ネトゲの変身イベってこういう状態なんだな
立ちふさがるキリングソードの群れに対し俺らはとりあえず深呼吸し相談を始める。
「おし、じゃあまお倒してこい」
「そんな無茶な?!」
「無茶な事無いだろ。魔王の力見せろよ」
だが、まおは頑なに首を横に振り向かおうとしない。なのでその理由を尋ねてみた。
「キリングソードには特性があってですね……魔法無効なんですよ」
「ほう。じゃあ殴ってこい」
「無理です!!最高級の剣ですら刃こぼれを起こす程彼らの身を包む剣は硬いのですよ?!殴ったらその手が無くなりますっ」
「なんだよその耐性面完璧なモンスター。なんで放置してんだよ!」
「そりゃこちらから何もしなければ大人しいですからね!!触らぬギガントに祟りなしですよ!!」
喚きながら絶対に行かないと構えるまお。だがこのままでは俺らはここで死を迎えかねない。さてどうしたものか……
「困ったわね。普段なら横を通っても問題無いのだけれど。巣となると話は別だし……」
「素直に引き返す?その方が楽かも」
「いや、ここを通る。通り抜けさえすれば目的の所に着くのだろう?」
「そうだけど……どうするのよ」
呆れるノウンに対し俺は脳をフル回転させ知識を絞る。何かネトゲでこんな状況なかったか……?イベントを思い出せ!!終盤では無い。最初の方だ!!何かあった筈……!!!
「……そうだ!あるじゃねぇか!!」
「えっ」
「無事に通り抜ける方法あるんだよ!」
「えっ……本当?」
「ああ。だがそれには奴らの生態を知る必要がある。教えてくれ、ノウン。奴らの生態を……!」
勢い良く詰め寄る俺に若干引きつつノウンはキリングソードの生態を教え始める。俺の考えが正しければ通用するはずだ……。
「分かった。サンキューノウン。これより横断作戦を始める!作戦はこうだー」
俺の説明に驚きながら頷き、各々は準備を始める。このパーティならではの作戦である……!
『……む?見ない顔だが何処の奴だ?』
『ああ、北の大地に群れている。ちょいと溶岩浴に来たんだよ』
『ほう……?何故この時期に?北の大地はまだ先の時期な筈だが……』
『ん?これだよこれ。返り討ちにしたが一応な。用心深いんだよ俺は』
キリングソードの群れに近づくキリングソード。その背中には串刺しになっている俺やノウン、キュリアやコバルトの姿があった。
その背を見た門番役のキリングソードは納得した様子で頷き、巣の中へとすんなり受け入れた。
「な、何とか中には入れましたね……」
「馬鹿普通に喋るなバレるだろ」
キリングソードの巣横断作戦の全貌。それはまおがキリングソードに擬態し、その背に俺らが突き刺さってる風にカモフラージュした状態で先にある溶岩を目指すように見せかけて通り抜ける……と言った作戦だった。
『北の大地からだって?遠い所からよく1匹で来れたな』
『ああ、結構迷ったぜ。もう1匹位連れてくるんだった』
『それはよせ。人間共が困るだろう』
『それもそうだな。はっはっは』
キリングソード独自の言語を使いながら談笑しつつ先へと進む。この点は流石まお。特徴をしっかりと捉えていた。
『ようこそアッスーラへ。溶岩浴だって?』
『そうだ。世話になるな』
『構わんよ。同士じゃないかブラザー』
と言うかさっきから無駄にフレンドリーな奴が多い。あれか?こいつら実は寂しがりなんじゃね?
『背中大量だな。モンスターまで居るじゃねぇか』
『いや、これは道間違えて集落に入っちまったんだよ。襲われたからしょうがなくな』
『成る程な、だから群れで来いと言ってるだろ?俺らはそこまで頭良くねぇんだからよ』
『ああ。次からは皆で来るよ』
何というか話しかけて来すぎじゃ無いですか?余りにも進まないまおに苛立ち始めたキュリアが青筋立ててるのですが。
『さて、余り自分の巣を開けれないからな。仲間に迷惑をかける。先に進むぜ』
『おお、すまんな。ゆっくり刃を休めてこい』
『ああ、すまんな』
漸く歩き始めたまおに内心溜息を吐きつつちらりと仲間を見る。これはまずい。苛立ちの余り顔には抜けたら死刑と言わんばかりの青筋がどんどん付いている。くわばらくわばら……
やっとの思いで巣の出口付近に近づいた俺らは同様の説明を門番役にして巣を出ようとする。これで何とか休憩所を目指せる……そんな時、門番役のキリングソードに話しかけられた。
『そういえば北の大地の同志よ。名前を聞いてなかったな』
『ん?別に良いじゃねーか。何か必要か?』
『一応な。北の大地の長にお前が大変そうな思いしてたから次から誰か一緒にさせろと伝えたくてな』
ありがた迷惑な仲間思いの言葉に俺らは息を飲む。不味い。これは不味いぞ。まお、絶対にはぐらかせよ?
『なんだ心配してくれたのか。ありがたいな。俺はディエゴだよ』
『ディエゴ……おかしい。そんな奴聞いたこと無いぞ……貴様まさか?!』
『お、おいおい変な探りはよしてくれ』
『北の大地は全て番号で名前をつけてる。偽物め。逃さぬ!!!』
「馬鹿はよ逃げろ!!!変身解いて全力で走れ!!」
俺の叫び声を皮切りに一同起き上がり、その場を離脱して休憩所の方角へとダッシュを始める。クソが、トチリやがって!!!
「ちょっとまって下さいご主人様!後ろから彼らが来てるんですけどぉぉぉ」
「知るか!その辺の土をせり上げて壁にでもしておけ!!!」
「名案ですそれ!アースウォール!!!」
必死に魔法を唱え間一髪のところで巨大な壁を作ったまおは、気持ち良く刺さるキリングソードの剣先の音を聞きながら一息をつく。
「ご主人様〜こっちはオッケーですー!」
「あ?聞こえん。はよ来い!」
「大丈夫ですってー!!!もう止まってますよー!」
「お前それ失敗フラグじゃね?」
「えー?なんですってー?」
「フラグ立て乙!!!!!!」
「な……どういう事……ギャァァァッ?!」
必死に逃げながら叫ぶ俺に対し首を傾げながら叫び返すまおの悲鳴が響く。その様子を遠目から見ていると、底には土の壁を貫いた立派な剣先がなんともまぁ奇跡的な位置取りでまおのお尻に突き刺さり……
「……南無」
「いいい……お尻が2つに割れちゃった……」
「元々割れてるわ!!!はよ逃げろ!」
「ふぇぇぇぇんっご主人様〜っ」
「ケツ抑えながら走るな気味の悪い!!!」
お尻を抑えながら内股で物凄い速さで駆け抜けるまおに呆れつつ俺もなんとか皆に追いつく様に走り、なんとか休憩所へとたどり着いた。
「ぜぇ……ぜぇ……死ぬかと思った……」
「はぁ……本当よ……全く……」
「お尻が……我の大事なお尻が……」
休憩所の入り口でへばった俺らは部屋を決める手続きも済ませないままロビーで息を整え始めた。
「ご主人様……我のお尻が無事か見てくれませんか?」
「嫌だよ!なんでこんな所で見ないといけないんだよ!!つーか何処でも嫌だわ!」
「あぅぅ……絶対キレ痔です……はぁ……」
そんな汚い話をしつつ息を整えた俺らは漸く部屋を決めにカウンターへと向かい案内された部屋でゆったりとし始める。すると、落ち着いた今になってコバルトがいない事に気付いた。
「あれ、コバルトは……まさか?!」
「本当、何処行ったのかしら?まさか……キリングソードの群れに?!」
『安心せい。居るぞ』
「あれ?声は聞こえるが……何処だ?」
「ふっふっふ……みて、奏!私の胸大きくなったわ」
「えっ、うぉお?!いつからそんなナイスバディに……っておい。コバルトを解放しなさい」
「いーやー!このサイズのままで居てもらって私の豊胸用にするの!!」
「んな事考えるな!!第一脱いだ瞬間に残念な女筆頭じゃねーか!良いから出せ!!」
「ちょっ、奏胸を触らないで?!」
「うるせー!俺が今触ってるのはコバルトだ!!キュリアの胸じゃねぇ!!キュリアはこんなに胸無いわ!!どちらかといえば控え目なんだよ!!」
「ちょっ、殴るよ?!気にしてるんだけどそれ??殴るよ?!」
暴れるキュリアからなんとかコバルトを取り出した俺は、急いで水を与えて元の大きさへと戻してやる。
「災難だったな」
『うむ。骨が当たって痛かった』
「ねぇノウン。殴って良いよねこれ」
「私には分からない悩みだからお好きに」
「キシャァァァァ!!まずは貴女からよノウン!」
「ご主人様〜お尻を慰めて……」
「色々アウトな発言止めろ!!」
騒がしい一同に呆れつつもなんとか無事キリングソードの群れを抜けた俺らは、昨晩同様体を休めつつ明日に備え早めに就寝するのであった。




