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俺、異世界に行ったら結婚するんだ。  作者: 雨音緋色
暑いのは火山だけにして下さい
27/34

天然のサウナは危険地帯でした。

 ゴーレムの街から目と鼻の先にあるアッスーラ火山は、標高1700m程の現在も活動している活火山らしく、年に数回は噴火が起こるとか。何とも恐ろしいというか冒険の序盤でいく様な所では無い。

 というかそうだよな。この世界に入って数日で30レベル超えててパーティも揃ってる。まるでネトゲのパワープレイを行ってるかの如く早いレベリングを行っている為、まともな戦闘もせずにストーリーの中盤に差し掛かってる気分である。何というかリアルタイムアタックみたいな感じだなこれ。


「ここからはマジで危険だから気をつけてね。今日はとりあえず2合目まで目指すから」


「あれ?そんなに進まないんだな。てっきりパッと行って帰ってくるのかと思ったぞ」


 我が祖国日本の富士山ですら日帰り可能なのにそれより小さな山で宿泊を行う効率の悪さに俺は首を傾げる。だが、それを聞いたノウンは溜め息を吐いて首を横に振った。


「あのねぇ。主様?私の見立てだと主様は1合登れれば良いと思うくらいなのよ?」


「へっ。こう見えても俺の居た世界には強制的に山に登らされるイベントがあってな。休憩挟みながらだがこれより高い山を往復2日で行ったんだぜ?」


 俺の言葉に驚くノウンだが、それでも無理だと言い返した。

 何だか馬鹿にされている気分がした俺は無性に腹立たしくなり、ノウンに向け掌を見せて言葉を切らせた。すると、今度はキュリアが呆れながら口を開き、ノウンに対し言葉をかけた。


「大丈夫。2合目で休む事になるから。けどこれだけ自信満々なんだし、現実を肌で感じてもらう方が早いわよ」


「それもそうね……全く。2合目何て私でもキツイってのに主様ったら……」


 結局、鼻息を荒くしながら歩く俺を先頭に一同はアッスーラ火山へと足を踏み入れた。


「おっしゃ行くぞ……ぉぉぉぉお?!」


 足を踏み入れた瞬間、俺はすぐさま体を元の位置に戻し今起きた事を理解しようとする。


「どうしたの?主様」


「い、いや?なんか……いや、気のせい……だよな……?」


 首を傾げながら再び足を踏み入れる。だが、再び起きた異変に俺は思わず跳びのき、笑いを堪えているキュリアに詰め寄る。


「おいっなんだよここ?!入った瞬間訳わかんない位熱気が湧き上がってるんですけど?!」


「ぷっ……そりゃ結界魔法で中の熱気を閉じ込めてるもの。暑いに決まってるでしょ……ぷぷっ」


 キュリアの言葉に愕然とする。結界魔法で閉じ込めてるという事はつまり外に熱が逃げない訳でここには何百年分もの熱が溜まってる訳で……


「……って馬鹿じゃねーの?!?!何でそんな訳わからない結界つけたの?!」


「まぁゴーレムの街が出来た時に噴火による被害が起こらない様施されたのよね」


「くそっ以外にまともな理由で何とも言えねぇ!!けどこんな所進める訳ねぇだろ。止めよう。命を大事にしよう」


「いや、慣れれば楽よ。行きましょう」


「何でそんなニヤニヤしながら手を引くんだよ!いやっ止めろ……ぬぁぁぁぁっ!!!」


 最早強制的に引きずり込まれた俺は、アッスーラ火山の小さな一歩を踏み出す事になった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「暑い……サウナだよこれ……」


 山道を歩き始める事数分。振り返ると未だそこまで歩いてないにも関わらず、滝の様に流れ出る汗を拭いつつ俺らは先へと進んでいた。


「まぁ先に進むほど温度は高くなるし。休憩を挟みつつ2合目まで進むわよ」


「ちなみにこのペースだとどれ位で着く?」


「そうね。夕方になる前には着くんじゃないかしら。裾が広い分登る高さもそこまで登れて無いのよね」


 どうやらこの火山は度重なる噴火の際に流れ出た溶岩の影響でその面積を広げてきたらしく、今歩いている所は元々普通の森だったとか。通りでゴツゴツして歩きにくい訳だ。


「て事はこのままいくとそのうち街も飲み込まれるんじゃねぇの?」


「まぁね。一応その為の処置はしてあるらしいけど……どんな処置かは知らないわ」


「へぇ……ノウンにも知らない事なんて有ったんだな」


「あのねぇ……別に知能が高いからと言って何でも知ってる訳じゃ無いのよ?そんな神様でもあるまいし」


 神様と聞いてふと自分を送り出したあの爺さんを思い出す。あいつ今頃何してるのだろうか。俺に何も授けないで転送したゴミ神。ソシャゲで言うならスタートガチャで星4を引いた残念感。リセマラ希望だよ本当。


 雑談を交えつつ先へと進む俺らは、何事もなく1合目を迎える。おおよそ2時間程で目的の半分まで辿り着いた俺らは1合目に設置された休憩所でゆっくりとしていた。


「はぁ……涼しい……生き返る……」


「この休憩所は最高よね……」


 クーラーと扇風機。そしてキンキンに冷えた飲み物とアイスと言った夏のお助けアイテムが勢揃いした休憩所は、この後進むのを躊躇ってしまう程快適な空間だった。


「もうここに住み込まないか?完璧なんだけど」


「気持ちは分かるけどやめといた方が良いわよ。登山者がよく来るし」


「それ位なら気にしないがなぁ……」


「まぁ登山者の方ならね。下山者はやばいわよ。肥溜め臭するもの」


「はぁ?!風呂とか置かれてるのに?!」


「7合目以降は温度の都合上ないのよ。あの場所に水源を作れないの。あそこは魔法でも蒸発しきる程の熱量が篭ってるの」


「何だと……つかそれ暑すぎね?」


「まぁ熱耐性無いと蒸発するかも。人間で登頂出来たなんて聞かないし」


「おし帰ろう」


 思わぬ情報を伝えられた俺は即座に帰る事を選んだ。冗談じゃない。こんな所で死んでたまるか。俺にはまだ経験した事が無い事だらけなんだ。


「帰るって言っても家無いじゃないの」


「あっ」


「はい。じゃあ進むわよ」


「……はい」


 下山したら家を持とう。これは確実に持とう。


 休憩所を出た俺らは再び灼熱の山道を歩き出す。まさか回復役がこんな辛い場所に居るとは思わなかったが苦労の分安定感は出ると思いたい。というか何だかんだうちのパーティは強いし。モンスター達はかなり優秀。一時的だが前衛を任せれるキュリアも居る。チート能力無くても何とか出来るじゃん俺。流石孤高のゲーマー竹倉奏。数々のネトゲでキャラを作っては高速レベリングをこなし続けたその力は伊達では無い。


 と、しょうもない事を考えている内に気がつけば2合目まで残り半分の位置まで進んできていた。このペースならば昼過ぎには着くだろう。と、浅い考えを巡らせていたその時だった。


「……っ?!

皆、その場から離れて!!!」


「ぬ?……うぉぉぉぉぉっ?!」


 突如足元の岩が捲れ上がる。思わず跳びのきノウンにしがみついた俺は、元々立っていた場所から噴き上がる真っ赤な火柱を見て言葉を失った。


「なっ……危ねぇ……ナイスキュリア」


「まだよ。本体が出てくるわ!!!」


「本体……?う、うぉぉぉぉぉっ???」


 キュリアの声に振り返る俺。その言葉を理解できないまま急に視界が変わった……と言うか俺がしがみついたままの状態で飛び上がったノウンの元々の位置を見るとそこには巨大なマグマが沸き上がり、コバルトですら豆に見える程の巨体の持ち主ーマグマゴーレムが現れた。


「な、何じゃありゃ?!」


「マグマゴーレムよ。漸くお出ましね!」


 苦笑いをしつつ距離を置いたノウンは、優しく俺を引き離すと拳を構えてマグマゴーレムを睨み付ける。同様にキュリアは大剣を地に差し込み、不動の構えを見せる。その後ろにコバルトが俺を守る形でドンと構えた。


「本格的な戦闘になるのか……?」


「そうね。マグマゴーレムは気性が荒い上に縄張り意識が強いの」


「こんな所で縄張り張ってるとか卑怯な奴だな!斬り捨ててしまえ!!」


「あー……それは無理」


 意気揚々と命令した俺に対し、キュリアが申し訳なさそうに頬を書きながらこちらを見る。


「あれはね、物理攻撃効かないの。つか近づいたら鉄が溶ける」


「はい?!……じゃあどうするのこれ」


「無難なのは魔法かな?けど私は無理。今は使えないわ」


「えっ……じゃあコバルトは?」


『我には物理系のスキルしか無いぞ』


「詰んだ」


 思わず肩を落とす俺。だが、それを見るや否やノウンが明らかに不機嫌な顔でこちらを睨みつけてきた。


「何で私には聞かないのかな?主様」


「いやだってオーガって肉体派じゃね?」


「はい?……多分生きてて今が1番ムカついたわ。見せてあげるわよ。私の力!」


 珍しく苛立ちを隠さないノウンはそのままマグマゴーレムを睨み付ける。どうやら力しか能が無いと言われた事に怒りを覚えたのだろう。しかしそこはオーガ。魔法なんて使える訳も無くー


「凍てつけ!!!フリージングサイクロン!!」


「えっ?!?!ま、魔法???」


 巨大なマグマゴーレムを覆う形で巻き上がる氷の竜巻。正しく魔法を放ったノウンは胸を張り怒りを見せたままこちらを睨みつけて言い放つ。


「エンシェントオーガは!魔法も物理もこなす!!至高の種族よ?いい?!」


「はっはい!分かりましたノウン様」


「宜しい。奴が凍りついたら行くわよ!!!」


 持ち前の姉御肌で指揮を執ったノウンは再び氷魔法を放つ。オーガには似つかない程強力な魔法に俺はただただ呆然と見つめるだけだった。


 やがてその巨体が凍り付き大きなアートとなった瞬間。今度はキュリアが駈け出す。どうやらこのまま叩き斬るらしい。


「奥義!龍爪一閃!!!」


 思い切り振り抜いた大剣の剣先からはこれまた巨大な横3本の斬撃が飛んでいく。一閃なのに3本線とはいかほどなのかと思いつつも、その斬撃の威力は凄まじく、爆音を放ちながら氷漬けのマグマゴーレムを4分割した。


「な、何だかんだ温いな。ナイス2人とも」


「まぁね。これ位なら……」


 素直に褒め称えた俺は、若干照れ笑いをしながら謙遜するキュリアとドヤ顔でこちらを見つめるノウンを労う。が、それも束の間。今度は凄まじい地鳴りと共に至る所から火柱が上がった。


「えっ……これってまさか……」


「あー……やっぱりかぁ……」


『マグマゴーレム1体見かけたら、20体はいると思え。常識だな』


「なんだよそのゴキブリ理論!!!う、うわぁぁぁっ本当に出たじゃねぇかくそがァァァァッ!!!」


 爆発音と共に10体のマグマゴーレムが現れる。ふざけてる。絶対こんなのふざけてるだろ。

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