人生山あり崖あり?
隣のゴーレム自治区へは幾つかの山道を通り抜けて行かなければならないらしく、俺らは今二つ目の山道を通り抜けていた。
「ここから暫くは上り下りの激しい道になってるの。気をつけて付いてきてね」
「分かった。最悪コバルト、アレをやるぞ」
『しかと理解した』
ノウンの警告を聞きながら先へ先へと進む。すると、そんな俺らの道を阻むかの如く巨大な壁の様な崖が目の前に現れた。
「さて、登るわよ」
「ちょちょちょ待て。上り下りの上りは坂じゃなくて崖を登る方かよ?!」
「ええ、そうよ。私達はこれ位跳んで越えるけど主様やコバルトは厳しいと思うから頑張って登ってね」
「我も飛べるので……先に上で待ってますね」
2人はそれだけ言い残し崖の上まで飛んでいった。2人とも何だよその羨ましい力。まおはなんかグロい音立てながら羽生やしたし、ノウンに至っては地面をめり込ませて垂直跳びして行ったし。
そんな便利な能力のない俺とコバルトは茫然と崖の上を見つめる。20m位はある崖上では小さくなったノウン達が嫌がらせの様に手を振ってきている。何かムカつくな。だがこちらも閃いたぞ。
「なぁコバルト。近くに水場はないか?」
『む?……少し戻った所に一箇所。それがどうかしたか?』
「閃いたんだよ。そこに行くぞ」
俺はコバルトが持ついわゆるパッシブスキルの周辺察知スキルを活用し水源や川が無いかを調べる。それに応えたコバルトを連れ水場へと向かうと大きめな川原が現れた。
「おしコバルト。飲めるだけ飲め」
『成る程。理解したぞ』
俺の意志が伝わったらしいコバルトは噛まれても痛くなさそうな口を大きく開いて川に飛び込む。するとその体はみるみる大きくなっていき、最早一つの丘並に膨れ上がった。
『これだけあれば届くだろう』
「おおー、予想以上に飲んだな。完璧だ!」
10mを楽々越える大きさとなったコバルトを連れて俺は先程の崖に戻る。目的は一つ。巨体とスライム独自の柔軟性を用いた大跳躍だ。
既に登る事が出来ない高さとなった為コバルトの口の中に入った俺は衝撃に備えて唇?を掴みながら体を圧縮させ始める。そしてそのままコバルトの体を捩じらせ、バネの様にさせた俺は準備完了と共に命じる。
「跳べ!!全力で跳べ!!!」
『任せろ!!』
体を維持したまま全力の跳躍。あと少しで届きそうな所で止まったコバルトは一度落下していく。だが、ここからが本当の狙いだ。
「そのままー着地と同時に全てを開放しろ!」
『了解したぞ!!!』
2回目の跳躍。負荷を与えられたバネの如く跳び上がったコバルトは螺旋を描きながら真っ直ぐ崖の上を目指す。世紀の大跳躍とも言えるそれは見事崖の高さまで届いた。だが、肝心な事に気付く。縦軸は合格ラインに届いたが横軸はどうする。まさかコバルトに羽ばたけとは言えまい。正に悲しみを背負ったその時だった。
『主を受け取れ!ノウン!!』
「えっ、おう任せな!」
「えっちょ……っ?!」
その意味を聞く暇もなく口内に力を入れたコバルトは、ノウン目掛けて俺を思い切り吹き飛ばした。見事ノウンの逞しい両腕に抱え込まれた俺は、目の前に広がる二つの山に誘惑されつつも急いで振り向く。そこには腕があればサムズアップをしていただろうコバルトが、無駄にいい顔をして落下していく姿があった。
「おい……嘘だろ?!
コバルトォォォォォォッ!!」
思わず叫び崖に走り込んで下を覗く。そこには段々と小さくなっていくコバルトが……コバルトが……あれ?何かここに刺さってるんだが?
『主よ。そんなに叫ばなくとも我ひとりなら体を伸ばして届くぞ』
「なっ……お前ふざけんな!!ちょっとの感動と悲しみを背負った数秒前の俺に謝れ!!!」
かくして無事に登り終えた俺らは先を目指し歩き始めた。




