70話 メタ展開でメタ展開なメタ展開
みんな忘れていたキャラクターがいないかな? 長屋の住民のはずなのにほとんど出てこなくなったやつだ。ちなみに我輩は忘れた。本当だ。なんだか【D&G】とかいう会社の社長をやっているいけ好かないやつだったような気がしないでもないが……。
「僕だよ伝助だよ記録を調べたら僕が最期に出たの三ヶ月前だぞ! メインキャストの一人だろ! もっと大事に扱えよ!」
伝助は彫刻品みたいに整った顔立ちを崩すほどに激怒していた。まったく余裕のないやつだな。高級なスーツやら革靴やらが泣いているぞ。
「別にいいだろう。伝助なんておまけみたいなものだし。ほら我輩こうみえて忙しいのだ。久々に出演できたんだから、納得したら会社に戻ってくれ」
我輩はデッキブラシで長屋周辺の道路をこすっていた。野鳥が子育てする時期なので木陰や電線の下にフンが増えたのである。
「っていうかおかしくないか暮田さん。出演が減ったの僕だけじゃないぞ」
「しょうがないだろう。この作品はWEB小説なんだ。登場人物を増やしすぎて、読者が脳内にメモリしておける限度を超えてしまったから、一種のリストラが行われたわけだ」
「オークやゴブリンなんかの魔界組もクビにしたのかい?」
「いや、彼らは、ごくたまーに出すぐらいでちょうどいいのではないかと作者は考えているみたいだぞ」
「なら僕は?」
「未定だそうだ」
「こらああああああああああ! 僕みたいなイケメンで金持ちで紳士なキャラを意地悪するなんて作者め、なにを考えてるんだ!」
なんと伝助は第四の壁をぶち破って、作者に殴りかかった! すごいな伝助! 暮田伝衛門シリーズは20万字を越える長編となったが、作者に直接攻撃を仕掛けるやつは初めてだぞ! 我輩ですらやらなかった禁断のネタを使うなんて、伝助は歩く火薬庫みたいなやつだな。
そんな伝助の攻撃だが、まるで悪役プロレスラーみたいに凶器を使って作者の頭を連打していた。むぅ、なんて残虐ファイトだ。よっぽど出演を減らされたことが腹に据えかねていたらしい。
そして作者はといえば、防戦一方となっていた。どうやら自ら生み出したキャラクターに攻撃されるとは思ってなかったらしい。しかし作者にも意地があった。キーボードを操り伝助に反撃開始。
【伝助はある日突然一文無しになってしまう】
タイピングされた文字が我輩の眼前に浮かび上がると、伝助の高価な服が穴だらけの量産品となり、髪も歯も皮膚も不健康になった。
「お、の、れ、作者め! キャラの設定を壊してまで僕を封じ込めたいのか!」
伝助も負けじと作者に追加攻撃を仕掛けた! あ、パソコンだ、パソコンを殴りはじめたぞ!
「よせ伝助! 怒る気持ちはわかるが、パソコンが壊れたら我々の活躍が描かれなくなってしまうぞ!」
我輩も第四の壁を飛び越えると、伝助を羽交い絞めにした。
「離してくれ暮田さん! 作者のパソコンさえ壊してしまえば、僕たちは小説投稿サイトに生息する電子データとして生き続けられるんだから!」
「そんなサイバーパンクなことをいってもお前の出番が増えることはないのだぞ」
「僕は出番がないことに耐えられない。だったらいっそのことみんなを巻き込んで自爆してやる!」
伝助は過激なことを言いだすと、シャツをめくった。なんと腹にダイナマイトが巻かれていた!
そこまでやるか伝助!?
しかし作者も譲歩するつもりはないらしく、伝助に設定を付け加えた。
【伝助は自作パソコンマニアになったので、パソコンを攻撃することができなくなる】
伝助は自爆スイッチを押せなくなり、傷ついた獣のように唸った。
「おのれ作者め。パソコンを愛する人間の気持ちを悪用するとは――だがパソコンを愛するからこそ、作者のパソコンが憎い! こんな低スペックパソコンで僕たちを書くなんて侮辱だ!」
いや小説を書くのにスペックの高低は関係ないだろう……悪い意味でパソコンオタクみたいなことを言いだすなんて、やっぱり作者の設定変更は強力だな。
というわけで作者よ、我輩の境遇をもっとよくしてくれ。
【調子に乗っていた暮田伝衛門は魔界からの送金が停止してしまった】
おいやめろ! 今月は欲しいゲームもガンプラも漫画もあるんだぞ!
おのれ作者め。調子に乗っているのはお前ではないか。こうなったらキャラと作者の意地をかけた勝負だ。
我輩は、一人称を放棄した!
――――――――三人称で書くことを余儀なくされた作者は混乱した。この物語は暮田伝衛門の一人称でないと都合が悪くなる部分が多数生まれているのだ。たとえば暮田伝衛門の兄である一等書記官なんて名前すら考えていない。そもそもコメディタッチの物語だから一人称を採用したのに、三人称で書いたら硬い文章になってしまう。
そんな作者の葛藤をあざ笑うかのように、暮田伝衛門は鋼のように硬い翼を揺らしながらくつくつと笑った。
「どうだ参ったか作者め。三人称になるだけで現代ドラマ風味になってしまったぞ。もはやギャグ作品だと思う読者はいまい」
作者は焦った。このままではコメディ要素が消えてしまう。だが創作者の意地があった。自ら生み出したキャラクターに負けてしまっては名折れなのだ。
作者は奥の手をタイピングした。
【物語を伝助の一人称に変更する】
――――――――ついに僕の時代きたあああああああああ! はっはっは、暮田さんの一人称なんてどう考えても間違いだったんだよ。だってグレーターデーモンだよ? ほらWEB小説って読者の共感を強く求められるから、あれこれ工夫するわけじゃない。人外を視点キャラにする時点でリスク背負ってるんだよね。その点、僕は人間だから読者も共感しやすいってわけ。
ね? ね? みんな僕に共感したでしょう?
……あれ、カクヨムでは☆が剥がされるし、なろうではポイントが消されてる……? おいやめろよ! まるで僕が視点キャラになるのが気に食わないみたいなリアクションは! うわああああやめてくれ、人気がなくなった作者は更新を放棄するのが通説だから!
こうなったら最後の手段だ。WEB小説らしくずる賢い手を使ってやる!
複数アカウントのオンパレードだ!
――――――このアカウントは規約違反により削除されました。
【というエンディングが怖いから、やっぱり暮田伝衛門の一人称でオチを作ろう】
よかったよかった、我輩の一人称に戻ったな。ちなみに伝助だが、複数アカウントを使おうとした罰で作者から説教されているぞ。今日は我輩ではなく伝助が説教されるオチでおしまいだ。じゃあまた次回会おうな!




