この一瞬の為なら命をかけてやる
崖を登りきった俺らは道に沿って歩き始める。
「なんつーかさっきの崖の意味が分からないほど平和な道だな」
舗装はされていないものの獣道と呼ぶには綺麗すぎる通りに思わず気を緩ませる。だが、ノウンはそれを見て顔を顰めた。
「主様。この辺は上り下りが激しいと言ったはずだけど。気を付けないと「ギャァァァァァァァッ?!」そこの腐れ魔王みたいに落ちるわよ?」
思わず絶叫を上げたまおの方を見る。するとそこにはあたかも掘った様に見える縦穴があり、人2人分位余裕で入れるサイズをしたその中から明らかに焦り散らしたまおが現れた。
「あの、これ上り下りと言うか登り落ちでは……」
「……まぁ否定はしないわ。ここ私達が作った対侵入者用の道だし」
「なんでそんな所通るのですか?!」
何事もないかの様に言い放つノウンに思わず噛み付くまお。珍しい。まおと同意見になってしまった。
『まぁ昔からオーガとゴーレムは仲が悪いからな。この様な設備を作らなければいけないのだ』
「そうなのか。何か仲良くやってそうなイメージあるがな」
「そんなわけないって。あいつら石細工の家を推しながら木やコンクリの素材を集めようとしたらそれは後で使うやつとかごね始めるわ……」
ノウンが苛立ちながら言い放った内容は、魔法生物として知性がなく、主人には絶対忠誠を誓うゴーレムのイメージとは違い、ただのどけち野郎だった。
「なんつーか単なる守銭奴のイメージになってきたぞ……」
「大方正しいね。あいつら物々交換にしても白菜の葉1枚単位できっちりしてくるからな」
「細かっ?!なんかやだなそのイメージ!!」
何だろう。もう異世界のイメージ崩れすぎだろここ。壮大な大冒険が待ち構えてるかとワクワクしてたけど人間以上に人間味のあるモンスターが待ち構えていて若干悲しみを覚え始めたんだが。
結局落とし穴を避ける形で道を進んだ俺らは二つ目の山を後少しで越える所まで来た。しかしここで問題が発生するそこにあるのは底が見えない滝。ノウンが今度はそれを降りると言い始めたのだ。
「いや、シャレにならんだろこれは……」
「ふふっ。スリルが欲しいのでしょ?主様、ほらこっち」
「もっとまともなスリルが欲しいーん?……ちょっ?!」
呼ばれるがままノウンの方へと行くと、腰と膝を抱えられた俺はお姫様抱っこされる形に。当然逃れようと暴れるがそれを無視してまおとコバルトの方を向く。
「私に着いてきな!!」
「ちょ、何カッコつけて……っておまっ、まさか?!やめっー」
「Yeeeeeeeeeaaaaaaaaaahhhhh!!!」
「キャァァァァァァァァァッ?!?!?!」
昨日からの落ち着いた雰囲気は一転。いきなりハイになったノウンは先の見えない滝壺めがけ思い切り飛び降りた。
前代未聞の落下距離に思わず俺はノウンの大きな胸を鷲掴みしながら絶叫する。この際変態と罵られようが気にするもんか。今の俺にはおっぱいだけが頼りなんだ!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今日の私はこの山にある美容に良いとされる花を採取しに来てます。
乙女たるものお肌のケアとか大事よね。この滝の麓に咲く花は特に効果があるとか。何でも水に含まれる栄養素がとても良いとか。ついでに水も持って帰ろうかな。
それにしても良いところねここ。空気は澄んでいるし森の静けさというのがとてもー
「ーー!!!」
「ーァァァァァァァァッ?!?!?!」
……こんな山にも風情の分からない奴は居るのね。しかもこの声は男。だから野蛮な性別だって言われるのよ。
風情の分からない野蛮人は叩き斬るしかないわね。さてと、何処から現れるのかしら……。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬゥゥゥゥ!!!」
「あはははははははっ!!!」
「えっ……まさか……上?」
声の方向から無礼な者を探り当てた私だが、予想以上に近い。このままでは叩き斬る前に水に衝突して死ぬ?!
「ちょ、馬鹿なの?!あぶなー」
なりふり構わず飛び出そうとする私。だが、一歩遅く目の前に落ちてきた大きな影は見事着水しー
「ごばべばべべばぼ?!」
滝の麓から突然飛び出した少女はノウン達が起こした津波に飲み込まれた。




