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Uninhabited island life  作者: 櫻井 潤
5/5

始まりの刻

ランチを終え、ショッピングモールの敷地内に併設されているアウトドアスポーツ店へと向かう。

「ルアーってあの小魚みたいなやつだよね?兄貴に貰ったやつがあるんじゃないの?」

俺の持っている釣り道具は殆どが義兄から貰ったやつだ。就職に伴い時間があまり取れないということでその道具のほとんど一式を譲り受けている。自分で揃えるとなったら1年間のバイト代全額を突っ込んでも揃えられないだけの道具は既に持っているが、ルアーなどはコレクションの意味合いもあり、少しずつ増やしていこうと考えてたのだ。

「まぁ俺も自分で一個ずつ位は毎月増やしていきたいからさ。それに自分で選んだルアーで狙い通りに釣れると嬉しいじゃん?」

「ふぅん?じゃこの前釣ったやつ釣れるヤツにしよ?あれ美味しかったからさぁ?」

・・・アナゴですか・・・アナゴはルアーで釣れるという話は聞いたことがないんだが・・・

「う~ん。アナゴの事なんだろうけどあれはルアーで釣れるって話は聞いたことないんだよ。シーバス用のルアー見に来たんだけど?」

「シーバスって昨日釣ってたスズキの事でしょ?アナゴ?の方が美味しくていいんだけどなぁ?」

う~ん。コイツにとっては美味しいか美味しくないかが一番先に来るのか、仕方ない。釣ったことないけどヒラメも釣れるって言って誤魔化そう。

「ヒラメやカンパチも釣れるかもしれないからさ、まぁこれは選ばせてよ」

ヒラメやカンパチなんぞは釣ったことはないがこれで食い付けばこっちのもん。さぁどうだ?

「へぇ?じゃ釣ったら一番に食べさせてね?今年中に釣る事!」

そりゃ狙って釣れたら苦労しないんだが・・・精々堤防の先端からしか釣り出来ない俺にはハードルが高くなってしまった感はあるが。まぁいい、気が変わらないうちに選んでしまおう。

昨夜のうちにHPを覗いて新作が出てる事は確認済みだ。問題は狙いのカラーがまだ残っているかどうかなのだが・・・

「お、あったあった!流石に売れ筋のカラーだな、もう2個しか残ってなかったよ」

残り二つのうちの一つを無事に手に取り、今日一番の笑顔を見せる俺にリョウが一言、

「ホントに釣り好きねぇ、まぁ教えたのがウチの馬鹿兄だからアタシもあんま文句言えないけどさぁ。んでどうするの?無事に欲しいのは見つかったんでしょ?」

ん?どうするって?そりゃ何も予定なければ今すぐにでも試し釣りしたいんだけど?とは流石に言えないが。欲しいおもちゃを見つけて早速遊びたい感たっぷりの表情をしていたんだろう。

「はぁ、仕方ない。んじゃそれ買って帰るよ~?釣り行きたいんでしょ?」

え?ホントですか?いいんですか?

「アタシも一緒に行くからね?夕飯のおかずになるようなもん釣りなさいよ?」

やっぱ条件付きか、ん?夕飯のおかず?アナタ作るの?

「せっかくお鍋セット買って貰ったし、アタシも使いたいのよ」と少し顔を赤らめながら一言。おかしい、なんか可愛く見えるぞコイツ。

なんにせよボウズは許されないのか。時間的には夕マズメには間に合うなと計算し、五目釣り用の仕掛けと御所望のアナゴ釣り用の仕掛けを追加してレジに向かう。

予定外ではあったが今日釣りをするというおおむねの願望は叶いそうだし、そうと決まれば少しでも早く行きたいのが釣りバカの性だ。

会計を済ませ、急ぎ足でバスの停留所に向かうとタイミング良く自宅方面行きのバスが来ていたとこだった。これ幸いとバスに乗り込み、席に座り考えを巡らせ始めた。

さて場所選びだが、ボウズは許されない、アナゴも狙える、シーバスも回遊してくると3つの条件を満たす処はウチから徒歩10分程度の港の堤防だな。本音を言えば昨日の実釣実績がある河口の橋脚回りに行きたいのだが流石にそこまで贅沢は言えん。竿を出せるだけでも儲けもんだと思い、その旨を伝える。

「ああ、あそこね。アタシもよく兄貴に連れてかれたから知ってるよ。でも釣れるの?」

どうやら義兄があまり釣りをしていて釣っているイメージはないらしい。まぁ妹を連れていく位の時間帯ではお遊び程度だったんだろうなと思うが。

「まぁ基本は朝早くか夕方だからなぁ。夜も釣れるんだぞ?よく俺と義兄で夜釣り行ってただろ?」と義兄の名誉も少し回復しておく事に。師匠が師匠なら弟子も弟子だとは思われたくない。

「あ、あれ釣りだったのね?てっきりどこかに飲みにでも行ってるのかと思ってた」と。

うぐぅ。まぁ釣行中に義兄と晩酌してたなんて事は口が裂けても言えないが。。。

そんなこんなしてる内にバスは自宅近くの停留所に。慌てて停車ボタンを押し、小銭を取り出す。

「降りたらお前は公園で待ってて。道具取ってすぐ戻ってくるから」とリョウに告げる。

玄関に道具一式は置いてあるのですぐに取って戻ってこれるだろう。下手におふくろとリョウが会うとまたぞろ余計な事態に巻き込まれかねん。

「ん、分かったよ。ジュース買って待ってるよ」

無事におふくろとのブッキングは阻止出来たのでまずは一安心。とりあえずあんまり待たせるのも悪いので急ぎ道具を取ってこないとと思い、ダッシュで自宅へ向かう俺。

玄関に駆け込み、ロッドケースとタックル一式が詰まったリュックを背負い、クーラーBOXを持って家を出ようとするとおふくろが出てきた。

「あらアンタ、お嫁さんはどうしたの?」とニヤニヤしている。

「嫁じゃねーし!あ、今夜はリョウがなんか作ってくれるらしいから用意しなくていいからな!」

最悪釣れなかったら近場のスーパーにでも行こうと腹をくくり、家を後にする。

公園に戻ると案の定、リョウは誰かさんと楽し気に電話中だった。

「あ、今来ましたよ♪はい、んじゃ頑張って釣らせますね~」うん。電話の相手はよくわかったよ。

「はいジュース」「ん、サンキュ。んじゃ行くか?」

リョウから受け取ったスポーツドリンクを飲みながら港へ向けて歩き出す。

「あの港行くならこっちの方が近道だよ?こっちから行こうよ」とリョウ

リョウが指し示した道は小高い丘をトンネルでくぐるルートだった。

「なんかあんまあのトンネル好きじゃないんだよなぁ?電気も付いてないし」と俺

「大丈夫だって。まだお化けが出てくる時間じゃないよ?」とケタケタと笑い出すリョウ。

「ちちちち違うわ!お化けなんか怖くないわ!ほら行くぞ!」やばい、完全にビビってる事を見透かされてるぞ?そんな俺を見て更に笑うリョウ。そして手が差し出された。

「はい、繋いでてあげる。これで怖くないでしょ?」

本日何度目になるかわからないが差し出された手を払いのけてまでトンネルを進む勇気は持ち合わせていない。残念だが素直に従おう。

「さ、行くよ」とリョウが言う。

「お、おう」と答え、トンネル内に足を踏み出す。いつもより空気が重い気がする。

後になって思えばこのときに感じた違和感に従ってトンネルを使わなければ・・・

トンネルを半ば程まで来たときに『ソレ』はやってきた。

突然風が吹き抜け、辺りが一瞬にして白んでくる。本能的に危機感を感じた俺は状況の変化に戸惑っているリョウの手を強く握り返し、出口があるであろう方に進み出す。

「もう少しで出口だからな!手離すなよ!」とリョウに声をかけ、光が差してきた方へ向かう。


「よし出口だ!もう大丈夫だぞ?って、あれ?」見慣れたはずの景色が・・・無い。

「ふぅ、怖かった。って?え?ここどこ?」リョウが怯えた目で聞いてくる。

まさかと思い、後ろを振り返るがそこにはトンネルと呼べるような代物は無く、ただ普通の洞窟がぽっかりと口を開けているのだった。





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