和感が在る、との事を口にしていた為、何事か!と鑑定してみた処、妊娠が発覚した、と言う訳なのである。
お陰でここ数日はお祭り騒ぎとなってしまっていた上に、他の四人がウシュムさんの妊娠に触発されたのか、普段よりも一層盛んに求めて来たりと、色々な意味で『忙しく』なっていた為に、こうして真っ昼間からマッタリとしている訳なのだけど。
が、そうやって念願の隠居生活を楽しんでいると、予定外の訪問者が来た事を告げる転移魔方陣の起動音が、俺の耳へと届いてくる。
……はて?一体誰だろうか?
そんな疑問と共に出迎えてみる為に、転移魔方陣が設置してある部屋へと足を運んでみる。
この家を『自宅』として使用するに当たり、ここへと繋がっていた路地には、ここが在ると認識していないと入ってこれない様にしてある結界が張られている上に、路地自体からここまで来るのにも、それなりに手の込んだ仕掛けを多数用意して防衛手段としている為に、俺がここに来る事を許可した人間は、予め用意しておいた転移魔方陣によって跳んで来る、と言う訳なのである。
……まぁ、ガルムだとかレオンだとかは仕掛けが面白いから、と毎回表から入ってくるけれど。
そんな思いと共に、一旦庭に出て増築された転移魔方陣を設置した部屋の在る小屋へと向かってみると、丁度転移した来たと思わしき人影が小屋から現れた。
「……おや?これはこれは、ご無沙汰しておりました、陛下。陛下直々の出迎えとは、大変恐縮でございます」
「……なぁ、その『陛下』っての止めない?もうおれは魔王じゃないんだし、そっちだって新魔王の元で宰相なんてやっているんだから、そう呼ぶ対象は俺じゃあないだろう?ジョシュアさんよ?」
「それでも、ですよ。私にとっては貴方が唯一『陛下』と呼ぶべきお方ですから、ね。まぁ、それが嫌だと仰るなら、敢えて『教官殿』と呼ばせて頂きますかね」
「……もう、それで良いよ……」
そう、転移魔方陣で跳んで来たのは、元俺の教え子であり、俺の部下でもあった、現在は魔王国の宰相にして俺的にはアルヴとくっ付く可能性第一位のイケメンエルフであるジョシュアさんであった。
「……しかし、どうしてお前さんがこっちに?普段なら、用事位は手紙やら書類で済ませるし、そもそも俺は公的にはもう役職にすらいないのだから、こうして急に来る事なんて今まで無かったよな?おまけに、宰相として忙しく働いているハズのお前さんが、こうして直接来る何て事をしていて良いのか?」
そう、実際の処としても、絶賛俺と共に引きこもる気満々の嫁さん達を除いては、今一番忙しいハズのジョシュアさんが、現在は無位無冠である俺の所に直接出向いてくる何て事は、そうそうして良い事ではないハズなのだ。
だが、その俺の質問に対してジョシュアさんは、何て事は無いとでも言いたげな表情で
「あぁ、仕事に関しては休暇を申請してきたので問題無いですよ?」
と言い放つ。
……いや、確かに、休暇の申請だとかの最終処理行程に捩じ込めば、簡単に休みは出せるかも知れないけどさ……。
そうやって半ば呆れていると、用件を思い出したのか表情を引き締めたジョシュアさんが、俺の手を取って転移魔方陣の設置してある部屋へと誘導しながら口を開く。
「……実は今回、是非とも教官殿にご協力頂きたい事がございまして参上した訳なのですが、ご協力願えませんでしょうか?
取り敢えず、詳しい話は現地にて行いますので行くだけ行ってしまいましょう。そうしましょう!」
「……え?あっ!ちょっ!?」
返事をする暇すら与えられず、部屋着のままで碌に準備の類いも出来ずに転移小屋へと連れ込まれる俺。
「……わ、分かった!分かったから、行き先だけども先に教えろ!」
既に起動状態となっていた転移魔方陣を目にした俺は、半ば自棄糞でジョシュアさんへと問い掛ける。
すると、転移魔方陣によって転移するその瞬間に、口元に苦い微笑みを浮かべたジョシュアさんが、呟く様にこう答えた。
「……行き先は私の故郷。旧ノーセンティアの『迷宮街』ラビリントです」
その呟きを最後に残して俺達は、極北の大地へと旅立つことになったのであった。
さて、意外と人気のあったアルヴにフラグを立ててみましたが、如何だったでしょうか?
次回から、北の大地にてある意味『意外なメンバー』と共に色々とやらかす事になる予定です。ご期待下さい。
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