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Uninhabited island life  作者: 櫻井 潤
2/5

始まりの朝

「ふぁぁ、って!あれ?寝ちゃってたか?」

慌てて時間を確認すると午後9時を少し過ぎた位だった。一瞬時計の針を見直して焦ったのは内緒だ。

「ったく、おふくろも起こしてくれればいいじゃねぇかよ。夕飯食いそびれるとこだったぜ」

こちとら育ち盛りの15歳、飯抜きほど堪える事はこの世には存在しねぇと豪語出来る位には俺も良く食べる方だ。

「って、あれ?財布の中身が軽いのは俺のせいもあるんじゃね?」

アイツも食うが(遠慮なしに)俺も相応には食べている。よくよく考えてみれば食べ放題やらバイキング方式やらが多いのは俺の胃袋にも気を使ってなのかと考える。

「いや、余計なデザートを毎回キッチリチョイスされる時点でそれは無いな、無い」

よくもあれほど食べた後でデザートは別腹とキッチリ食べるアイツに限ってそんな優しい考えなどないだろうと自分の思考の間違いを正しながら階段を下り、ダイニングに向かう。

「おふくろ!夕飯何?夕飯!腹減った!」

案の定、二階の物音を察知したおふくろが鍋の中身を温めなおしているところだった。

「匂いでわかるでしょう?カレーよカレー」

決して売りに出せるとまでは言わないが俺の中では我が家最大の御馳走がこのカレーだった。

給食のカレーも甲乙付け難かったがやはり自分の胃袋をつかんで離さないのはこのカレーだ。

余所のカレーと何が違うの?と言われるとはて回答には困るが・・・隠し味でもあるのかビミョウに違うのがおふくろのカレーだ。

「了解!ライス大盛りね!よろしくおねしゃす!」

カレーは一晩置いたのが一番とか言うがあれは嘘だ。なぜなら翌日まで残ってないからだ。

大振りの両手鍋で一杯に作ってくれるのだが我が家にはもう一人このカレージャンキーが居るからまず翌日まで残っていることは無い。

幸いにももう一人のジャンキーは残業という名の接待か飲み会か、帰りが遅れているらしく俺の胃袋を存分に満たすだけのカレーは確保されたわけだが。

俺の要望に応えるべくカレー用と用意された皿に大盛りでご飯を盛り付け、そこにルーをかけていくおふくろ。

寝起きでボォーッとしていた頭が完全に目覚め、俺は一週間ぶりのカレーに没頭する事となった。


そろそろ残してやらないとジャンキー怒るな?と思いつつ3杯目のカレーを平らげた処でおふくろが発した一言に俺の思考はフリーズした。

「あ、ちなみに今日のカレーは涼ちゃん作ったやつだからねw」

は?いつの間に我が家の伝統の味をアイツは盗んだんだ?許せねぇ。ギルティ!と断罪しつつも

ニヤニヤしているおふくろの顔を見て我に返る。

ヤバい。大盛り3杯完食しちまった。これ絶対ネタにされる。

先にも言ったように我が家に俺のプライバシーなぞ存在しないのだ(主におふくろのせいで)下手すりゃ明日のネタにされかねん。ここは予防線を張らないと、と

「おふくろ!ぜってー言うなよな?俺は普通に晩飯のカレーを食っただけだからな?」

やべぇ、余計に油注いじまったかな?と思うよりも早くおふくろの一言が

「あら、さっき3杯目おかわりしてたってメールしちゃったわよ?」

・・・明日の俺・・・ごめんOrz


そんなかんやで腹一杯カレーを詰め込み、風呂へ逃げ込んで明日の対策を練る俺絶賛脳内会議中。

「どうしよう?話振られたら旨かったって答えるべき?」俺A

「アホか?そもそもアイツが作ったって知らなかったろうよ!アイツが作ったと知ってたら3杯も食うかボケ!」俺B

「いやでも旨かったのは事実だしなぁ。てかなんでアイツウチの晩飯作るんだ?」俺C

よしよし。纏めよう。取り敢えず食っちまったもんはどうにもならん。アイツにばれるのは時間の問題だ。今頃ニヤニヤしながらおふくろからのメール見てんだろうしどうにもならん。

胃袋捕まれてしまった俺は脳内会議を早々に切り上げ、口止めのデザートのランクUPを検討するのだった。


概ね脳内俺Aの模範解答に従い、話振られたら旨かったでデザートランクUPで対策を立て、風呂を出たのが午後11時過ぎ(1時間は悶々と自問自答してたわけだが)そろそろ寝ないと明日がつらい。

万が一にも遅刻でもしようものなら何追加注文されるか考えたくもないと速攻でベッドに潜り込む。

一応アラームをセットしとくかと開いた液晶には魔のメール。。。

「明日は楽しみにしてるよ♪」

アラームの回数を1回多く追加してその日は寝た。


その夜、俺は夢を見ていた。奇妙な夢だったのは覚えている。

透き通るようなエメラルドグリーンの海が強く残っている。

行ったこともないような海で俺は何故かロッドを振っている。

ああこれは俺の釣りしたい願望が夢にまで出てきてしまったんだなと思いつつ意識を手放した。


翌朝、8時にSETしたアラームで無事?に起きる事が出来た俺はいそいそとお出掛けの準備を始める。

自慢じゃないが朝は強い方だ。以外にすんなり起きる事が出来るのが自慢かもしれない。時期によっては朝マズメ(朝、日が昇るか昇んない位の時間帯)の釣りを日課にしていたからだなと

思う。まぁ今日は釣られる側の立場なんだが。

シャワーを浴び、一応年相応の男子並みに来ていく服のチョイスで悩みながら(まぁ基本はパーカーにジーンズというどこにでも居そうなスタイルだが)朝飯のトーストを頬張る。

濃い目のコーヒーを飲み干し、例によっておふくろのニヤニヤした顔を尻目に俺は家を出る。あの様子じゃ全部筒抜けだなと軽く今日の運命を呪いながら・・・


家を出て歩くこと5分、目的の児童公園に到着。

時間を確認すると8時55分。うん。約束の時間前に到着。待たされるよりは待つほうがいいってのが俺の持論。ってかいつの間にか家には迎えに行かなくなったなぁと思いながらアイツの到着を待つ。

実際、アイツの家とは道路挟んで二軒ほどの距離なのだからお互いの家まで迎え行ってもいいのだ

がある日を境に近所の児童公園が待ち合わせ場所に変更となった。

「まぁ義兄ぃにぜってえ絡まれるからだろうなぁ」

義兄とはアイツの兄貴、今年大学を卒業し地元の企業に就職した為今は実家住まいだ。

まだ鼻水垂らしてたガキンチョの自分から面倒を見て貰ってた為、兄弟の居ない俺にとっても兄貴だ。

釣りのいろはを教わったのも義兄だし、煙草や酒も教わったのは義兄だ。

一見、完璧超人に見えるリョウも唯一苦手としているのも義兄だ。流石に兄妹、アイツに打ち勝つ

術を身につけてらっしゃる。俺も今度弱みの一つも教わろうと考えてるうちにアイツが来た。

「おはよう、やっぱ遅刻はしなかったか。残念」

冗談ではない。これ以上弱みを握られてはたまったもんではない。

ほらさっさと行くぞと言わんばかりに踵を返して歩き出す俺。

「あ、ちょっと待ってよ。なんか一言位あってもいいんじゃないのアタシに」

ああ、これは昨日の件を謝れって事か。

「ああ。昨日は約束すっぽかしてゴメンな」

「うむ。解かればよろしい。今日は昨日の分まで付き合せるからね」

覚悟していたとはいえ長い一日になりそうだなと思い、ため息をつきながらバス停を目指す。

「大丈夫よ、アンタの買い物にもちゃんと付き合ってあげるから」

上から目線の言い草はなんか癪に障るがまぁ目的の一つは達成出来そうなことに少しだけ安堵した。

路線バスの停留所にて時刻表を確認し、5分位で次のバスが来る事を告げる。

「んで服って何を買うんだ?秋物はこないだ買ったんじゃないのか?」

「馬鹿ねぇ。ウィンドウショッピングも買い物なのよ?それにアンタどうせ今日アタシが誘わなかったら又一日釣りでしょ?こんな可愛い子と一日デート出来るだけでも有難く思いなさいな」

ううむ。行動パターンは読まれてるか。しかし自分で可愛い子とか言っちゃうかなコノ子は?

リョウは確かに見た目は良いと思う。件の一件で縛らなくて良くなった髪は肩甲骨の辺りまでの長さとなり、165cmという身長と相まって一見しただけでは清楚なお嬢様系にはなっている。

クラスの男子にも何名か交際を申し込んだ猛者が居たがあっさり振られたらしい。

ま、その度に俺に対する風当たりは強くなるのだが。

「お前、好きなヤツが居るって言って貴士からの告白をこないだ蹴ったらしいじゃないか?好きなヤツって3年か?」と軽く探りを入れてみる。ここで情報が手に入れば敗者のあいつらにも少しましな情報を教えてやれるだろうと。

「ん~好きな人なんて居ないよ?ただあの時はそう言えば諦めてくれるかなぁと思って」

「は?まじか?お前の好きなヤツ発言で俺に対する風当たりが厳しいんだぞ?もう少しマシな断り方しろよ」

なんせ四六時中俺と居るもんだから中には俺との関係を疑ってくるヤツも居るのだ。

「アタシさぁ、当分そういうのは要らないんだよね?って事でその分は詩音がキッチリ穴埋めしなさいよ。アンタ連れて歩いている分には余計なナンパも寄ってこないしね」

はぁ。荷物持ち兼メッシー君状態は今しばらく継続らしい。

「お、バス来たよ。ほら立った立った」

急かされる様にバス停のベンチから追い立てられた俺は仕方無く昇降口に向かうのだった。








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