初契約!その相手は……
攻撃を命令されたまおはやる気充分で手を振り回すが、ある事に気づく。
「あの、ご主人様。我と契約交わしてないので経験値は勿論我が倒すと仲間になりませんが?」
「えっ」
「えっ」
思わずまおと目を合わせ、何度か瞬きをする。無言で見つめ合う2人の耳には、元気に跳ねるスライムの音が響いた。
「なぁ、まさかまおと契約しないといけないのか?」
「はい、勿論です。しかし、モンスターブリーダーにはレベルに見合ったモンスターしか育てれないので……」
「ヤバい。本格的にこの魔王要らなくなってきた」
頭を抱え蹲った俺は、何故かまおに慰められながらも考えを改める。
「だったら俺の実力であのスライムを仲間にして仲間にするしかない。そしてこの使えない馬鹿とおさらばしよう」
「まって?!今回に限っては我一切悪くないですよ?!」
「煩い!!大体何で魔王なんだよ!普通そこは可愛い女の子のパートナー的な冒険者だろ!何でいきなりラスボスが仲間になろうと媚売ってんだよ!!」
理不尽な迄に言われて泣き出したまおを放っておき、俺はスライムを睨みつける。その視線に気付いたのか、スライムはこちらを見て近づいて来た。大丈夫。俺は冒険者だ。こんな可愛らしいシルエット相手に負けるわけにはいかないー
「あ、あのー……ご主人様大丈夫ですか?」
「これのっ!どこがっ!!大丈夫なんだよっ!!!」
負けました。
昨日の二の舞とも言うべきトランポリン状態で遊ばれている俺は、現在スライム語?で必死に説得をしているまおに心配されながらも巨大スライムの上で跳ねていた。
「あの、ちょっと待って欲しいらしいです。と言うか、妻に相談してみるとか」
「くっそこんな可愛らしいモンスターまでリア充かよ!俺には彼女すら居ないってのに……」
「もし良ければ我が……」
「はぁ。魔王なんて拾わなければ良かった」
「スルーより酷いですよ?!」
結局、巨大スライムの頭に乗ったままスライム達の集落へと向かった俺とまおは、説得に協力する形で巨大スライムの家へと入る。
「キュピッ!」
「キュッキュッ!!」
「キュゥ……キュピピッ!」
巨大スライムとその妻のこれまた巨大スライムは愛嬌のある声を出しながらも真剣な表情?で話し合っている……らしい。はっきり言って全くわからん。
「そうですよね……けど大丈夫です!我とご主人様は無敵です!」
「いや、せめてそこは通訳してくれよ。俺1人だけわかんないのだけど」
だが、珍しく真剣な表情で話し合いに参加しているまおはその声を聞き流し何とか説得している……らしい。やっぱわからん。キュピしか言ってないじゃん。
そんな事を考えつつ3匹?の会話を眺めていると、妻スライムの方が泣きながら?俺に頭を下げてきた。いや、結局どうなったの?
「良かった……これで暫くは安心ですね!」
「いやいや良くねぇよ!内容一切わかんないんだけど?!」
「えっ……ご主人様、スライム語はモンスター界隈では共通語ですよ?」
「俺がモンスターに見えるのならばお前のその目は要らないな。ほじくってプリーストに手渡してやる!」
逃げ惑うまおを追いかける俺。そんな2人を見て微笑んでる?スライム夫妻は、暫しの別れを告げるかの様に熱いキス?抱擁?をした後に俺に頷いた……のか?
「いや、マジでわからん。結局仲間になったんだよな」
「あ、まだです。契約の儀を交わさなければ仲間になってませんよ」
成る程。これは漸くまともな異世界らしくなってきた。
スライムに手を当てた俺は頭の中で契約の儀を念じー
「なぁ、契約ってどうするんだ?」
「えっ」
「えっ」
先行きが更に不安になった。
「仲間にしたいモンスターに手を当てて、『我、〇〇の名の下に契約を行わん』って唱えるだけです。あ、〇〇は自分の名前ですよ?」
「お前程バカじゃねぇよ。見ておけ。
『我、竹倉奏の名の下に契約を行わん』スライムよ、我がしもべとなれ!!」
「キュピピーッ!!」
契約の儀が発動した瞬間、俺と巨大スライムを囲む様に光が溢れる。神々しく輝く光はやがて天を貫く柱となり、俺とスライムの間に契約の絆を結んだ。
「成功した……のか……?」
「ええ、成功ですよ!ほら、契約を交わした今ならスライムの言葉を理解出来るはずです!さぁ話しかけてみてください!」
正に解説役並の言葉を捲したてるまおに言われるがまま目の前のスライムに話しかける。まずはそうだな。名前を聞こうか。
「おし、お前の名前を教えてくれ!」
『然り。我が名はコバルト。スライム族の長にしてこの世のスライムの中でも覇を唱える者よ。よろしく頼むぞ、我が主』
あの、このスライムさん声低すぎじゃないっすか?さっきまで言っていた可愛らしいキュピはどこ行ったんですか?つか完全にまおより魔王みたいな感じなんですけど???
「どうです?」
「うん、まお。今までありがとう。俺はコバルトと共に世界を旅するよ」
「ちょっ、どうしてそうなるのですかぁぁぁぁっ!!」
本日最大級の声量て叫んだまおは必死に泣きつきながら俺に食い下がり、それを見たコバルトは低い声で笑い声を上げていた。