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俺、異世界に行ったら結婚するんだ。  作者: 雨音緋色
いざ冒険へ!!
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因縁!ゴリオvsまお

 気を取り直したまおとゴリオは対峙し、互いを睨み付ける。美少女顔に筋肉モリモリマッチョマンの全裸な変態まおと完全体ゴリラ。何処かの映画の様な状況に思わず俺は固唾を飲み込む。


「未だに健在してたとは。魔王よ、久しいな」


「貴様を助けた我に拳を向けるとは挨拶では無いか」


「あの、ごめんまお。声は戻して?ついでに顔も」


「ご主人様良いところで茶化しを入れないで!!」


 そうは言われても美少女顔にロリ声で凄まれても笑いしか出ない。というか顔か体どちらか纏めてくれよ。最早どっちに取っても変態だよこいつ。

 とは言えどうやらこの2人の因縁は売られる前からあるらしい。睨み合う目には怒りや恨みなどが込められていた。


「拾った?貴様は俺の住処を好きなだけ荒らして無理矢理服従させただけでは無いか!!」


「我の空腹を知っててなお食事を与えず目の前でバナナを貪る貴様らが悪い!」


「もらう前提で居るのがおかしいだろうが!!」


「困ってる人を助けてあげろと昔習わなかったのか?!」


 次第に声を荒げて言い合う2人。とは言え聞いてるとゴリオの方が正しいんだが。さっきの話といいあれ?この魔王やっぱ悪くね?


「ふっ……貴様のそんな言い訳通用する訳が無かろう!!そうだろうご主人様?!」


「おしゴリオ。やれ」


「ウホォォォォォォッ!!!」


「ぶへぇっ?!なっなんでぇ……?」


 自信満々に此方を見られても困るのでとりあえずゴリオに殴らせてみる。流石キラーエイプ。馬鹿みたいな腕力でまおを吹き飛ばした。

 だが、まおは殴られたにも関わらず無傷で立ち上がっており不敵な笑みを浮かべている。その理由はすぐに現れた。


「ウホォ……き、貴様……!」


「この我が何の策略もなく殴られると思ったのか?馬鹿め!!」


 全国のロリコンならば一度は受けたい不敵な笑みの見下し(但し首から下はマッチョマン)をするまおの視線は、ゴリオの右手を凝視していた。

 殴りつけたゴリオの右手は血だらけになっており、強靭なゴリラの腕が複雑骨折を起こしていた。どうやらまおは殴られる直前に威力還元の魔法を唱えていたらしい。

 しかし、そんなまおに対し怯えすら見せる事の無いゴリオは左手を振りかぶり再びまおに殴りかかる。今度は振り下ろしに見せかけて折れた右手を振り上げるフェイントを込めたアッパーである。


「ぐぇっ?!……効かぬ!」


 犬神○宜しく温泉に逆さに突き刺さるまおは腕力で体を持ち上げつつ頭を抜き出すと、痛そうに右手に触れるゴリオを睨み付ける。


「自分の腕力をまともに受けるのは初めての様だな。リフレクト万能説」


「クソ……ッ!!やり辛い奴だ……!!」


「何つーか流石魔王と初めて思ったわ……」


 圧倒的な力を持つゴリオに攻撃することなくダメージを与えるまおは流石である。しかしどうしてだろうか。まおを応援する気になれない。


「コバルト。やれ」


『うむっ!!』


「ぐはっ?!な、何故ぇ?!」


「なんと?!キングスライムだとダメージを与えれるのか?!」


 平気な顔で体当たりするコバルトに驚くゴリオ。だが、キングスライムだからダメージを与えれるのでは無い。俺はある事を確信していた。


「こいつは無駄に義理堅い面があってな。俺らには逆らえないんだよ!!」


「な、成る程……?」


「そ、そんな訳……ちょっ、ご主人様っ?!赤い方しか捻ってないシャワーで体流そうとしないでくれません?!割と本気で熱いのですけど!!!」


 俺とコバルトに苦戦するまおを見てゴリオは驚く。無論攻撃の1つ1つは地味な嫌がらせ程度には過ぎないもののまおには着実なダメージを与えている。


「今だコバルト!」


『おう!』


「あつっ……ちょ、本当に熱いっ……ギャァァァッ!!!冷たい冷たい冷たいッ!!!一気に冷やさないで?!熱冷たい!!!やめてぇぇぇぇぇっ」


 熱湯と冷水の温度差攻撃にまおは堪らず温泉から逃げ出す。そしてガッツポーズをした俺に向かってゴリオは思わず拍手ならぬドラミングを鳴らした。


「凄すぎる……!お前さんなんて凄いんだ!!魔王を逃げさせるのは大家とプリーストだけかと思っていたぞ!」


「いや、まぁあいつには強いんでね」


「凄い事だ。お前さんありがとう!!心が晴れやかになったぞ!」


 嬉しそうに優しく手を握ってきたゴリオに俺は何処か恥ずかしくなって苦笑で返す。何だろう。こんな気持ちも悪くは無いな。


 こうして、無事まおに対し報復を行った俺とコバルト、ゴリオは仲良く風呂から上がると、先に風呂から出てきていたノウンとキュリアが浴衣姿で待っていた。


「あれ、このモンスターって」


「ああ。ゴリオだ。言っておくが別に害なんて無いぞ?」


「うむ。むしろこんなに晴れやかな湯治は初めてだった」


「そ、そう……ところでまおは?」


「ん?あいつならしっかりと懲らしめておいたから大丈夫」


「あれ?……まぁ奏がそれでいいならいいか。お腹すいたわ。ご飯でも食べましょう」


「だな。コバルト、頼んだ」


『うむ。良き友人が増えた事だしパーっと祝おうでは無いか』


「バナナ山盛りで頼むぞ!」


 笑いながら廊下を進む俺たち。当初の目的を忘れた俺は自分のパーティと共にゴリオと談笑しつつフロントへと向かう。


 だが、俺らを待ち受けていたのは半泣きになりながら睨み付けるまおと重装備をした冒険者の群れであった。


「ここにいたかゴリオ!!!」


「ぬ?お前さんは……あの時の!!」


 空気が一変する。どうやら顔見知りな2人?というか冒険者とゴリオは互いにニヤリと笑い、拳を軽くぶつける。


「元気になったお前を倒しに来たぞ」


「成る程な。……お前さん達。ここでお別れだ」


「おい、ちょっと待てよどういう事だよ!」


 野生を取り戻したかの気迫を露わにするゴリオに対し俺は問い詰める。すると、ゴリオは何処か楽しげな笑みを浮かべながら口を開いた。


「先程話した冒険者が彼らだ。俺に生きる喜びを与えてくれた……な。俺は彼らの恩義に報いる必要がある」


「だからと言って……お前は俺みたいに人間とも仲良くなれるじゃないか!!!」


 俺の言葉に首を横に振るゴリオ。


「それはな。お前さんがモンスターを従える事が出来る職だからだ。忘れるな。人間とモンスターは、特別な者でない限り相容れないのだよ」


「ふざけんなよ……!だからと言って……」


 食いさがる俺をノウンが引き剥がす。優しく抱き締めるノウンに対し微笑んだゴリオは最後にこんな質問をした。


「ありがとな、オーガの娘。……なぁ若き人間よ。同志としてお前さんに問おう。名は何と申す」


「……奏。竹倉奏だ……!」


「いい名だ。奏。是非俺の元までモンスターと人間の協奏曲を奏でてくれ」


「誰がいい事言えと言ったよ馬鹿が……っ!」


「ふっ……さらばだ。お前ら!!!この俺が元魔王配下キラーエイプのゴリオと知っての挑戦か!!!宜しい!!受けて立とう!!!」


「それでこそゴリオだ!!場所を移す!!!ついて来い!」


「ウホォォォォォォッ!!!!!!」


 走り出した冒険者達を軽々と追い越す勢いで走り抜けるゴリオ。その姿から思わず目を背けてしまう俺をキュリアが諌める。


「短い付き合いでも奏とゴリオには確かな絆が生まれてるわ。最後まで見送るのが友への礼儀よ」


「……っ!!あぁ……っ!」


 そっと頭を撫でるキュリアに諭され、ゴリオの姿が小さくなるまで見つめる俺の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


 こうして、人生初の友との別れを経験した俺は何処か喪失感に囚われつつもいつもより優しく話しかけてくるパーティメンバーによって夕食後には笑顔を取り戻していた。


「てか何で倒す筈のゴリオと仲良くなってんのよ奏ったらバカ〜ッキャハハッ!!」


「おい誰だよキュリアに酒飲ませた奴!!!こいつ酒癖悪いんだけど?!ああああ絡むなめんどくさい!!!」


「うりうり〜っ奏〜?キュリアちゃんだよぉ〜」


「わぁぁもうわかってるから!!くっつくな!!いい匂いするからやめろ!!」


『ハハハッ!あれだけゴリオの近くで弁を語った主も女子には勝てぬか!』


「ちょっ、コバルトまで体が赤くなるまで飲むなよ!!!ノウンは何処だ!!!」


「主様が私よりキュリアがいいって……ぐすん……」


「お前はお前で泣き上戸かよ!!!めんどくせぇぇ!!!寝ろ!お前ら寝ろ!!」


「奏っ!ちゅ〜っ」


「キャァァァァッ?!」


 もうなんだろう。楽しいけどこいつら疲れるんだけど。けどまぁまおがいない分マシか。あれ、ところでまおは何処いった?……まぁいいか。

 結局ドタバタしつつもホテルでの問題を解決した俺らは、明日から登頂するアッスーラ火山の前に好きなだけ騒ぎそのまま雑魚寝して朝を迎える事になった。





「ウホォォォォォォッ」


「ヌォォォォォォッ」


「……あの〜、いつまでこれ続くのです?」


 ゴリオと冒険者の筋肉美を見せ合う謎の勝負の審査員をさせられているまおを忘れて。

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