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やがて魔王へと至る最弱魔物《スケルトン》  作者: 久遠


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第98話

百話目到達しました!

ここまで続けられたのは、一重に読んで下さった皆さんのお陰です。ありがとうございますm(__)m

まだ少し続きますので、出来れば最後までお付き合いお願いします。


……それは、未だに朝靄も明けきらぬ早朝、まだ首都ノーセンティアの正面にそびえる大扉処か、その脇に有る通用門すら、開けられておらず、人通りなどはまだまだ発生し得ない様な、まだ『夜』とも言える様な、未明の時。

そんな時間帯の静寂を撃ち破る様に、ガラガラと重荷を積んだ馬車の車輪が、石畳が敷き詰められた道を咬む音と、ガシャガシャと鎧が擦れ、ぶつかり合っている様な音、それに、ジャラジャラと金属で出来た鎖が擦れあっている様な、そんな音が辺り一面に響き渡る。


昨日、時間が遅くなってから到着し、そのため既に通用門が閉ざされてしまっていた為に、門の前での野宿を余儀なくされていた商人や、この首都に有るダンジョンに挑戦するために、ココへと向かっていた冒険者等をその騒音で叩き起こしつつ、それらの視線を独占しながらそれらは正面の大扉へと掛かっている橋を渡りだす。


先頭を行くのは、ノーセンティア軍の官給装備である鎧に身を包んだ、まさに筋肉達磨と表現するに相応しいだけの体格をした大男だ。何処か窮屈そうにしている様にも見えるのだが、恐らくは鎧の大きさが身体に合っていないのだろう。

それに続く形で、冒険者らしき装備を纏った男女の一団が進み、その後ろに幾つもの馬車と、それらを囲むような形で警護しているようにも見える兵士達の姿が有った。

馬車に繋がれ牽かれる檻の中で、鎖に繋がれ項垂れるエルフ族や獣人族と言った亜人種達。

……そう、檻に入れられている彼ら彼女らは、現在このノーセンティアと戦争中であると言われている、ユグドラシル国の住人達である。


そんな彼ら彼女らが、何故この様な状態でこんな所に連れられているのかと言えば、理由は一つしかない。

……そう、このノーセンティア領に置ける隠語にもなっている、こちら側への『移住者』、つまりは、奴隷狩りによってよって捕まり、これから『処置』を施されて『奴隷』へと落とされる為に、ここノーセンティアへと連れてこられたからだ。


そんな、絶望的な未来しか想像出来ない彼ら彼女らの表情は一様に暗く、中にはあまりの絶望感からか、目から光が消えたまま、ただひたすらに声無き笑みを浮かべ続ける者すら見える。

また、彼ら彼女らの纏う襤褸切れの様な服装や、ここまで連れて来られるまでの旅路で被った埃、それと捕らえられた際に負ったと思われる、最低限の処置しか施されていない傷等も、そこの雰囲気を、暗く重いモノにするのに、一役買っているのは、まず間違いでは無いだろう。


そんな亜人種達の檻を警護している兵士達の表情は大別して二種類。

片方は、これから出るであろう報酬に期待しているのか、近い者と話ながら、だらしなく頬を緩めている者。

そして、もう片方は、もうすぐ首都に入れる所まで来ているのに、未だ周囲を油断なく見回し、時折檻の方へと視線を向けてから、忌々しいモノを見たかのように、表情をしかめている者だ。

一概に、前者を不真面目、後者を勤勉と取ることは間違いでは無いのだろうが、前者の中にも、時折檻の中へと気遣う様な視線を向ける者もいれば、後者の中にも、もううんざりだ、と言わんばかりの表情を浮かべる者もいるので、それぞれ一括りに評価する事は、あまり『正しい』事では無いとも言えるだろう。


そんな後続を尻目に、先頭を行く大男は、馬車の列が門へと続く橋に掛かるよりも先に渡りきってしまうと、通用門の脇に誂えられている衛兵の詰所の扉を乱暴に、むしろその木製の扉を殴り壊そうとしているかの様な勢いで叩き出した。


「何用だ!まだ時間ではないから、門は開けられないぞ!」


そう怒鳴りながら、衛兵が外へと出てくるが、それはまず間違いなく当然の事と言っても良いだろう。

何せ、彼らは門を通ろうとする者の身元を確認し、犯罪者の侵入や、商人等が違法な物品を持ち込もうとするのを防ぐのが仕事であり、必然的に開門時までは、夜番の者以外は眠りに就くものだ。

そして、現時点では、何時もならばまだまだ開門する様な時間では無い上、丁度夜番が上がり、朝番の者と交代しようかと言うタイミングだったのだ。

その為、夜番だった者は、交代して漸く寝られると言ったタイミングでの騒音であり、朝番の者は、まだ寝ていられた者も含めて、全員の目を抉じ開けるだけの音量を響かされたのだから、誰一人としてこの招かれざる客に対して、親切かつ丁寧な対応をしてやろうとは、到底思えなかったとしても、誰も彼らを糾弾出来はしないだろう。


しかし、そんな事情は知ったことでは無い!と言いたげなその大男は、外へと出てきた衛兵の肩に腕を回すと、まるでこの世の春が来た!と言わんばかりに上機嫌な様子で話し出す。


「まぁまぁ、そう固い事を言うなよ?兄弟。確かに、まだ早い時間だが、俺の後ろを見てもらえれば分かると思うけど、俺達は栄えある遠征軍だぜ?」


そう言って、半ば無理やりその衛兵を詰所から引きずり出すと、今漸く橋に差し掛かった、十数の馬車と、数百の人とが織り成す行列を差し、そして、自らは懐から騎士団長のみが与える事を許されている『団長紋』の蝋印が入った命令書の束を取り出して見せながら、話を続ける。


「ほれ、この通り、ユグドラシルから『移住』したいって連中を引き連れて、俺達は一足先に帰還したって訳さ!これだけの『移住希望者』を連れてきたとあれば、俺達にはたんまりと報酬が出るハズだからな!そうすれば、皆で集まって、昼間っから派手にパーティーって予定なのさ!だから、ちょっとばかり早めに開けて、通して欲しいって訳さ!」


成る程、それならば、この朝っぱらからやけにテンションが高く、変に馴れ馴れしいのも、まぁ納得出来なくは無い、と言った処か、と衛兵も納得はした。

しかし、まだ寝ていた者も多く、自分もこれから寝る予定だったのに、それを妨害してまで通してやらねばならない様な、理由にはならない。

そう判断して、依然肩を組んで来ている大男へと抗議すると、済まなそうに、その窮屈そうに鎧を着た身体を縮めると、懐から銀貨を数枚取り出して、その衛兵へと握らせながら、小声で囁く。


「……確かに、あの叩き方は、考え無しだったよ、悪かった。でも、俺達はユグドラシルで戦って、その直後にここまで『連中』を連れて来たんで、俺もあいつらもここ最近は、ろくにメシすら食っていないんだ。そんな疲れきったあいつらを、さっさと中に入れてやって、ゆっくり休ませてやりたいのさ。

なぁ、頼むよ。ほんの数時間早く開けるだけ何だから、大した事にはならないだろう?何なら、俺達全員調べてくれても構わないからさ。それに、俺達のパーティーが始まったら、必ずお前さん達も呼んでやるから、な?」


そう『懇願』とも取れる行動に、衛兵はそれまでの怒りや苛立ちと言った感情を引っ込めると、溜め息一つ付いて、仕方がないな、と言わんばかりの表情で「少し待て」と言い残してから詰所へと戻って行く。

そして、少ししてから、他の衛兵達と共に出てくると、内側から操作して通用門を開いて行く。


「……今回だけ、だからな?まぁ、お上からも、『そろそろ来るハズだ』と言われてはいたから、開けるだけは大丈夫だろう。ただ、一応検査もさせてもらうが、別に構わないだろう?」


「おお!これは助かる。感謝しても、しきれないとは、この事だな!……そうだ、さっきのアレに追加して、コレで何か美味いものでも食ってくれないか?もちろん、皆でな?」


そう言って、追加で金貨を握らせる大男。

さすがに貰えない、と突き返そうとするが、良いから、他の皆とも分けて何か食ってくれ、と押し切られ、結局受け取ってしまう衛兵。

そして、あいつらに通れる事を話してくるよ、と言い残して橋を戻ろうとする大男に対して、衛兵が何気なく聞いてくる。



「あぁ、そうだ、そう言えば聞いておこうと思っていた事が有ったんだが、今で良いか。『調べて良い』って話だったから聞かせて貰うが、お前さん、何でそんな『サイズの合っていない』鎧何て着ているんだ?一応、サイズ位は合わせて支給されるハズだろう?」



その何気ない問いに、一瞬『ビキリ』と音を立てた様にも錯覚出来る程に、目に見えて固まった大男だったが、次の瞬間にはその硬直を解除し、やや足早に衛兵の元へと戻ると、耳元へ口を寄せ、誰にも聞かれない様に、声を潜めて囁き出した。


「……実はコレ、最初に貰ったヤツじゃあ無いんだ」


「……?どう言う事だ?」


「……いや、さ?俺達、戦闘してきたって言っただろう?その時に、敵さんの攻撃貰っちまってな?それで壊れたんだよ。んで、今着てるのは、部隊で持ち込んでいた予備のヤツ。だから、サイズが合ってないのさ」


「……なら、別段隠す必要は無いんじゃないか?ある種の勲章みたいなモノだろう?」


「いや、実は、部隊で鎧を換えなくちゃいけない位に攻撃されたのって俺だけでさ?何か、恥ずかしくて、さ?一応、帰りも戦場だった所を通って来たから、武装してないと危なかったから、窮屈でも我慢して着けていたし、こう言う時に俺一人だけ鎧着けてないと、目立つだろう?」


な?と何処か恥ずかしそうに語るその大男に同情したのか、その衛兵は肩をポン、と叩くと、他の衛兵達には、あまりこいつの鎧には、突っ込んでやるなよ?と注意してくれていた。……以外と、良い人だったらしい。


その後、兵士達は簡単な荷物検査を受け、檻に入れられている『移住者』達は、外から軽く見られるだけで検査を終わらせられ、全員が通用門を潜って首都ノーセンティアへと入り込む。

そして、門の所での応答の間に人が行っていたのか、遠くに見える王城から、馬に乗った騎士が、彼らの元へと駆けてくるのが見える。

その騎士が到着するのを待ち、騎士団長からの命令書を渡すと、そのまま先導される形で城へと向かって進みだす。


そして、そのまま騎士に先導されて城へと到着したのだが、そこで少々トラブルが発生する。

到着した先で、『移住者』達を引き渡してさっさと帰れ!と宣言してくる貴族が現れたのだ。

幾らこの『移住者』達は、遠征軍が確保してきたモノ達であり、彼らの功績に直結するから無理だ!と説明しても、どうせまだまだ沢山連れてくるのだから、少し位ならば関係無い。むしろ、私の方から手を回してやっても良いと言ってやっているのだから、さっさと寄越せ!と言って聞かないのだ。


そして、そのまま暫く押し問答が続き、早朝の時間帯から、既に日が高くなってしまった時、それまで段々と目を座らせるだけで耐えていた、隊長格と思わしき大男が、ついに耐えかねたのか、隣にいた他の兵士にこんなことを言い出した。


「……なぁ、予定外では有るけど、もうここでやっちまうか?流石に、これ以上あのバカに付き合ってやるのが、面倒になってきたんだが?」


そう言われて答えるのは、まるで糸のような細い目をした青年と、無駄に整った顔立ちの細身の男二人だった。


「そうだね~。僕も、いい加減飽きてきたから、もうやっちゃっても良いと思うよ?」


「……俺も、それには同感だ。それに、こうまで注目を集めてしまっては、流石に、作戦通りには行かせられないだろう」


「……では、仕方がない、ですね。では皆さん」


とそこで一旦言葉を切り、未だに難癖をつけ続ける貴族を完全に無視して檻の方へと向き直ると、手を一つ叩き、周りにパァン!!と音を響かせると同時にこう叫ぶ。





「総員、行動開始!」





その掛け声に反応する様に、それまで虚ろな表情をしていた『移住者』達が、一斉に檻から飛び出し、床板の下へと隠していた武装を装備すると、手当たり次第に周囲の人族を襲い出した。



かくして、首都ノーセンティアの内部へと、ユグドラシル側の戦力が、初めて直接投入される事と相成ったのである。

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新作始めてみました クラス丸ごと異世界転移~無人島から始まる異世界冒険譚~ 宜しければ、こちらもお願いしますm(__)m
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