その1
「僕は好きですよ」
彼女が珍しく、自分の事を卑下するような言葉を言ったので、つい言う予定の無かった言葉が僕の口から漏れた。
「なに?同情?」
「一応、本気ですけど」
「いちおう?」
「すみませんね。こういう気持ちは初めてなもので」
「それってあたしが初恋って事」
「そうですが」
「ふ〜ん。初恋って実らないものだよね」
「そんな事も言いますね……」
これはふられたって事かな?
自分でも良くわからないが、特にショックを受けなかった。
「え〜自分の事卑下する言葉は言わない方が良いですよ」
「なんで?」
「言葉には力が有るので、本当の事になりますから」
「でも、あたしは自分の事嫌い」
彼女の目を見て僕が言う。
「僕が生まれてきてから、たぶん何百人か会った女の人で、初めて好きになった人なんですよ。もう少し自信持って下さい」
「……」
「……」
彼女が目をそらしつつぼそりと言う。
「そっか」
「そうです」
「あのさ、あたしのどこが良いわけ?」
「……わ、わからないです」
「あっそ」
「本気ですよ」
彼女が急に近づいてくる。僕の目の前に顔が……ち、近い。
僕が戸惑っていると、胸にそっと手を置かれた。
ふっと笑って彼女が言う。
「大丈夫?」
大丈夫なはずがない、この人は何をしているんだ!?
顔が熱い、確実に顔が赤くなっている事だろう。
そして、彼女が何かを堪えるよう僕から離れると……。
「っくく、あはは」
なぜか爆笑された。
「……」
笑い終えると彼女が言った。
「あ〜笑った、笑った」
「酷いですね」
「ん〜と、お礼になんか一つだけお願い聞いてあげる」
「お礼? 別に何もしてないですけど」
「いいから、何か無いの!!」
「じゃあ、手を繋いで下さい」
「は?」
「ダメですかね?」
「そんなんで良いの」
「良いです」
彼女が手を差し出す。僕はそっと手を繋いだ。
「その嬉しそうな笑顔は反則」
「え?」
「なんか趣味が変わりそう」
「……」