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俺、異世界に行ったら結婚するんだ。  作者: 雨音緋色
いざ冒険へ!!
24/34

ゴリラの目にも涙

 客の退避が済んだ後まおがケジメをつけているのかを確かめる為俺らも中に入る。とはいえホテルの中は広くどこに向かえば良いか分からない。ここはノウンの知恵を借りよう。


「というわけでどこに行ってると思いますか先生?」


「先生はやめて。そうね……通り過ぎていくお客さんの様子を見る限り温泉じゃないかしら。髪が濡れてる人とかも居たし」


 呆れつつも的確な答えを出すノウンに納得した俺は、すぐ様温泉に向かい走りこむ。

 階段を登り息を切らしながら2階へと辿り着いた俺らはその奥にある更衣室……を分ける3つの入り口に辿り着く。


「さて……どの入り口だ……?」


 立ち止まった俺らは目の前に垂れ下がる『男』『混』『女』の暖簾を見て悩みだす。そしてゆっくりと女の方へと向かいー


「奏?まさか女湯まで貴方が調べようとしてないよね?」


「そ、そんな事あるわけないじゃないか」


 影の差した笑顔で腕を掴んできたキュリア。べ、別に更衣室の籠とか漁ろうとしてないからね?


 下心を看破されつつ俺らはそれぞれ別の入り口に入る。男湯には俺とコバルト。女湯にキュリア。そして混浴?にはノウンが入った。

 とりあえず調査という事もありそのままの格好で先へと進もうとした矢先。突如大きな声が響いた。


「カーーーッ!!お前さん温泉に服のまま入ろうなんざどういう神経してんだ!!!」


 空気が震える程の大声に思わず尻餅をつき、声の方へと振り返る。するとそこに居たのはノウンですら華奢に見える程のゴツい筋肉を所有する霊長類最強種。ゴリラだった。


「お前さん人間の癖にマナーを守らないとは何事だ!!」


「ご、ごめんなさい……ところで貴方は?」


「俺か?俺の名はゴリオ。旅のキラーエイプだ」


 嘘だろおい。目の前に居るんですけど。てか腰にタオルを巻いて今から温泉に入りますオーラ満点なんだけど。あれ、暴れてたりはしてないの?


「元魔王配下がなんでこんな所に……」


「そりゃ決まってるだろう。傷心旅行だ」


「しょ、傷心旅行……?」


 どうやらこの地に現れたのは深い理由があるらしい。一先ず俺は服を脱ぎ腰にタオルを装備した状態でゴリオと共に温泉へと向かう。何で俺は魔王関係者の隣を普通に歩いてるのか分からないがとにかく話を聞く事にした。

 ゴリオと共にかけ湯を行い、まずは隣に座って体を洗う。汚れたまま温泉に浸かるのは他の客が嫌がるし当然の行いである。ついでにコバルトの体も洗いつつ頭までしっかりと洗い終えた俺とゴリオ、コバルトの3人は湯船へと入り思わず息を漏らした。


「やっぱ温泉は落ち着くな……」


「お?お前さんも温泉が好きな口か」


「ああ。この開放的な広さの湯船と適温のお湯。そしてほんのり香る檜の匂いが格別気持ち良い」


「うむ。その心誠に宜しい。お前さんは温泉好きの同志だったのか」


 頬を緩ませながら温泉トークを楽しむ俺らだが、本題を忘れた訳ではない。真剣な表情に戻ったゴリオはゆっくりと言葉を選びながら語り始めた。


「実はな。魔王が俺を売った後に事件は起きたんだ」


「ふむ。辛いだろうが続けてくれ」


「ああ。あれは半年程前の事だったー」


 ー半年前。

 魔王により配下達の住処がバラされ並み居る冒険者達が魔王配下狩りを行っていた最中。凶悪な魔王配下として名の知れていたゴリオも同様にバラされており、それまで円満な家庭を築いていた彼らの生活は一変した。

 毎日の様に現れる冒険者達。そんな彼らを追い返しつつ住居を変える日々は当然辛く、ゴリオは勿論その妻や子供達も次第に疲弊し始める。


「あなた、こんな生活いつまで続けるのかしら?」


「それは俺にも分からん。最低でも魔王が退陣しない限りは続くだろう……」


 本当ならば魔王を倒してその首を冒険者達に渡し自らの生活に安寧をもたらしたい。だが、財力はないもののそれ以外の力は配下全員が力を合わせても届く事のない程絶大な魔王相手にそんな暴挙は行えなかった。そんな中でもゴリオは細やかな抵抗として魔王城の貸し出しを行っている大家にプリーストを送り込む様提言してみたりしたものの、すんでの所で上手く逃げていたらしく生活は変わらないままだった。


「こんな事なら聖職のモンスターと結婚すべきだったわ……」


「そんな奴が居るわけないだろう!!」


 次第にゴリオと妻の夫婦仲も険悪になり始める。これ迄は毎日バナナや木の実をお互い食べさせ合う程の仲の良さを誇り、魔王配下の中でも有名なおしどり夫婦だったゴリオ達ですら離婚の2文字がちらつき始める。しかしそれでも我が子の為夫婦2人は必死に我慢し、住処を移動しながら生活を行っていたある日。夫婦仲を割く決定的な事件が起こった。


「……嘘……だろ……?!」


「ゴリスケ……ゴリスケェェェェッ!!!」


 唯一家族を繋ぎ止めていた最愛の息子の死。ゴリオを退治する為に張り巡らされた罠に間違えて引っかかり幼い体では受け止めきれない程のダメージを受けたゴリスケは傷だらけのまま息を引き取った。

 その罠を張り巡らされた冒険者達はゴリオの親族を討伐した事により大金を手に入れ豪遊。その様子に怒り狂ったゴリオは彼らの街を襲い多くの冒険者達を葬るも当然ながら息子は帰ってくる事はなく虚しさだけが心に残る。だが、ゴリオを襲う悲劇はそれだけではなかった。


「もう、無理よ。……別れましょう」


「おい……嘘だろう?ゴリミ……ゴリミィィィィィィッ!!」


 愛する妻が離婚を決意。婚約の際に手渡した手作りの木の実の指輪を手渡され、涙を流しながら背を向けた妻の姿を追えずただ地に這い蹲るしか出来なかった。更に後日。彼の耳に入った出来事は悲しみすらも砕く事件であった。


「ゴリミが……死んだ……?」


「はい。……息子を守れなかった私の罪と言い残し、ドラゴン居住区に無断で進入。更にはドラゴンの中でも最も気高く気性の荒いドレッドドラゴンの逆鱗に自ら触れ焼身自殺です……」


 その瞬間ゴリオの中で全てが崩れた。愛する妻も息子も失い、自らの元にあった思い出すらも崩れた瞬間。時が経てばゴリミとはまたやり直せると何処か淡い期待を抱いていた彼にとって、全てを失った瞬間でもあった。

 報告を受けたゴリオはただただ消失感に襲われ、涙も怒りも無く冒険者達の前に姿を現した。自ら姿を現したゴリオに、以前の恐怖が湧き上がる冒険者達だが一向に攻撃を仕掛けてこないゴリオに対し不信感を覚える。


「おい、何故抵抗しない……?!」


「いいんだ……妻と息子に合わせてくれ……」


 その言葉を聞いた冒険者達は沈黙し剣を納める。そして勇気ある1人の冒険者がゴリオに声をかけた。


「巌の如く強さを誇るゴリオよ。常に冒険者達にモンスターの恐ろしさを教えていたその強さを称え享受しよう。死んでも家族には逢えぬと」


「ぐ……では俺はどうすればいい?!このまま生きたとして何が残る?!」


「生きた証が残るだろう!!この地にゴリオという名を刻み、生きた証を刻んで天国の家族へと届けろ!!!それが報いというものでは無いのか?」


 冒険者の言葉に思わず気圧されるゴリオ。こんな体験は魔王以来……いや、力では無く言葉のみで気圧されたのは初めての経験だった。そして冒険者はこう続けた。


「生きるのが辛いのは誰もが同じだ。我々もモンスターの命を奪い生計を立てているが、間違えれば死ぬ。お前も常に死と隣り合わせの生活の辛さを体験しただろう?家族は疲弊し、不安定な生活に対し不満を言われ、それでも生き続ける事に何の意味があるか俺らも考える。だがな、忘れるな。その苦悩を乗り越えた時の幸せは何事にも変えられない」


「今は耐えろ……と言いたいのか?」


「いや、耐えろなんて傲慢な事は言わない。別の幸せを見つけるんだ。家族と共に居る事だけが幸せでは無いぞ。たとえばな、疲れ果てた後温泉に浸かった時。あの幸せは何事にも変えられない」


 冒険者の言葉に周りも頷く。いつしか小さな幸せを教え始めた冒険者達の言葉にゴリオの心は揺り動かされ、ゴリオの表情にも笑みが溢れ始めた。


「ありがとう、冒険者達よ。うむ。俺は一度旅に出て温泉というものを堪能してみようと思う。生きる喜びを与えてくれてありがとう」


「ふっ。魔王配下に感謝されるとは中々変な気持ちがだな。強く猛々しいゴリオに戻ってから雌雄を決したいのでな」


「ああ。後悔しても知らんぞ。俺の強さは知ってるだろう」


「勿論。だからこそ生きてる心地がするんだよ。……さて、じゃあまた会おうな」


「おう。またな」


 こうして背を向けあったゴリオと冒険者達は、別々の方向を目指し歩き始めた。生き甲斐を見つける為、いつしか生き甲斐を感じる為に歩むその足には妻と子が待つ家路へと向かう歩みに似ていたー


「……というわけだ」


「ぉぉぉ……辛かったんだな、ゴリオぉぉ……」


 頭にタオルを乗せたゴリオが一息をつく。まさに生き甲斐を感じているその姿に話を聞いて涙していた俺とコバルトは、冒険者GJと心の中で思わず叫んだ。


「ま、未だに俺が行くとこうやって怖れられるが。貸切状態で気分が良いもんだな」


「成る程な。だが温泉は色んな人と交流するってのも大事だぞ。現に俺らに話した後のゴリオは表情が和らいでる。何処かでやっぱ共感して欲しかったんじゃ無いか?」


「まぁ……心がすっとした部分はあるな」


『うむ。悩みや辛みと言うのは誰かに話すと安らぐ事が多い。ゴリオ殿は友を持つべきだろう』


「友か……ふっ。合わぬよそんなもの」


「そんな事ありませんよ!!ゴリオさんなら立派な友を作れます!!」


 突然風呂の中から顔は美少女体はマッチョマンと言う謎の産物が現れる。勿論まおである。どうやら今の話を聞いて共感したらしい。


「ありがとう御仁。ところで何処か凄まじい力を秘めているようだが種族は?」


「いえいえ、あ、種族ですか?魔王で……ふげっ?!」


 魔王と聞いた瞬間ゴリオは思わずその大木をもへし折りかねない右腕を振り回しまおを殴り飛ばした。まぁ当然だよね。

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