こんな日常はおさらばだよ!!
ー異世界。それは誰もが憧れ誰もが望む理想の世界。
ー世の中全てが冒険の毎日で、魔法が使え可愛い女の子が寄り添うそんな世界。
ー魔王がこの地に君臨し、それを倒す勇者となる為に転移される世界。
ーそして、ヒキニートでぼっちの奴がテラチートになって暴れる素晴らしい世界!!
そんな世界に行けたらどれだけ幸せか。もしかしたら隣のクラスの中で1人くらいは行ってるのかもしれない。だとしたら俺だってー
「おい、竹倉!!貴様俺の授業中に居眠りとはいい度胸だな!!」
「あいだっ?!敵襲?!」
頭に走る強烈な痛みと共に目を覚ますと、目の前には教師姿のゴリラがー
「おい、竹倉?貴様声に出てるぞ?」
「ぐへっ?!いだいいだいっ!!」
クラスメイトの爆笑と青筋を立てながら怒りを露わにする目の前の教師によって現実に引き戻される。俺の名前は竹倉奏。高校生にして将来の夢はニート、趣味はネトゲ。そして何よりぼっちと言う転移属性まっしぐらの男である。だが、神様はいつになっても異世界に連れ出す事無く俺を現実に止め続ける。
「はぁ……早く行きたいなぁ……」
「ちょっと根暗。キモいから声出さないで」
お陰で同じクラスメイトの女子からはこの扱いである。
本来ならば華の高校生としてデビューする予定だった俺は不運な事に入学初日、学校指定のカバンでは無く夏コミ用のカバンで登校してしまいそれからずっとこの扱いである。 無論、諦めずに翌日からは真面目な感じで取り戻そうと努力するつもりだったのだが、入学シーズンはネトゲのイベントと重なる為翌日からは毎日学校で寝ていた。
それが原因で2年間友人0。付いたあだ名が根暗、ゴミ、人間界のヘドロ。最早この人生、全てをネトゲに費やしたいレベルだった。
「竹倉君、あの……」
「……ん?」
そんな俺にも最近唯一の話し相手が出来た。クラスの中でもお淑やかで可愛い女の子。見た所隠れ巨乳な上天使の様な微笑みを見せる彼女は市井瑞穂。そんな彼女が今日も話しかけてきたのである。
「あの、その……莉子ちゃんとお弁当食べたいからお昼席貸してくれる……?」
「うん、イイデスヨ」
まぁ話し相手と言ってもこの程度だが。
元々、話すきっかけになったのは先月の事。新発売のコンシューマーゲームのフラゲで並んでいた時、偶然道に迷っていた市井に道を教えた所からである。ちなみに賢しい俺は列を出る事無く目的地を聞いて指を指した。グッジョブ俺。
それからと言うものの市井だけは苗字で呼んでくれる様になり、このクラスで1番近い存在となったのである。
「瑞穂、迷って生ゴミに座る必要は無いって」
「莉子ちゃん!!だめだよ、竹倉君にも良いところあるんだから!!」
頬を膨らませながら隣の席の浜宮莉子に怒る市井。だが、その表情は徐々に曇り……
「ごめんなさい、ありませんでした……」
「だよねー。うん、瑞穂は良い子だから誰でも庇うからねー」
目の前に広がる百合百合しい状態に小さくガッツポーズしながらも、どこか心の中で泣く俺は渋々学校の屋上へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
屋上は普段誰も居ない為最近席すら奪われた俺の唯一の空間だった。青い空。白い雲。自由に空を飛ぶ鳥。穏やかな風。その全てが唯一の癒しとなった。
「……うわっあぶね!!あの鳥糞を落としやがった!!」
訂正。鳥は許さない。
屋上の陰になってある部分に座り、昼食の弁当を食べる。こんな俺でも面倒見の良い母が毎日弁当を作ってくれている。
「……おい、母よ。なんでオカズの部分まで白米なんだよ。白米を白米で食えと言うのか」
訂正。母にすら切り捨てられていた。
仕方なく白米をオカズに白米を食べていると、話し声が聞こえる。おかしい。この時間の屋上は俺の不可侵領域の筈だ。
「おや、鍵が開いてますね。生徒が誤って入らない様閉めておかねば」
「ちょっ、嘘だろおい!!」
慌てて弁当をしまい入り口へと向かう。だが、無情にも鍵の閉まる音が聞こえ、静かに階段を降りる音が聞こえる。
「ちょっ……ああああっ!!なんて日だよ全く!!」
空に向かって叫んだ声は虚しくエコーがかかる。だが、誰も返事などしてくれない。
とりあえず白米を食べて落ち着こう。
……いや無理だ。こんな日常もうごめんだ。
「ああもう、早く異世界に連れ出してくれ!!こんな日常もうごめんだよっ!!」
屋上に転がり叫ぶ。当然返事などあるはずの無い問答は、エコーがかかりながら空へと消えー
ーそんなに現世が嫌か?平和で暖かな日常が嫌か?
恐らく追い詰められているのだろう。幻聴まで聞こえ出した。きっと白米を食べ過ぎたんだ。そうに違いない。
ーおい、答えんか。現世が嫌なら連れ出してやると言ってるのだ。
うわー。これかなりやばいやつだよ。お家に帰ってネトゲしたい。
ーおいそこの根暗ヒキ学生ニート。答えんか。
「待てや!!的確に悪口言う幻聴ってなんだよ!!」
ー幻聴?違うぞい。これは幻聴では無く
「現実じゃ」
「うわわっ、誰だお前?!どこから出てきた?!」
いきなり目の前に現れたのは白いローブに身を包んだおっさん。手には曲がった杖を持ち、頭には天使の輪が付いている。なんだこれ。新手のコスプレか?
「神に向かって失礼な事を考えおる。まあいい。ゴミ根暗ヒキ学生ニート日本代表。お主は本当に異世界に行きたいのか?」
「若干増やしてんじゃねぇ!!……ああ行きたいね。行けるものなら行きたいね!!」
「ふむ。それなら連れて行っても構わんが、辛い道になるぞ。和製ゴネヒガニ。」
「略してんじゃねぇよ!!カニの種類みたいになってるじゃねぇか!!」
「行くカニ?行かないカニ?」
ぶっ飛ばしたい。今すぐ目の前でカニの真似をしているおっさんをぶっ飛ばしたい。だが……
「こんな所で燻っている程俺はゴミじゃねぇ。死線上等!!最強の勇者に俺はなってやる!!」
「ふむ。それなら良いが……いや、わかった。丁度人手が足りない世界があるからの。そこに送り届けよう」
「おっしゃ!!……って待て。普通なんかチート能力的なもの貰えるんじゃないのか?」
「あん?誰も勇者にするとは言ってないぞ。異世界に連れて行くだけじゃ。行くぞー」
「ちょっ待てやクソジジイ!!嘘だろおいー」
視界を覆う強大な光。その光に包まれ俺は異世界へと旅立った。
「死んだらぜってー呪い殺してやるクソジジイィィィィィィッ!!!!」