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我輩は暮田伝衛門(グレーターデーモン)である ~魔界から召喚された我輩が、ついに地球人とエルフの嫁を手に入れた(こらー! わたしたちが楽しみにしてた冷蔵庫のプリンを勝手に食べたの暮田さんでしょ!)~  作者: 秋山機竜
魔界から個性的な友人がやってくるようになったぞ。あと我輩が本格的に仕事をサボるようになってきたぞ。

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20話 唐辛子キャンディーから始まる商売の架け橋 その先に待つものは?

 最近あめ玉にハマっていた。暇をみつけては口の中でモゴモゴ転がしている。味によって幸せが変化して、お気に入りは抹茶味だった。みんなも知っているように我輩は甘すぎる味が苦手なので、抹茶味やブラックコーヒー味がお気に入りだ。


 めずらしく長屋へ戻ってきた伝助が、いつもの甘いマスクで話しかけてきた。


「うちの会社のあめ玉をたくさん舐めてるけど、喉を痛めてるのかい?」

「いや、おいしいから舐めているのだ。お前の会社は渋い味を作らせると天下一だな」

 

 糖分控えめあめ玉は、伝助の会社【D&G】が安定供給していた。


「そんなに褒めてもらえるとはね。だったら、わが社の新商品を暮田さんに試食してもらおうかな」

「お前が我輩に試食させるときは変化球と相場が決まっている」

「正解。はい、唐辛子キャンディー」


 真っ赤な包装紙に、黒い文字で商品名が記載されていた。どっからどう見ても七味唐辛子と同じデザインである。こういう変化球の味を好んで食べるやつだと思われているわけだ。少々腹が立ったから、細かく酷評してやろうと思って、モゴモゴ口の中で転がした。


「…………おや、うまいではないか。ただし条件つきで」

「やっぱりか」

「味はいいのだが、包装紙のデザインもあいまって、ソバに七味唐辛子をいれて食べている気分になる。これはうまい加工食品かもしれないが、断じてお菓子ではない」

「それなんだよ、困ってるのは。味は文句なしでうまいんだよね。でもお菓子じゃないんだよ……」

 

 お菓子よりご飯のおかずだろうなぁ……。

 ご飯のおかず――ピンっと閃いた。


「逆の発想で、ご飯のおかずとしてあめ玉を売り出したらどうか? たとえば、ソバに浮かべて食べるとか、金平糖と同じぐらい噛み砕きやすい硬度にして、白米にふりかけて食べるとか。もちろん普通に舐めてもいい」

「おもしろい! やっぱり大事だよね、マニアにしか売れない商品!」


 さっそく唐辛子キャンディーが発売されたのだが、予想どおり新商品マニアと辛党マニアにしか売れなかった。以前のアイスクリームのときと同じ流れだ。


 しかし発売から二週間後、嬉しい誤算が起きた。伝助が息を切らせて我輩の部屋に飛びこんできた。


「暮田さん、すごいよ! 海外で需要があったんだ! ロシアやカナダみたいな寒い国で売れまくってる!」


 商品の長所として計算していなかったのだが、舐めるだけで体内が活性化して温かくなるようだ。おまけに味もいいわけだから、通勤通学のお供に需要が発生していた。


「どこに商売のチャンスが転がっているかわからないものだなぁ」


 しみじみといったわけだが、発売から一ヵ月後、また誤算が起きた。ただし悪い方向で。

 

 伝助が、しおれた大根みたいな顔で我輩の部屋へ入ってきた。


「はっはっは……現地の企業にギリギリの線でパクられたよ……くそっ、ずるいなぁ……」


 寒い国の企業は、唐辛子キャンディを自国向けに微調整を加えて売りだし【D&G】製品を駆逐してしまったという。もし訴えても、味も包装紙も微調整されているから勝ち目はない。最初から味のバリエーションを豊かにしなかった伝助の失態というわけだ。


 我輩は、落ちこむ伝助に緑茶を出した。


「これを飲んで元気を出せ。しかし商売の世界は理不尽がつきまとうものだな」

「まぁ元々マニア向けに発売したやつだから、大幅に黒字なんだけど、でも利益横取りされると腹が立つよ」


 伝助がちゃぶ台をゴンっと叩いて、緑茶の水面がゆらゆら揺れた。


「だったら勝負するか伝助。微調整合戦だ」

「やろう! 負けてられないからね!」


 というわけで味のバリエーションを増やして、宣伝も角度をかえて、売れそうな国の味覚にあわせて微調整をくわえて、販売規模を拡大した。


 大成功である。記録的な売り上げ。あらたなお客さんとビジネスパートナーの誕生。伝助は上り調子になった。

 

 だが手法そのものに版権はないため、海外の企業も同じ方法で販売規模を拡大して、仁義なき戦いになってきた。


「で、伝助。そろそろ手を引いたほうがいいのではないか……?」


 ひかえめに進言したのだが、伝助の目は血走っていた。


「負けてたまるか……! 僕は、こういうマニアックな味で負けたくないんだ……!」


 彼の人生の汚点に、甘ったるいアイスクリームという象徴がある。若くして大企業を興して天狗になった伝助は、すべての友人を失った。その際、怒った元親友に投げつけられたのが、甘ったるいアイスクリームだ。おそらく唐辛子キャンディは、彼の汚点を連想させてしまうのだろう。


「気持ちはわかるのだが、発展途上国の胡散臭い業者も参入してきたから、まずいと思うのだ。それに販売規模を拡大しているから、失敗すると従業員にもダメージが……」

「大丈夫だよ暮田さん。だって僕は負けないからね」

「大負けするギャンブラーみたいなことをいっているな」

「まぁ見てなって。今度は世界の市場を制覇してみせる」


 …………もしかして、伝助が天狗になって友人を失ったときって、こんな雰囲気だったのでは? 感情的になっているから止めるのは難しそうだ。

 

 こうして【D&G】は継続して唐辛子キャンディで勝負することになった。


 だが、やっぱり、予測どおり、発展途上国のマフィアまがいの企業が違法上等の海賊品を低価格路線で売り出した。一度モラルが決壊すれば、世界中の違法上等な連中が集まってきて、粗悪な商品を市場に流通させることになる。


 その結果――変化球あめ玉ブームそのものが終焉した。


 伝助の【D&G】は拡大しすぎた販路の反動がやってきて、事業本体にまで亀裂が走った。経済新聞で特集を組まれるほどの痛手である。


 伝助が我輩の部屋に、こそこそ逃げこんできた。


「く、暮田さん。しばらくかくまってくれ。キレた株主たちと、撤退整理した従業員に追われてるんだ」

「株主などどうでもいいが、解雇される従業員の味方をしなければならないのでな」

「暮田さん! お慈悲を!」

「痛い目にあってこい。アイスクリームのときと同じように」

 

 ぽーいっと伝助を部屋の外へ投げ飛ばす。どしーんっと尻餅をついたところで、怒った株主と元従業員に囲まれた。


「ひぃいいー! 命ばかりはおたすけを!」


 なおボコボコにされた伝助だが、長屋の住人にも白い目で見られるようになったので、解雇した従業員の再就職先を必死になって探したという。

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