夢の国はここにあった
意気揚々と入っていくゴーレムの長と俺は扉を開けた瞬間広がる、女の子独特の香りとピンク色の壁、そして沢山のフリルで装飾されたメイド服を着こなすメイド達に意識を奪われる。
『お帰りなさいませご主人様!』
来店に気付いたメイド達は一斉に頭を下げこちらに微笑みかけてくる。今まで経験した事のない状況に思わず俺は踏ん反り返って頷いてしまう。あまりにも現実離れした空間にもはやここが異世界だったのではないかと思う程である。
「主様、鼻の下伸びてるよ」
「そ、そんな訳ないぞぉ?!」
溜め息を吐きながらジト目で睨みつけてくるノウンに指摘され、俺はキリッと表情を整える。いや、別にあれですよ?ノウン並の胸に低身長、そして明らかに鍛えられてはいない太ももがちらりと覗き込む絶対領域とか見ては無いですよ?
店長の名札がつけられたメイドさんに席を案内される形となった俺らは、他の客に混じり普通の卓席に連れてかれた所で、ゴーレムの長が口を開いた。
「いや、こ奴らもあそこに連れて行くぞ」
「成る程、かしこまりました。ご主人様、こちらです」
深く一礼をした店長は俺らを連れ別の場所へと移動を始める。案内されるがまま店内の再奥にある扉に着いた俺らは扉上に付けられたプレートを見て驚愕する。
「膝枕ルーム……だと?!」
「うむ」
「爺さん……あんた分かってるぜ!!」
粋な計らいを企てていたゴーレムの長と俺は思わずがっちりと握手を交わす。こんな所で男の永遠の夢『HIZAMAKURA』を体験できるとは……しかも相手はお辞儀をすると見え……そうなメイドだぞ?!これは見ちまっても問題無いよなぁ?
まるで戦地に赴く兵士の如く息を整えた俺は精神統一をしてから眼前の扉を押し開け、もはや危険な香りすら漂う薄暗がりの部屋の中へと出陣する。
「お、おおお……っこの独特の雰囲気……これはっ」
カーテンで区切られたその部屋はまさに主人とメイドのプライベートルームを生み出しており、メイドとの怪しい時間を想像させる何かがあった。
欲望のまま周囲を見回し空席を確認する俺。すると再奥のソファだけ空いているのか、カーテンが開かれていた。中には俺的には最高のちょっと幼さが残るも大人な雰囲気が出ている、例えるなら春。入学して一月経った女子大生の様なメイドが待っていた。
思わず生唾を呑み込み、いざ踏みいろうと勇敢なる一歩を踏み出しー
「おい小僧。目的地はそこでは無いぞ」
「ふぉえ?!」
何故か呆れた盟友ゴーレムの長が俺の首根っこを掴み引きずり出した。
「誰もこの店のサービスを受けるとは言って無いじゃろう。ここに儂の部屋があるんじゃて」
「ちょっ、えっ?!」
理解していない俺に今度はノウンが頭を抱え、やれやれとばかりに首を振る。
「私たちの目的は?」
「メイドサービ「マンドラゴラ」はい、マンドラゴラです」
睨みつつ言葉を切り捨てたキュリアに威圧されるがまま、言葉を訂正した俺はメイドの太ももを惜しみなく見つめながら扉の先へと進む。
「さてと、例の物じゃが」
至って真面目な顔をしたゴーレムの長はつらつらと証書を書き上げこちらに見せる。どうやら印刷だと偽物を作られる可能性がある為魔力を込めた手書きを行っているらしい。
「ん、さんきゅーな」
「いや、ただではやらんぞ」
受け取ろうとした手前、不意に持ち上げられた為思わずイラッとする。
「何が目的なんだよ」
「話が早いな小僧。何、簡単じゃ。ナイスバディな女子を紹介してくれたらあげようではないか」
「くそ……このエロジジイ……ノウンでどうだ?」
「ちょっ主様?!」
俺の指名に首を横に振るゴーレムの長。
「オーガの娘は確かに良いが荒くれておる」
「成る程」
「うん、2人ともどれ位私が荒くれているか試そうか」
俺らの頭を掴んで握り潰さんとするノウン。あの、マジで割れるからこれ。あっやばい川が見える。
だが、そんな俺に救いの手を伸ばしたのは我が奴隷まおだった。
「あの、どんな見た目です?」
「あだだっ……む?それはの……こう胸はこんなんでお尻がこんな感じで……」
ノウンの手を必死にタップしながらジェスチャーで伝えるゴーレムの長。なんつーか本当ただのエロジジイだな。
「わかりました。我が連れてきましょう」
「あっ天使様……えっ?お前にそんな人脈あったのか?」
その問い掛けにウインクで答えるまお。え、何その顔。ムカつくんだが。
結局、解放されまおを待つこと数分。お淑やかなノック音と共に入って来たのは誰が見ても認める程美しく、まるで一国の姫の様なオーラを漂わせた女性だった。
「おほっ?!なんと……!」
「すっすげぇ美人……」
「あ、あの……わ……たくしで宜しいのでしょうか?」
「う、うむ!」
若干声が裏返り気味のゴーレムの長は目をハートにしながら美少女を眺める。足先から頭の先……あっ腰と胸で止めやがった。とりあえず全身舐める様に見つめる長の視線に顔を赤らめながらちらりと見つめ返す美少女に対し、生唾を飲み込んで部屋の奥へと案内するエロジジイはもはや童貞の初体験並に緊張感のあるものだった。ちなみに俺はそんな体験した事ない。
「な、何をーキャッ?!」
「うほおおおっいいのおっ!!」
カーテン越しに聞こえる会話に若干苛立ちを覚えつつ、ふと功労者であるまおの姿を探す。
「あれ、そういやまおは……」
「ん?私も知らないよ」
「まじ?んー……」
周囲を見回し探す俺ら。だがその姿は見当たらず自然とその視線はカーテン越しの美少女に向けられる。もしやと思いその動きに注目していると、突然叫び声が聞こえた。
「おおおっ?!な、なんじゃこれは?!お、お、おおお?!」
「ふっふっふっ……我の※自主規制は世界一ィィィィィィ!!!」
「ギャァァァァァァァァァッ!!!!」
あまりの絶叫に俺らは手を合わせ南無と唱えつつ、改めてまおは雄であると実感した瞬間であった。




