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33話 新年早々馬車で宴会 東京大混乱!

 ちょっと事情があって、魔界組でパーティーを結成して元旦の東京を冒険することになった。


 我輩【グレーターデーモン】、ゴブゾウ殿【ゴブリン】、ミノル殿【ミノタウロス】、オージロウ殿【オーク】の四人パーティーだ。平均的なRPGならバランスが取れた人数だ。職業と長所が偏っている気もするが、細かいことは気にしない。だって元旦だから。


「みんなすまない。元旦出勤になってしまって」「漫画家もたまには休みが必要でござる」「元旦の東京も興味深いべさ」「お料理の匂いがいっぱいするんだな……!」


 ゴブゾウ殿以外は重量級なので、一ヶ所に集まるとプロレスラーの行脚に見える。我輩200キロ、ミノル殿300キロ、オージロウ殿400キロ。そこへゴブゾウ殿の体重と各員の装備品を合体させればパーティーの体重は約1000キロ=1トンである。


 めちゃくちゃ目立った。街頭テレビのアナウンサーが引きつった笑顔で「あのぉ……プロレスラーさんたちは、元旦から東京でなにをしていらっしゃいますか?」と聞いてきたのでこう答えた。


「宝船を探しているのだ」


 適当にあしらったわけではなくて、本当だった。


 ――地球に宝船の伝承が伝わっているが、魔界が関わっていた。七福神は地球製だ。しかし船が魔界製だった。昔から関わりがあったということだ。


 だがその船が、魔王殿のせいで行方不明になっていた。


 あれは年末最後の日のこと――芸術志向の魔王殿は芸術祭りで年を越したいというので、わざわざ宝船を持ち出してクラシックコンサートを開いたのだが、べろんべろんに酔っ払った末、運転を誤って空間を飛び越えて、東京のどこかに落ちたのだ。


 本当にバカな人である。ちなみに魔王殿は兄上に年越し説教されて新年を迎えた。


 ――アナウンサーが引き笑いしながら「こ、古風なご趣味ですね。きっと初詣で見つかりますよ。おほほほ……」と答えるなり、次の人間へ質問しにいった。


 初詣か。もしかしたら地球の神社に落ちているかもな。とにかく我々地球と親交がある魔界組で発見しなければ。四人の得意技を活かして。


「オラ、食べるのが得意技なんだな……!」


 オークのオージロウ殿がお城から超大型の馬車を持ち出して、荷台に食料を満載してきた。元旦だけあって魚から肉までなんでもあって、きっちり調理器具まで揃っている。さすが食べるのが得意というだけあった。


 冷静に考えれば「東京で馬車に食料って!」みたいにツッコムところだ。しかし元旦出勤だから、いっさいツッコまない。


 馬車で出発進行だ!

 

 がたんごとんがたんごとんっと、舗装されたアスファルトを木製の車輪が転がっていく。なお牽引する馬は通常の二倍サイズだ。我輩たちは合計1トンの重量級だから普通の馬だとバテてしまうので、魔界の駿馬を持ってきた。顎も胃袋も頑丈だからちょっと目を離すと街路樹をばりぼり食べてしまう。


 なら我輩たちも食べるかということになったのだが?


「暮田さん、オラ、料理は苦手なんだな……!」


 さすがオージロウ殿、食べるのが得意でも料理はできない! というわけで料理の得意な我輩が調理していく。もちろん走行中の馬車にガスはないから魔法で炎を生み出してフライパンを加熱。じゅうじゅうと肉と魚を焼いたら、みんなヨダレを垂らした。


 あっという間に料理が完成すると、どうせだから酒も振舞った。もはや普通の宴会である。ぶっちゃけ仕事をする気が失せてきた。なんで魔王殿の愚行に我々が尻拭いせねばならんのだ?


「一番、暮田伝衛門、故郷の歌を歌うぞ!」


 熱唱! 酒が入っているから、音程がうまくとれない。他のメンバーも素っ頓狂な調子であわせてきた。


 ちなみに魔界の歌は、聞いた人間がいかに失神できるかが評価点だから、道路の人間たちがバタバタ倒れていく。だが気にしない。元旦出勤で真面目に仕事をする気がないからだ。


『そこの馬車止まれ! 迷惑だ!』

 

 警察のパトカーが追いかけてきた。


 するとミノル殿がパトカーに向かって「宴会の邪魔をするのはよくないべ」と即興で彫った石像を投げ飛ばした。題名【無粋なやつ】――がつんっとパトカーのボンネットに突き刺さってエンジンが煙を吹いた。


 ひゅーひゅー! と我輩たちはミノル殿に拍手した。この調子で宴会を楽しもう。


 え、宝船? どうでもいい。どうせ見つからなくても魔王殿が兄上に説教されるだけだ。


 わいわいがやがやと騒ぎながら大型馬車が進んでいく。進んできた道筋には、初詣に向かっていた人間たちが何千人と失神しているが、やっぱり気にしない。元旦出勤だからな。しょうがない。


 いきなり上空から山のように巨大なブラックドラゴン来襲! 宝船をがっしり手に持っていた。


「魔王に伝えておけ! 神社に落ちてた宝船を拾ったから、返してほしくば俺と勝負しろと!」


 ブラックドラゴンは、昔から魔王殿と意地の張り合いをやってきた。だが我輩たちには関係ない。元旦出勤だからだ。


「宝船などどうでもいい」「元旦から仕事なんてしたくないでござる」「ブラックドラゴンさんもお酒を飲んだほうがいいべ」「今日は鯛の塩焼きがうまいんだな……!」


 ブラックドラゴンに酒と鯛を振舞った。


「…………もういいか。俺も仕事してる場合じゃない」


 ブラックドラゴンは宝船をぽいっと道路に捨てると、宴会に加わって魔界の歌を歌った。さすがにブラックドラゴンの巨体が歌声を発すると、常軌を逸する失神音波となって、東京が麻痺していく。だがまったく気にしない。元旦出勤だからしょうがないな。


 気づいたら自衛隊が出動していた。


『そこの馬車止まれ! 迷惑だ!』


 ゴブゾウ殿が「新年初笑いでござる」と即興で漫画を描いて自衛隊に見せた。彼らはギャグに笑い転げて仕事どころじゃなくなった。その隙に彼らにも酒と料理を振舞ってぐでんぐでんに泥酔させた。


 さすがプロの漫画家、血を一滴も流さずに軍隊を退けてしまった。宴会メンバーたちがぱちぱち拍手した。さぁもっと酒を飲んで気分をよくしようではないか!


 とんとんっと肩を叩かれた。いつのまにか兄上が立っていた。

 

「我が弟よ。宝船ならこちらで回収しておく。だがほどほどにしろよ」

「兄上も飲まないか? 元旦から仕事したら頭がますます固くなるぞ」

「お前は地球へいってから柔らかくなりすぎだ」


 元旦でも兄上は真面目に仕事をして、魔界に戻っていった。まったくなんて堅物だ。ちょっとはサボればいいのに。我輩たちみたいに。


 こうして我輩たちは馬車の食べ物が空っぽになるまで宴会を続けた。馬車を牽引してくれた馬にも、たらふくうまいものを食わせてやった。

 

 みんな眠くなったので、ぐーぐー路上で眠ったのだが――あとで聞いた話によると、律儀な兄上がわざわざ戻ってきて、我輩たちを拾って魔界の宿泊施設まで運んだらしい。


 ――――あとで聞いた話。我輩と魔王殿は広大な城の大掃除を二人だけでやることになっていた。我輩は宝船を探すのを放棄した罪、魔王殿は宝船をなくした罪で、社会奉仕活動であった。

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