ウォーターショック!!!
「いやぁ、すまんなお前さん方。またもや騒ぎになって迷惑かけた」
「全くだよ……はぁ」
現実では起きた事のない状況をぶち壊された俺は半ば苛立ちつつもゴリオの無害さを周囲に説明し、騒ぎを治めた。
「折角の良いムードが台無しだ……はぁ」
「む?お前さん方出来てたのか?」
「え、あ、まだそういうのじゃなくてだな……」
「出来てるって……私達ただのパーティよ?」
「えっ」
「えっ?」
「む?そうなのか。それはすまんかった」
あっけらかんと言葉を返すキュリアに俺は思わず疑問の声をあげる。と言うかまて。さっきの流れでただのパーティって……。ま、まぁ良い真相は後だ。とりあえずこの場を離れよう。
「もう騒ぎを起こすんじゃないぞ?」
「それは難しいな。湯治をしに来ている以上温泉にゴリオ有りだ」
「そのうちエイプ禁止の看板立たない様に気をつけてね……それじゃあこれで」
「うむ。2人とも歯を磨いてから寝ろよ?」
余計な心配をされつつもゴリオの元から離れた俺とキュリアは、無言のまま自分達の部屋へと向かう。
「ねぇ奏」
「……ん?」
「奏は私の事好き?」
「ふぁっ?!」
唐突に投げられる爆弾。こいつボン○ーマンかな?
「私は奏の事好きよ」
「えっあ……まぁ……うん」
「よかった。これからも良い仲間として任せたわよ」
「ふぇ?」
「……ん?なんか変な事言った?」
あれ、これはまさか。人としてじゃなくて仲間としてのパターン?嘘……けどさっきの行動は……。
「それと、さっきは寄りかかってごめんね。ちょっと疲れすぎたみたい。立ってるのがやっとな程体力もっていかれてるわ……」
「おまっ……殆ど何もしてないだろうが!」
「ちょっ、その言い方酷くない?!一応ちゃんと戦ったのだけど?!」
「ええいうるさい!はよ寝ろ!!!」
フザケンナ!俺に身を任せて良い感じになってたと思いきや、疲れてフラついてたまたま俺に寄りかかる形になったとかフザケンナ!!!なんだよこの1人で葛藤した数分間!無駄じゃねぇか!!
行き場のない憤りを頭の中で叫びつつ俺はキュリアと共に部屋の中へと入る。すると、そこには既に布団が敷かれておりその数はいつも通りまおを除いても一枚少ない形になっていた。
「……またか。これ俺とキュリアをなんだと思ってんだよ……」
「えっ、そういう感じのアレじゃ無かったの?」
「それは無いわね。……けどどうしよう。無いのは仕方ないから奏、一緒に「それはパス」酷く無い?!」
朝から真横で無駄に女の子を発揮されるのもその後張り倒されるのももう勘弁です。それなら寝る時は凄く優しいノウンが良いです。
「いいよ、まおとキュリア使えよ。俺は適当に転がるから」
「えっご主人様我を殺したいのですか?」
「ちょっ、私がこんなゴミと寝るとかあり得ないんですけど」
問題のある2人を同時に纏めるのは失敗したらしい。だが、同じく布団で寝るのもパスだ。と言う事で俺は考えた。
「布団はコバルト、ノウン、キュリアが使え。俺はコバルトの上で寝る。まおは……この中をやろう」
「ちょっ、ここ押し入れ……」
「ほら、念願の1人部屋だぞ。喜べ」
「これは隔離ですよ?!……けど布団もあるしあったかい……ここで寝ます」
よし。これでイビキはある程度緩和される。そして朝から苦しむ必要も女の子全開に苦しむ事もない。完璧だ!
こうして俺らはいろんな意味での安全を確保した後眠りについた。 しかしスライムって体重全て預けられて気持ちいいな。これはこのまま眠れ……そ……
「ねぇ主様」
聞こえないフリをしよう。俺は寝ている。
「ねぇ主様ったら」
「……zzz」
「……ねぇ。リアルにそんな寝息立てる人居ないからね?起きないと魔法か拳のどちらかで貫くよ?」
「…zzzっおっぱい?!やめろそれは死ぬだろ!!」
「どんな起き方よそれ。まぁいいわ、それよりも聞いて欲しいの」
白い目で俺を睨みつつもノウンは上体だけ起こしたままこちらを向いて話し始める。
「あのね、実は大変な事に気付いたのよ」
「それは俺の睡眠を阻害する程のものなのか?」
「そうね。むしろ死ぬ可能性まで出てきてるもの」
「どんな要件だよそれ。むしろ何故今まで言わなかった」
「それはうん。聞けばわかるわ。……実はね?
飲み水がもう無いの」
「…………はい?」
ノウンの言葉に俺は耳を疑う。いや、飲み水どれだけ持って来たと思うんだよ。コバルトの背中いっぱいに水積んでたんだぞ?
「そのコバルトが移動中に蒸発しかけてたから水を与えてたんだけど……使い切ってしまったのよ」
「なんだそれ?!スライムなら環境適応能力あるから大丈夫じゃねぇのかよ!」
俺は出発前に調べたコバルト、ノウンの環境適性の紙を見せつける。するとそこには、山と平地のみ適性を持つノウンに対し、コバルトは全ての環境で適性を持つと記されていた。
「そうね、普通のスライムならばそれで正しいの。けどコバルトは長年王として自治区から動いてなかった分細胞が鈍ってたみたい。その証拠に汗かいていたでしょ?普通のスライムならばマグマダイブしても汗ひとつかかないわ」
「ナンテコッタ……マジかよ……」
思わぬ誤算に頭を抱える俺。と言うかここまで優等生を貫いてきたコバルトの失態が今までの成果を軽く覆すレベルで痛いんですが。能力発動しないだけでパーティ壊滅ってシャレにならないぞ。
「どこかにいい水源か魔法使い居れば良いんだが……ってそういやノウンの魔法で出来ないのか?」
「無理ね。私は戦闘スキルしか身につけて無いわ」
「くそ……万能な魔法使いが居ればな……ん?」
万能な魔法使いで俺はふと何かに引っかかる。そういえば魔法に関してエキスパートな存在居なかったっけ。
「……居たわ。解決できる奴が」
「えっ?何処にそんな優秀な人材が……」
思わず顔を明るくしたノウンは俺が指差した方向を見て引きつり笑顔となる。その方向には押し入れの扉越しからでも聞こえる位のいびきをかいて寝ているまおが居た。
「最終手段よねそれ……誰が頼むのよ」
「……俺が頼むさ。仕方が無い事だし」
「流石主様頼りになるわ」
こういう時だけ無駄に素直なノウンは端正な顔を崩して笑顔を見せ、そのまま眠りについた。何か上手く乗せられた気がした俺はノウンに対し溜め息をつきつつも同様に眠りにつく。明日の事は明日考えよう。大丈夫。まおなら素直に聞くだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「んー……飲み水ですか?出来なくは無いですが……んん……」
翌朝。誰よりも早く起きた俺は押し入れのまおを起こし、昨日キュリアを見つけた二階へと誘い出した。
「飲み水って結構大変なんですよ?成分比率を間違えると不味くもなるし毒にもなりますし……」
「けどお前なら出来るだろ?魔法のエキスパートにして最強の魔王なら」
「いや、出来なくは無いですがそもそも魔王の魔法を飲み水の精製に使う人類なんてご主人様位しか居ないと思いますが……」
確かに。と言うかこいつを使えば本当ならばこの山を楽に超えられるしそもそも回復魔法もこいつで良かったんじゃね?と思い始めた。
「ズベコベ言わず出来るならやってくれ。てかやれ」
「魔王にものを頼む態度ですら無いですよそれ?!むしろ嫌になってきましたよ??」
「プリースト」
「やりますやらせていただきます」
未だかつてここまで頭が低い魔王は居たのだろうか。土下座をしながら飲み水の精製を買って出るまおに哀れみの目を向けつつも一先ず部屋へと戻る事に。
説得を終えた頃にはノウンも起きており、満足げな表情を見せる俺の顔を見た彼女はサムズアップで称えてきた。
「それじゃ早速作ってくれ」
「分かりました。いきますよ……?」
「あ、まて。一気に出すなよ?溺れる可能性がある」
「わかってますよ。そんな事はしませんよ。……では出しますっ!」
両手を前に出し詠唱を始めたまお。その手の先には魔法陣が現れ、規則的に回転をし始める。その先では貯水用のタンクを構えたノウンが待機しており、準備は万端!これでこの山を楽に超えられるー!
「出でよ!ゴッドセンド!!!」
「おお……凄そうななま…えっ?」
魔法を唱えたまおの掌からは水は現れず外も様子は変わってない。まさか失敗したのか?
「但し魔法は脇からでる!!!」
「ふざけんな!つめてぇっ、おいこっちに向けて腕をあげんな!!!」
「さぁ飲みなさいこれが本当の脇水ですよ!」
「ノウンこいつを一回殴り跳ばせ!!」
「おっけー主様」
「や、やめて!ふぎゃぁぁぁぁっ!!!」
脇から水を撒き散らしたまおは回転しながら壁へと吹き飛ぶ。天誅されて当然だがその美しい放物線に俺は思わず拍手を送った。




