美味しい経験値は意外な所に……
豚と狼の鬼ごっこは唖然とする俺らを他所に意外な決着方法で終わる。
「ちょ、お前ら本当我を何だと……やめて!」
「ガルゥッ!!」
「ちょ、そこはマジの尻尾だから……いい加減にせぇやゴラァッ!!」
お尻に噛み付いたワイルドウルフに対し、腕だけ悪魔に戻したまおはワイルドウルフの頭を掴み、地面に叩きつける。そして、豚の足で2本立ちしたまおは、豚の胴、悪魔の腕、人間の顔と言う最早何になりたいのかわからない姿でワイルドウルフを指差す。
「キュピキュピキュキュッ!!」
「何でそこでスライム語なんだよ!!」
「クゥン……」
「しかも通じてるし!すげぇなスライム語!!」
やがて大人しくなったワイルドウルフ達は森の中へと帰り、異形となったまおは姿を戻さぬまま殺めたワイルドウルフを引きずりこちらに歩み寄る。
「あぁご主人様怖かったですぅ!」
「今のお前程悍ましいものはない」
「酷い!ほら、目的の食材ですよ!こんなに頑張った我を無碍に扱わなくてもっ」
今回はしっかりと不満があるらしいまおは、ドヤ顔でこちらを見つめる。だが、そんな異形の魔王は当初の目的を忘れていたらしい。
「確かに夜営する分の食事は出来た。そこは認めよう。だがな……
俺の目的は経験値だぞ」
「ごめんなさい今すぐ呼び戻しますぅぅぅぅぅ!!!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
結局、普通に探して回ることにした俺らは使えない魔王を縛ったまま市中ならぬ林中引きずり回しながら何とか3匹のワイルドウルフと出会い、勝負を申し込んでは勝利を重ねた。
「こんなものか。中々大変だな、モンスターブリーダーも」
『うむ。だが未経験にしては中々良い指示だったぞ』
「まぁな。これでもこないだまでサモナーとして活躍していたからな」
『成る程。それでこの才覚か』
愛らしい顔を縦に動かし頷く?コバルト。だが、別にこんなのは誰でも出来ることだ。サモナーとして活躍していたのはネトゲのギルド内だけの話。PvEに特化した職だった為PvPは一切触らずひたすら狩りをしては競売、欲しい物を買っては狩りを行うだけだった。おかげでギルド内では『ソロ狩りの達人』『レベリングのプロ』『ぼっち界の賢者』など言われていた。あれ、最後のよくよく考えたら悪口じゃね?
「さてと、そんな俺のレベルはどうなったのかな?」
俺は道具屋で購入した『自己診断の玉』を取り出す。これは自身のステータスを確認する為の道具で、自分の今のレベルや能力、スキルなどを確認する事ができるいわばメニューのステータスの役割をしている道具だった。
取り出した玉を両手で支えると光が溢れ出し、その内容を見た俺は驚きの声をあげた。
「嘘だろおい……こんなに経験値美味しいのか?」
そこに書かれていたレベルは28。たった三体で27も上がっているなんてこんな美味しい話はない。しかし、その成長の理由は直ぐにわかる。
「あ……多分我を殴ってるからだと思います……」
「えっそんなので経験値手に入るの?」
「僅差や格下のレベルの場合は入りませんが……我とご主人様はレベルが100以上違うので」
「何それ?!まおは一体レベル幾つなんだよ?!」
「今255ですね。ざっと計算して200レベルまでは経験値が入りますね」
まおの言葉を聞いた俺はコバルトを見て頷く。
「コバルト、俺は常に最速のレベリングを求めて来た。後は分かるな?」
『任せろ我が主』
「な、何ですか?ご主人様、コバルトさん何か恐ろしいのですが?!」
「吹き飛ばせコバルト!!渾身の体当たりだ!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」
第2ラウンド。少女?と巨大スライムの鬼ごっこが始まった。
「ぐすっ……ひっく……」
「くっそ、無駄に逃げ足が速い。何てやつだ」
結局逃げ惑うまおを捉える事が出来なかったコバルトはスタミナ切れを起こし全身で息をしていた。対しまおは泣きながら大木の天辺にしがみ付き怯えた表情で真下の俺を見ていた。
『すまぬ我が主。魔王閣下はトンズラにおいては大陸一かもしれぬ』
「確かに。よくよく考えれば何だかんだ逃げ切る事に成功してやがる……無傷ではないが」
流石は悪の権化。自身を狙う悪意への感知力は桁外れに高いらしい。
「まぁいい。まお討伐は後日にするとして、俺らは夕食にするか」
気付けば空は夕闇。今日1日を狩りで過ごした俺達は時間も忘れて経験値を狙っていたらしく、モンスターブリーダーとしての初日にしては最高の成果を上げていた。
『我が主よ。実は我が食事は水で事足りるのでな。そこの川に飛び込んできていいか?』
「まじか、コスパ良過ぎだろ行ってこい!」
思わぬ所で金が浮いた俺は歓喜し喜んでコバルトを行かせる。すると、こういう時だけ地獄耳なまおはするすると大木から降り、対抗意識から変な事を言い出した。
「わ、我はご主人様に褒められるだけで腹いっぱいですよ?」
「そか。じゃあ1日3回褒めてやるから飯抜きな」
「嘘ですごめんなさい悔しかったんです!」
即座に掌を返した俺に最早パッシブスキル化してきた泣きつきを発動し、ワイルドウルフのお零れを貰おうと必死にせがむ。仕方なく食べさせながら待つ事一時間。
『待たせたな、我が主よ』
「ちょ、なんか体積増えてないか?!」
コバルトがその図体をさらに肥大させ、目算4m程はあろう体で木をなぎ倒しながら帰ってきた。