あれ、俺が思ってた異世界となんか違う。
眩い光がおっさんと共に消え、やっとの思いで目を開いた俺は周囲を見渡す。
舗装されていない土道。いかにもモンスターが出そうな森。そして通って行くのは馬車!!
「本っ当にキタァァァァ!!異世界だ!!ザ・異世界だよ!!」
テンションが上がり飛び跳ねる俺。その肉体は元の世界に居た時より少し強化されているのか、バク転まで出来てしまう。ありがとうおっさん。最高だよ。
「ま、本当ならチート能力の一つくらいくれても良かったんだけどなぁ。まぁいい。とりあえずまずは街だ。ネトゲで鍛えた勘がそう言ってるぜ」
思い立ったが吉日。すぐさま行動に移そうとー
「そこの君、危ない!!」
可愛らしい声が響く。振り返ると何やら巨大な水飴がー
「これは……スライム?!でかっ?!えええっ?!」
「早く逃げて!!こっち!!」
巨大なスライムから逃げ惑う俺。声の元に向かい必死に逃げると、後ろからぽよんっと柔らかそうな音を立てて巨大なスライムが追ってくる。
「くっそ、こんな所に来てまで逃げ回るだけかよ!!」
目の前から身の丈程はある巨大な剣と盾を持った少女が飛び出す。まさしくファイターな少女は、剣を振りかぶりスライム目掛けー
「あっ、足元気を付けて!!」
「へっ?……きゃっ?!」
思い切りずっこけた。その拍子にどこかへ飛んでいった大剣は地面に突き刺さり、エクスカリバーよろしく状態になっていた。だが、少女の悲劇はそれだけでは済まない。起き上がった彼女の目の前には巨大なスライムが接近しており、正に絶体絶命た言うべき状況だった。
「くっそ、開幕覚醒的な事起きねーのかよ!!もういいっ、なるようになれだ!!」
「ちょっ君?!来たら危ないからっ!!」
「うるせー!!目の前で女の子がやられそうになってるのを見逃す訳にはいかねーんだよ!!!!」
渾身の力を込めてスライムを殴る。だが、体の殆どが水分でできているスライムに打撃など当然効くわけも無くー
「プキュ?」
「ちょっあっやめてっ拳を捕らえないで、謝るから!!謝るから手を離して!!」
隣で白けた眼差しを向ける少女に見守られながら、巨大スライムは俺の体を持ち上げトランポリンの如く遊び始めた。
「いや、あの……別にスライムって人間に危害加えないし……」
「ちょっ先に言えよ!!じゃあ何で剣で切り掛かったんだよ!!」
「いや、お肌に良いらしいから一部貰おうと思って。最近女の子の中ではブームなのよ?」
「んな物騒なブームあってたまるか!!てか下ろせ!!」
「キュッキュッ!!」
結局、一頻り遊んだスライムは満足そうな顔をしながら口笛を吹き、何処かを目指して跳ねていく。対し弄ばれた俺は疲れ果てながら呆れる少女に声をかける。
「……で、あんた名前は?」
「いや、ごめんナンパはちょっと無理」
「ちげぇよ!!一応恩人の名前と後は近くの街は何処にあるのか聞きたいだけだ!!」
「良かった……何か君不幸を纏ってそうだから恋人にはしたくないのごめんね。近くの街はあの方向。私の名前は……やっぱ匿名希望で」
舌を出して戯ける少女。よく見ると可愛らしい顔立ちをしている彼女に苛立ちつつも感謝を述べ、言われた方向に向かい歩き出した。
「気をつけなよー。この辺は物騒だからねー!!」
「ある意味あんたが物騒だわ!!ありがとな!!」
叫びながら振り返り、言われた方向にある街を目指して歩き始める。すると、道端で震えながら倒れてる悪魔を見かけた。
「……明らかにあかんやつやん。無視しよう」
「……そんな……やっぱり人間は酷い……我々には無慈悲なんだ……」
泣きじゃくる悪魔。それを見て苛立ちながら無視をして街を目指す。
「いや、あの。ついてこないでください」
「ち、違うぞ?!我は偶々こちらに用が……」
「悪魔のツンデレなんか嬉しくないわ!!つか大体あんたさっき逆方向向いてただろう!!どんな歩き方してんだよ!!」
「んー、こんな感じ?」
華麗にムーンウォークを決める悪魔。そして俺の周りをぐるぐるとムーンウォークで歩き始め、最後に高い声をあげてこちらを見つめる。
「うわー。すげぇ殴りたい。完成度高いから尚更殴りたい」
「そんな褒められても…照れる」
「気色悪いわ!わかったよ、何の用だよ?つか誰だよ!!」
頬を染めクネクネし始めた悪魔に吐き気を催し、仕方が無く話を聞く。
「ありがとう!!実はな、我は先月まで魔王をしていたのだが……魔王城って賃貸でな、家賃が払えなくて追い出されてな……」
「どんな魔王だよ!つか部下とかどうしたんだよ!」
「いや、あまりに金が無くて冒険者に売った」
「最低だなおい!つか魔王なら魔王らしく人々から富を奪ったりしろよ!」
「無理無理無理!!だって怖いじゃん?大家さんとか人間だったけど1ヶ月滞納しただけでガチのプリースト呼んで来たし。マジ人間って悪魔」
「お前にだけは言われたくないわ!!」
あまりにも阿呆らしい魔王に呆れ、街を目指し歩こうとする。すると、魔王は泣きながらしがみつき、必死に俺を足止めした。
「お願いします雇ってください!!道具屋でも何でもしますから!!」
「煩いわ!!つか力強いなおい!やめろ、服が破ける!離れろ!!」
「いーやー!!またぼっちは嫌!お願い本当に寂しいから一晩だけでもここにいて!!」
「ふざけんな!!部下を売りさばいた罰だ!討伐されろバーカバーカ!」
何とか振り切り急いで街の方に向かう。だが、振り切られた魔王は遂にキレて魔法を唱え始める。
「わかりました。そこ迄我を見捨てようとするなら……この先貴方が向かう街全て破壊し尽くします……それなら一緒に居てくれますよね……?」
「今度はヤンデレかよ!!ふざけんな、初めからそうすればお前はずっと魔王じゃねぇか!!」
目に見える程魔力を高める魔王。それは魔王を名乗るに相応しく凄まじい威力を高めー
「ちょっと邪魔!こんな所で魔法を唱えたら危ないでしょ!」
「ご、ごめんなさいお嬢ちゃんっもうしないからね、本当だよ!」
道を歩く幼女に叱られ、落ち込んだ魔王は、とぼとぼとこちらに向かい歩き出した。