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我輩は暮田伝衛門(グレーターデーモン)である ~魔界から召喚された我輩が、ついに地球人とエルフの嫁を手に入れた(こらー! わたしたちが楽しみにしてた冷蔵庫のプリンを勝手に食べたの暮田さんでしょ!)~  作者: 秋山機竜
軽いネタ切れを起こして、メタと時事ネタとパロディが増えてカオスになってきたぞ。我輩は悪くない。作者が悪い。

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22話 家族と帰る場所

 お気に入りのパン屋で、いつものようにカレーパンを購入したところで、ふと気づいた。


 我輩、ついに町へ完全に馴染んだようだ。今までは見た目がグレーターデーモンだから、店員にジロジロ見られたり、通行人にこそこと陰口を叩かれることもあったのだが、今日は素通りされた。


 さすがにカーネルサンダース人形を見るときみたいな視線は受けるが、宇宙人を発見したときのような警戒混じりのものはなくなっていた。


 そろそろ我輩も地球に順応したかな? なんて考えながら帰路につくと、商店街で八百屋のおじさんに挨拶された。


「やぁ暮田さん。マロパン好きなの? いつも食べてるけど」


 マロパン――お気に入りのパン屋の略称であり、地元でしか通用しない単語でもある。外部の人間には使わない言葉だろうから、我輩は地元民として受け入れられたんだろう。


「うむ。焼き釜に残っていた別商品のチーズが、カレーパンの底にくっつくのだ。それが絶妙なハーモニーをかもしだすから、いつも買っている」

「マニアックだなぁ。今度はうちの野菜も買っていってよ」

「ふーむ、なら今夜は鍋にするか」


 というわけで八百屋で買った野菜で鍋を作ることにした。一人で食べるのも寂しいので、誰か誘う。鍋といえば花江殿だが残念ながら留守。高校生の園市は授業中。大学生の川崎が休講だった。


「暮田さん。料理も上手ですよね」


 川崎が煮こまれたダイコンを、はふはふと食べた。


「父上の狩りに付き合って、そのまま料理することが多かったのだ。最近はめっきり減ったがな」


 こたつにカセットコンロを乗せて、鍋を加熱していた。肉は少なめだ。川崎みたいな若者は野菜が不足しがちだから、スープは緑黄色で埋まっていた。


「狩りですか。高級な趣味ですね」

「定年退職で引退した人だから、力と時間をもてあましているのだろう」

「うちの父は、普通のサラリーマンです。ただ、今の時代だと普通にサラリーマンやれることが恵まれてるなんていわれちゃって、自分の将来を考えちゃいますよ」

「川崎は、将来なにになりたいのだ?」

「僕は……ゲームの仕事に就きたいです」

「そうだな。ゲーム、詳しいものな」

「でも、厳しい業界だから」

「応援はしたい。だが才能や運が強烈に相関する業界だから、全力で推すわけにはいかないな」

「ヘンなところでシビアですね」

「仕事が仕事だからな」


 なんてところで川崎のスマートフォンが鳴った。彼はちょっと失礼しますと前置きしてから通話して、すぐ絶句した。


「えっ、父さんが職場で倒れたの!?」


 短い言葉のやりとりの後、ぴっと電話を終わらせると、川崎は青い顔になった。


「暮田さん。どうしたらいいんでしょう」

「容態が悪いのか?」

「わからないんです。母も取り乱していて、すぐ電話切られちゃって」

「なら我輩が故郷まで送り届けてやろう。急いだほうがいいかもしれないからな」


 川崎を背中に乗せると、びゅーんっと空を飛んだ。彼の地元は東北だという。寒い地方であり、飛べば飛ぶほど空気が冷たくなっていく。我輩は寒さに耐性がある。しかし川崎はコートを着ても震えていた。


「暮田さん。本当はどこから来た人なんですか?」

「魔界だ。信じるか信じないかは任せる」

「信じますよ。だってとんでもない速度で空を飛んでますから」


 川崎の故郷へ到着した。地方における都会なのだろう。駅前の発展具合は首都圏に負けていなかった。我輩が病院前へ着陸すると、うわぁっと警戒心丸出しで注目された。懐かしい目線だった。地球へ召喚された当初は、この目で見られていた。地球人からすれば当たり前の反応なのだが、ちょっとだけ寂しかった。


「暮田さんは、悪い人じゃないのに」

 

 川崎が小声で文句をいった。それだけで我輩のちょっぴり傷ついた心が癒された。


 それはさておき、川崎の父上殿の病室を訪ねた。

 

「なんだ健吾。こんな早く帰ってくるなんて飛行機でも使ったのか」


 父上殿は普通に病院食を食べていた。顔色は良好であり、声にも張りがある。どうやら大事ではなかったらしい。


「なんだよ! 元気じゃないか! 心配させるなよ!」


 川崎が叫べば、四人部屋に相席する三人の患者たちが、ちらっと目を向けてきた。羨ましがる人、微笑ましいと思っている人、うるさいと思っている人。まさに三者三様であった。


 とにかく父上殿に詳しい容態を聞いてみると、過労だそうな。もう検査は終わったので明日退院するという。母上殿はせっかちな人だから、ろくに情報を確かめないまま電話してきたのである。

 

「息子がお世話になりました。飛行機に連れ添ってもらったんですね」


 父上殿がぺこりとお辞儀した。きっと翼で空を飛んできたといっても信じないだろう。


「同じ長屋に住む縁があるゆえ」


 とだけ告げたところで、母上殿も病室へやってきた。家族水入らずというやつが大事だろう。我輩は病院の外で待つことにした。


 いきなり足元に魔方陣が浮かび上がって、兄上が出現した。相変わらずたくましいグレーターデーモンだ。角の密度も、毛皮の濃さも、筋肉の厚さも、魔力の量も、我輩の倍はあった。


「わが弟よ。父上が倒れたぞ」


 ほんの一瞬だけドキっとしたが、兄上の顔を見て別の意図を察知した。


「嘘だな。建前をつくって我輩を魔界に呼び戻すつもりだ」

「よくわかったな。なんでもお見合いをさせたいらしい」

「放っておいてくれ。というか、なんで倒れたことが嘘だと認めた?」

「父上は引退してから鋭さを失った。次男に会いたいがために嘘をつくなど愚の骨頂だろう」


 そういうことか。お見合いすら建前で、次男の顔が見たいだけなのか。父上、老いてしまったのだな。


「だったら、なんで兄上は我輩に直接建前を伝えにきたのだ?」

「うちの一族で結婚していないのはお前だけだ。そろそろ身を固めるのだな」


 よけいなおせっかいをした兄上は魔方陣に引っこんで、入れ替わりで川崎が病院から出てきた。


「暮田さん、東京に帰りましょう」

「もういいのか?」

「母はですね、父が倒れたついでに息子を呼び寄せようって魂胆だったんです。まったく浅知恵ですよ。困った親です」


 どこの家族も似たようなものなのかもしれない。


「では、帰るか」


 長屋〈霧雨〉に帰る。あそこは帰る場所なのか、それとも身を寄せているだけでいつかは離れる場所なのか。

 川崎にとっては、巣立つ場所だ。大学を卒業したら、東京で就職するか、地元へ帰る。

 

 ほんのり寂しさを感じながら空を飛んで長屋へ帰ると、ちょうど花江殿と園市が帰ってきた。


「我輩の部屋に鍋がある。今から温めなおすから、一緒に食べよう」


 初期のころに知り合った花江殿、川崎、園市でこたつを囲んで、鍋パーティーとなった。


 いつかは、この団らんも味わえなくなってしまう。学生である川崎と園市は、新しい人生を歩むために巣立っていく。他の入居者たちも人生の転機を迎えれば、長屋を離れることだってあるだろう。


 だが花江殿は、ずっと長屋を守り続ける。

 ここに帰ってくれば、必ず彼女に会えるという安心が生まれる。

 我輩は、どうやら魔界へ帰るより長屋へ帰ってくることに安堵するようになったらしい。

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