26話 花子、帰還する!
しんみりしたと思ったらギャグへ転換してすべてが台無し。いつもの流れですね
我輩と、丸顔警察官の間島が、成仏した花子のために深夜営業のドン●ホーテで菊を買おうとした。
だが夜空がチカッと光ったと思ったら、ひゅーんっと空から花子が降ってきた! なんと背中に天使の翼が生えていて飛んでいるのだ!
「わんわん! もう少しだけ現世で遊べることになったワン!」
しかも言葉まで操れるようになっていた!
「感動が台無しである……」
「こいつは予想外のどんでん返しだな……」
我輩と間島は唖然とした。
「電柱からポスターを剥がしたことで景観が綺麗になったから、神様が特別許可をくれたワン!」
ひょいっと復活した花子を抱きあげてみた。体温はあるし、半透明でもない。さすがに神様の特別許可というだけあって魂は仮初のモノだったが、天使の翼は本物だった。
ちなみに大阪の夜道を歩く人々は「まぁ! 翼のついた犬!」「かわいいね」「コスプレかな?」と話していた。前回と違った他の人間にも見えているわけだ。
問題――我輩は、どうやって動物を長屋に持ち帰るでしょうか?
答え――これは犬ではなく天使だと言い張る。
「大丈夫か過激派? それ、麻薬が見つかった容疑者が小麦粉だって言い張るやつだぞ」
「しかし、我輩は花子を見捨てられない。意地でも飼ってやるさ」
「民事不介入だからなぁ。俺には助けられるところまでしか助けられんぞ」
というわけで大阪からパトカーを夜通し走らせて、早朝の長屋〈霧雨〉へ帰還したら、花江殿が管理人室から飛び出してきた。
「ついに一晩警察のお世話になるようなことしたんですかっ!」
「ち、違う! いやまぁ、警察のお世話になるのは一度や二度ではないのだが」
「えぇ!? そこまで悪人だったんですかっ!?」
「いや、悪人ではなくて誤認逮捕がほとんどだったのだが……とにかく今日も悪い意味ではない。こちらの丸顔の警官、間島が保障してくれるぞ」
間島が制帽を脱いで、お辞儀した。
「管理人さん。たしかに悪いことはしてないんです。そのぉ……犬を持ち帰ったこと以外は」
とんでもない。我輩はなにも悪いことをしていない。堂々とすればいいのだ、堂々と。だから柴犬から天使へ変化した花子をじゃじゃーんっと花江殿に見せつけた。
「犬じゃないですかっ! まったくもう、なんでも拾ってくるんじゃありませんっ! うちの長屋は動物禁止なんですよっ!」
「意義アリ! 花子は犬ではなく天使だ! だから動物禁止のルールに抵触しない!」
最近やっていた携帯ゲームのセリフで反論したら、天使になった花子がわんわんっと吠えた。
「今わんわん吠えたじゃないですかっ! わんわん吠えるのは犬と相場が決まっていますっ! やっぱりこの子は犬ですっ!」
「だったら花子の翼を触ってみるがいい。本物だ」
「さわさわ。た、たしかに本物の翼です……しかし臭いは完全に犬ですね。犬くさいです」
花江殿が鼻をつまんだら、花子がぶるるるっと水を浴びた犬みたいにドリルした。
「大丈夫だワン、あたいちゃんとお風呂に入るワン」
「しゃ、喋ったっ! 犬なのに喋ったっ!」
花江殿が軽く混乱している。これは攻めるチャンスだ! 逆転裁●で鍛えた弁論パワーで花子を飼うことを認めさせるのだ!
「そらみたことか! 翼が生えていて人間の言葉を操るなら、花子は完全に天使だ! 見た目だって愛らしいし!」
「お、おのれ暮田さんのくせに……これは公正なジャッジが必要ですね」
「では丸顔の警官、間島に頼もう」
「ダメです。その人は暮田さんよりの人物なので」
丸顔の間島が、ぎょっとした。
「お、俺が過激派よりの人物だなんて危険な風評は流さないでくれ! 仕事クビになっちまう!」
「いいえあなたがたは長屋に動物を持ち込もうとする過激派です。やはり川崎さんみたいな公正な方に頼まないと」
というわけで大学生の川崎を引っ張り出した。彼は理系の大学生なので宿題の量がハンパじゃなかったらしく、とても迷惑そうな顔をしていた。
「僕、こういう損な役回りばっかりですね……」
とにかくみんなの期待を一身に背負って、川崎が公正なジャッジを下そうと花子の目線に合わせた。
花子はとことこ川崎の足まで歩いていくと「あたい、この大学生好みだワン!」しゃーっとおしっこでマーキングしてしまった!
川崎はずぶ濡れになったズボンのスソに怒りを覚えたのか、眉間にしわをよせてジャッジを下した。
「マーキングするのは犬です。この子は天使ではなく犬です」
ガーン! まさかの敗訴! だがどうすればいいのだ。花子はせっかく現世に戻ってきたのに、ひとりぼっちで暮らすのか。
悶絶する我輩に、花子がポンっと肉球で触れてきた。
「いい忘れたんだけど、あたい天使だから、普段は空を飛んで冒険してるワン!」
ぴゅーんっと翼を使って花子は青空へ飛んでいってしまった。
……我輩たちが裁判風味に争った意味はあったのだろうか。
――数日後、某公園にて、とある猫がうんざりしていた。
「我のテリトリーから出ていけよ、翼をもった犬め」
ロングブーツをはいた猫、略してロン猫が新しい住人に文句をいった。
「あたい、この公園が気に入ったワン。冒険の拠点にするからよろしくワン」
天使になった花子が、ロン猫にすりすりと鼻先をこすりつけていた。




