野宿とはログハウスを建てることである
第3の山を目指し歩く事約3時間。流石に疲れきった俺はコバルトに乗せてもらいながらも道を進むと、漸く第2の山の麓へと到達した。
「この先進むには暗くなりすぎてるわね。流石にこの山を夜道で進むのは危険だわ」
目と鼻の先にある山を指差してノウンが止まる。だが、此処までの道中罠や超落下はあったもののモンスター等の襲撃は無い。これまで通り罠を記憶しているノウンの指示に従えば良いのでは無いかと考える。
しかし、その考えを既に悟っていたのかノウンは、地図を広げて説明を始めた。
「この先。丁度そこに川があるでしょう?そこから先はもうゴーレム自治区の郊外なの。言わばオーガとゴーレムの境界線がここ。第3の山以降はゴーレムの管理下にあるから山の状況が良く分からないのよ」
「成る程。もしかするとモンスターの襲撃やゴーレムの襲撃があり得るのですね」
「そういう事よ。私達の山は徹底的な管理を行っているから無知なモンスターは大抵谷底に落ちてるの。だけどあっちは無法地帯。特に夜なんて悪魔やアンデッド、それに夜行性の肉食動物達まで自由に闊歩しているわ」
両手を広げ威嚇するポーズをとるノウン。可愛らしくシャーッと威嚇しているのだがオーガがこれをやるとシャレにならない程怖い。何せ吊り上がった口角から岩をも砕きそうな牙が現れ、夕焼けに照らされて鈍く光り輝いていたからである。
「わ、分かった。それでは今夜はこの辺で泊まるか。夜営の準備をしよう」
「え、夜営?そんなの必要無いわよ」
「えっ」
意気揚々と宣言した俺に対し、惚けた表情でこちらを見つめるキュリア。その表情を見る限り、何やら策があるらしい。
「このメンバーなら直ぐに良いものが出来るわ。奏とノウンはちょっとここで待ってて。コバルト、ゴミ、着いてきて?」
「待って下さい?!もしかしてゴミって私ですか?!」
「えっ……他に居る?」
「流石に我でも挫けそう……ぐすん」
『何、閣下の事だ。直ぐに立ち直れよう』
意気揚々と歩くキュリアを先頭にとぼとぼ歩くまお、そしてぽよんぽよんと跳ねるコバルトが森の中へと消えていった。まさかと思い苦笑いしていると、その予感が的中し森から複数の丸太が飛んできた。
「うわー、やっぱりそうだよなぁ……」
「成る程。ここに小屋を建てろと。しかし土台となる石が無いわね」
その時。恐らくまおが加工したであろう四角い石が複数個飛んできて上手い事積み上がり始めた。
「うわー、まおが酷使されてるなぁこれ。良いぞもっとやれ」
「主様って時折酷いわよね。まぁもっとやれには概ね同意だけど」
「ノウンも大概じゃねーか、まぁけど」
『まおだししょうがないよね』
「我は地獄耳なんですけどッ?!?!?!」
馬鹿でかい声で叫んだまおのせいで一斉に鳥が飛び立ち、一時辺りは羽音だらけとなった。その様子に苦笑しながらノウンは積まれた石を綺麗に配置し土台にする。因みに接着には丸太から溢れた樹脂を集めて行っており、何とも手際の良い作業風景だった。
そのまま組みあがった土台に建てた丸太を軸に、麻糸で編んだ綱を使って器用に骨組みを作り始める。その頃、飛んできていた丸太にも変化が現れており、縦半分に切ったもの、両面とも平らにして仕切りや床用に切られたら平らな木材まで現れていた。
「次、麻糸と木材くれー」
因みに俺はこんな感じでノウンの欲しいものを叫んでいるだけである。だが、俺レーダーが異様に過敏なまおにはそれが良いらしく自慢の地獄耳で的確にキュリアに伝えていた。そしてそれをコバルトの弾性に任せてこちらに飛ばし、ノウンが軽く受け取っている風景が続いていた。
それから組み上げる事2時間。夜の帳が降り始めた頃に簡易的なログハウスは組みあがった。とある戦国武将が作り上げた一夜城並に手早く作り上げられたそれは簡素な作りながらも部屋わけなどもしてあるらしい。だが、ここで俺は重大な事実に気づいてしまう。
「……で、この家どこから入るんだ?」
「……あっ」
「ちょ……ノウンさん?!」
舌を出しててへぺろするノウン。ちょっと可愛いじゃねーか。しかしこのままでは結局野宿となる。ここはひとつ声をかけるか。
「扉用の木材とキュリアをくれ!!」
「ふぁっ?!」
「ん?」
少ししてキュリアの驚きの声が木霊した。だがキュリアが居なければ扉用のスペースを確保できない。当然の判断である。
だが、キュリアは顔を赤らめながらこちらに戻ってきて事情を聞くや否や持ってきた木の板を思い切り振り回し始めた。
「何いきなり言うと思ったら……この破廉恥!!」
「な、何がだよ?!それより扉用のスペースを切ってくれ!」
「ぐっ……ばかっ!!これで良いの?!」
鮮やかな剣捌きで綺麗に切り取られたスペースは、丁度扉用より少し狭く凹型になっていた。そしてその凹型にはめ込む形で付けられた扉は左右開きの見事な引き戸となり、その引き戸を開けるための左右の溝も作られていた。
こうして、俺らの一時的な住まいであるログハウスは完成され俺らは中に入った。
屋根付きで雨の心配の無いこのログハウスは、何と各人の部屋まで分けてありどこから取ってきたのか布団代わりに藁まで敷かれていた。その完璧な作りに俺らは感動していると、1人だけ不満そうに声を上げた奴がいた。
「あの?!我だけなんかおかしく無いですか?!」
「ん?何がだい?」
「いやいや、みんな立派な部屋ですけど我だけなんか違うんですけど?!」
駄々をこねるまお。その指差す先には扉が付いており、中を覗くとー
「わお。すげぇ。スカイビューじゃん」
「空どころか周りの森まで見えてるんですよ?!」
そこは床だけはあるものの壁も屋根も無い開放感に溢れすぎた部屋となっていた。と言うか一角だけ壁を凹ませていたのはこういう事だったのか。
「まぁあれだよね。私やキュリアはかなり貢献したからいいでしょ?コバルトはここまで資材飛ばしてたし。で、外道は何してたのかわかんなかったからつい」
「いやあの?!木材加工や伝達、方向の微調整など全てやってたのですよ?!」
待遇の酷さに鼻水まで垂らして泣き始めるまお。お前は子供か。
しかし、そこまで頑張ったまおに対しこれは確かに非道だと思った。普段の頑張りの割には活躍していたみたいだしな。
「それならまおが俺の部屋を使えばいい。俺がそこで寝るさ。丁度夜風を浴びたかったしな」
「ちょ、主様何言ってんの?!」
俺の言葉に慌てるノウン。しかしそれを手で制し俺は続けた。
「いや、いいんだ。思えばまおは普段から結構頑張っているが俺と契約していないというだけで不遇な扱いだ。それに本来なら元魔王として崇められていたり恐れられるべき存在だ。そろそろ扱い方を改めようかなってな」
「ご主人様……そこまで我を……」
「だったら私がそこで寝るさ。虐めたのは私だし責任取るよ」
『いや、それなら我が寝よう。何。スライムはどんな環境でも生き延びれるからな』
俺の言葉に続く様に2匹が手を挙げて立候補する。だがそれを目で制し首を振った。
「それなら私が行くわ。元々部外者だし」
「それはいけない。女の子が外なんて危ないだろう」
「皆さん……いえ、お気持ちだけで充分です……っ!!」
全員の優しさに涙するまお。そうだな。こいつも何だかんだ家族として見てやらないとな。そして今までで1番の笑顔を見せ、嬉しそうに口を開く。
「私はここで大丈夫です……っ魔王ですからっ!えへへ……」
『あっ、じゃあそこで決定で』
「へっ?!……ちょっ、嵌めたのですかぁぁぁぁっ?!」
ってそんな訳ないだろ。こいつは落魄れ魔王であって家族にしてはコストが重いんだよ。
結局全員から掌返しを食らったまおは夕食後しくしくと泣きながら壁のない部屋の片隅で横になっていた。




