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75話 みんな丸太は持ったな!?(講談社さんゆるして)

 いきなり元勇者の高校生・園市が丸太を肩に担いでスクワットをはじめた。


「オレも丸太で吸血鬼を倒せるようにならなきゃいけないっすね。ふんっふんっふんっ」


 未成年らしい人懐っこい顔から闘志と汗があふれていた。いったいぜんたいなにが彼をやる気にさせたのか?


 その答えは、スクワットする足元にあった。


 某講談社の有名コミックス――【彼○島】である。


 内容をざっくり説明すると離島を凶暴な吸血鬼が支配しているので、普通の人間たちが抵抗する話だ。なお吸血鬼は感染するため、仲間たちが次々と敵に取りこまれていく。なかなか絶望的な状況だが、実は吸血鬼に大ダメージを与える武器があって、それが丸太であった。


「園市。また漫画の影響を受けたのか。中二病は治らないようだな」

「だってもしかしたら、現実世界でも感染するタイプの吸血鬼が出てくるかもしれないじゃないっすか? 魔界の吸血鬼、ただ血を吸うだけだったので」


 たしかに魔界の吸血鬼は血を吸うだけだった。しかもヒューマンと身体能力も変わらないし、脅威らしい脅威がなかった。


 だがもし地球に感染タイプの吸血鬼が出現するとしたら――園市のように備える必要はあるだろう。


 我輩の二等書記官という肩書きからして人類存亡の危機に抵抗できなくては格好がつかない。


 よし、やってやろうではないか。我輩も園市の隣で、丸太スクワットを開始した。


 ふんっ、ふんっ、ふんっ。汗を流して筋肉を鍛えていると、理系大学生である川崎が部屋から出てきた。


「なんで丸太でスクワットなんですか?」


 彼にもまったく同じ説明をしたら、漫画文化に理解のある川崎がうなずいた。


「なるほど、たしかにオカルトとはいえバカにできないですね。僕も訓練しておきましょう」


 こうして川崎も丸太スクワット開始。


 ふんっ、ふんっ、ふんっ。我輩たち三人はひたすら丸太スクワットで筋肉を鍛え続けた。もしかしたら来襲するかもしれない吸血鬼どもを倒すために。


 汗が垂れて筋肉が悲鳴をあげるほどに、我輩たちの絆とパワーは高まり、臨戦態勢となっていく。


 すると管理人室から長屋の管理人である花江殿が出てきた。


「……なにをしているんです、あなたたちは?」


 まるで呪術の儀式でも見たかのような顔をしていた。心外である。きちんと理由があって訓練しているのに。


 我輩は、花江殿に自信満々で語った。


「これは対吸血鬼用の訓練だ。丸太が特効になる」

「え、吸血鬼なんて現実にいるんですか?」

「うむ。しかも感染する。大変危険な生物だ」

「そんな…………」

「しかし安心せよ。我輩たち三人が鍛えているので、たとえ吸血鬼が襲来しようとお茶の子さいさいである」


 断言したところで、いきなりニュース番組で特集が組まれた。どうやら吸血鬼が新宿に出現したらしい。ニュースのテロップによれば『市街地大混乱』だそうだ。緊急事態である。我輩はニュースを最後まで見ないで、急いで仲間たちへ告げた。


「我輩たちの出番だ! 準備を整えよ!」


 どこからともなく軽トラックを調達してくると、花江殿が運転席へ座った。そして我輩と、園市と、川崎が荷台へポジショニングした。もちろん丸太装備だ!


 ドドドドドドドド


「みんな丸太は持ったな!? いくぞぉ!!」


 ドドドドドドドド



 軽トラックは弾丸のような勢いで出撃した。花江殿の運転が荒っぽくて何度も交通事故を起こしかけたが、緊急事態だからしょうがない。もし現場へ到着するのが遅れたら、大勢の人間が吸血鬼に感染して人類は滅びてしまうだろう。


 だが丸太があれば大丈夫。丸太ばんざい!


 なんて想定しながら現場へ到着すると、新宿駅前に大衆が集まっていた。


 彼らの輪の中心には、吸血鬼っぽい格好をした不審人物が立っていて、こんなことを言いだした。


「我こそはドラキュラ伯爵。今宵新宿は血に染まるであろう!」


 堂々と犯行宣言である。きっと相当の腕前だから退治される心配をしていないんだろう。まったくもって恐ろしいやつである。


 しかし、しかし――我輩たちには丸太がある!


 軽トラックは吸血鬼の手前で急停車。我輩と園市と川崎は丸太を担いで荷台から飛び降りた。


「神妙にしろ吸血鬼め。この丸太でお前の頭を砕いてやる!」


 すると吸血鬼は一瞬だけ困惑しながらもマントを広げて威嚇してきた。


「やれるものならやってみろ人間め! 吸血鬼の恐ろしさ……存分に思い知れ!」


 やる気まんまんである。だったら遠慮はいらないな。我輩たち長屋同盟は丸太を振りかざすと、吸血鬼へ襲いかかろうとした。


 しかしメガホンを持った人物が乱入してきた。


「カット! カット! こんな演出きいてないぞ! 誰か警察よべ!」


 …………演出? はて、なんの話か?


 ファンファンファンっと大量のパトカーがやってくると、我輩たち長屋同盟は次々と手錠をかけられていく。


「おい待て! 我輩たちは正義の執行をしようとしただけだぞ、なぜ逮捕する!」


 我輩が大声で抗議したら、これまた懐かしい丸顔の警官・間島が、やれやれと肩をすくめた。


「まさか過激思想が長屋全体に行き渡っていたなんてな……吸血鬼より恐ろしい感染力だ」

「おーい我輩の話を聞いているか?」

「こっちのセリフだバカヤロウ! 映画の撮影を邪魔するどころか、出演者を丸太でリンチにかけようだなんて、現行犯逮捕に決まってんだろうが!」


 客観的情報――いきなり映画の撮影現場に軽トラックが突っこんできて、搭乗者全員が丸太で武装していた。しかも吸血鬼の衣装を着た出演者へ殴りかかろうとしたのを大勢のエキストラが目撃している。


 …………はっはっは。現行犯逮捕だなぁ、こりゃ。


 ――こうして我輩たち長屋同盟は全員仲良く逮捕された。さすがに勘違いだったことは認めてもらえたが、社会奉仕の刑罰を命じられたので、某講談社の社屋を清掃することになったとさ。

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