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相談係の受難

へんじがある。ただのへんたいのようだ。

作者: 柚篠やっこ

………… えーと。

篠宮先輩は、欲望に忠実な人だと、私は思う。


《先輩、女王様とお犬様がいるのだと絶対に百合様とは距離が縮まらないと思いますが》

《今日は今日! デートは後日だよ!》


むしろ遠くなると思う。

というか、あなたはどこかのお母さんですか。


《分かりました。では、私は帰りますね。楽しんで下さい》

《ちょっと待った、桜海さん》


女王様とお犬様と行動するのはもう、デートは言えないだろうし、私がいる意味はないだろう。

旭へのバイト代を無駄に出すことになってしまったが……

仕方ない。文化祭か何かでその分、奢ってもらおう。


《出来れば、サポートはこのまま続けて欲しいんだ》

《もうこれ、デートでも何でもないですよ? 百合様と距離、縮められませんよ?》


それに、女王様とお犬様は中身はともかく見た目は美人なのだ。彼氏の1人や2人くらいいるだろうし、そういうのは詳しいだろう。


《いや、良いんだ》

《なら、何故私が?》


まあ、旭へのバイト代も無駄にはならないけど、デートサポートがないなら早く帰りたい。


《誰かに見られている、と思うことによって溢れ出す欲望を抑えられるんだ》


…… そうですか。

でもね、先輩。あなたたちを見ている人間は、私だけではないんですよ。

先輩も百合様も女王様もお犬様も全員美形だから、周囲の視線釘付けですよ!


《分かりました。ですけど、いかがわしい店とかに入ろうとしたら、即刻止めますけど良いですか?》

《そういう遊びは20歳以上からだね!》


最初のデートコース、そういうことするの入ってたよね!?

まあ、良いか。

女王様とお犬様だって、未成年には見えないし、大人なわけだから、そういう業界のトップだとしても常識くらいはわきまえているだろう。

メールはすぐ気付かない場合が多いので、お2人共、お願いします……! 本当、切実にお願いします。


「な、何、猪像に向かって拝んでんの…… 」

「色々あるんだよ、色々」


旭、だから何故、そんなに引き気味なんだ。


「色々ってなんだよ」

「小学生は知らなくて良いこと」


どうしよう、やけに旭が詳しかったらどうしよう。

将来、あんなのになって欲しくないので、私は先輩を指差し、こう告げた。


「旭、あんなのになっちゃ絶対だめだよ!? するとしても、反面教師だからね!?」

「おばさん、あの人と何があったんだよ…… いやでも、イケメンだし、中身も良さそうに見えるけど……」


思わずガシッと肩を掴み、力説すると旭はやけに首を上下に振ってこう応えた。


「甘い、甘いよ旭! 猫かぶりという言葉を知らないのか!?」

「知ってるけど…… でも、しょ、少女ま…… おばさんが読むような漫画とかで、普段は猫かぶってるけど腹黒とかあるじゃん。そういうギャップも良いとか、クラスの女子が言ってたんだけど……」


先輩曰く、隠しているだけらしいが。

まあ、学園の王子様がシスコン兼マゾの変態だということを知ったら、女子およそ450人の夢が壊されるわけなので、正しい選択だと思う。


「それは漫画の中だけだよ。現実であんな人と関わったら面倒なことになるだけだよ。そのせいで私、毎日そこにいる美少女とあの男の人の愚痴やらノロケやら相談を聞くことになっちゃったからね」

「おばさん、本当にあの人と何があったの!?」


旭が愕然としていた。

うん、それは何があったか知りたくなるよね。

でも、旭の友達の兄や姉に通っている高校の生徒がいて、万が一旭が友達に話して、その友達が兄姉に話して、兄姉が学校で言いふらすとも限らないので、深くは言えないけど。

でも、この可能性、かなり低いけど。


「あはははは…… また今度ね。って、あ、移動した!」

「なっ、ちょっと待ってって!」


どこに行くのか決めたのか、ベンチに座っていた女王様を筆頭に百合様、先輩と立ち上がる。

女王様を先頭にして、4人は駅とは反対方向へと歩いて行った。

その先は確か、映画館があるはずだ。

百合様との通常デートの際に考えていたデートコースである。


「映画館…… またまた、普通のところを……」

「普通じゃないのを考えてたのかよ」


さすが比較的大きな駅の近くにある映画館といったところで、やけにおしゃれな外観だった。

自動ドアの奥へと消えて行く先輩たちを見送り、私たちも中へと入る。

気付かれないようにと少し時間を置いたので、先輩たちがいなくなっていた。失敗した…… と思ったら、今公開されている映画のポスターがある壁の隅の前で立ち止まっていた。

見る映画を決めているんだろう。


通常デートだった場合、私は先輩に最近人気の純愛系映画をを勧めるつもりだった。

まだ正式なカップルではないし、………… いやだから、近親相姦推奨してどうする。

とにかく、片方だけがもう片方を好きなような恋愛感情を持つ美形残念兄妹が見るには、多少、恥ずかしくはなるだろう。

………… いや、でも、図太い神経の2人なら普通に見てしまうかもしれない。


「おーい、そこの2人ー。見たい映画は決まったか?」

「私たちは、何でも良いですよ〜」


いつのまにからポップコーンやらドリンクやらを買っていた女王様とお犬様はにっこりと微笑む。

兄妹はその声に振り返り、目を輝かせた。


「わ、わたくしごときが選んでよろしいのでしょうか……!?」

「そりゃ勿論」


百合様が興奮気味に言うと、女王様は苦笑しながら告げる。

それにうんうん、と大きく頷くと百合様は、中央にあった最近公開された映画のポスターを指差す。

その先には、“王様(あなた)奴隷(わたし)〜愛と欲望に溺れて〜”という見るからにそっち系な映画だった。

ここまで、名作を台無しにする題名ってないんじゃないだろうか。

ギリギリ大丈夫だったらしく、R-15指定だった。18だったらどうするつもりだったんですか。

というか、先輩、心なしか目が輝いているように見えますが。


《先輩、百合様の好感度を少しでも上げたいなら、その右隣のポスターを選んだ方が得策です》


急いでメールを打つと、送信する。

私が指定した映画は、通常デート時に見てもらうつもりだった恋愛映画だ。

向こうは気付いたのか気付かなかったのかは分からないが、こくり、と神妙に頷くと口を開く。


「じゃあ、僕もそれで!」


…… 先輩、メール見ましたか。

というか、チケットカウンターのお姉さん、ドン引きしてますよ。

(はた)から見たら、先輩たちのグループってイケメン1人に美少女1人、美女2人の美形ハーレムだからな。

それに、代表してチケット買っているのが先輩で、その後ろに3人という構図だから、下手したら無垢な美少女、美女たちを毒牙にかけ、こんなものを見させるという鬼畜男に見えなくもないですよ!


「…… 旭。堪えるんだ」

「は、はあ!? 何だよ、え、おばさん、どういうこと!?」


先輩たちを尾行する、ということは当然私と旭も同じ映画を見なければいけないということだ。

旭は一応、15歳以上の私がいるので映画は見れるのだが、チケットカウンターのお姉さんにはどう見えるのだろうか。

何も知らない無垢な少年をこんな世界へと連れ込む最低なショタコン高校生とでも思われるのだろうか。

…… 頑張れ、頑張れ私!


「すみません、“王様(あなた)奴隷(わたし)〜愛と欲望に溺れて”、高校生と小学生1枚ずつ……」

「は、はい。こちらですね。2000円になります。お席はどうされますか?」


お姉さんは、カウンターに取り付けてあるタッチパネルを操作すると、席がかかれた図を映す。

そういえば、先輩に席を聞いておくべきだったな。

と思いつつ、パネルを見ると、真ん中あたりの4席しかうまっていなかった。

…… やっぱ、見る人いないんだな。


「ここの2席でお願いします」


先輩たちの席から2列離れたところを指差すと、お姉さんはかしこまりましたと言い、チケットを取り出した。

私もお金を払い、それを受け取る。


「旭。ポップコーンは別料金だよ」

「何故分かった!?」


そりゃあ、そこまで売り場を凝視されては、分かりたくなくても分かる。

私だって食べたいが、如何せん、今月はピンチなので静かにそう告げた。


「…… ジュースだけだよ」

「なっ!? 買えなんて言ってないし!」


だから、何故素直にお礼が言えないんだ、弟よ……

だけど、そんなことを言った割にはしっかり好きな味を選んでいた。しかも、サイズはLだった。

そんなんじゃ、映画の最中にトイレに行きたくなるぞ。…… いや、旭の教育上、あまり記憶に残って欲しくないものなので、行っててもらった方が良いのか。まあいいや。


「“王様(あなた)奴隷(わたし)〜愛と欲望に溺れて〜”、5番スクリーンにより入場になりまーす」


チケットゲートから、気の抜けたようなスタッフの声が聞こえる。

談笑していた先輩たちはそれに気付くと、ゲートの方へと向かう。

それの後を追うように、私たちも歩き出した。



____________________



「世界って、広いなー」


映画館を出た途端、放心状態の旭がようやく口を開いた。

分かった、お姉ちゃん分かったよ…… だから、そんな悟ったようなオーラ出さないで!?

あの内容なら、まだ旭を2時間ロビーで待たせて文句を言われた方がましだった。

とにかく、あれは酷かった。

2列前のどこかの変態たちは、興奮したように鼻息の音が聞こえたが。


《面白かったね、桜海さん!》

《…… そうですね》


私には先輩のツボが分かりません。

何なんですか、そういう人たちにしか分からない何かがあるんですか!


「次、どうします〜?」

「時間的には昼か?」


お犬様の言葉に女王様が捕捉するように言う。

そういえば、もう午後1時だ。

猪像の近くのコーヒーショップで腹ごしらえしたせいでお腹が空いてなかったので、まったく気付かなかった。


「旭、お腹空いた?」

「空いてないけど」


ですよねー。あなた、ハンバーガーやらケーキやら色々食べてましたもんねー。

女王様、お犬様がいるからにはファーストフード店とかそういう軽食の店ではないだろう。

それに美形残念兄妹、お金持ちという噂なので金銭的には余裕だろうし。

…… 本格的なところから、外で待ってるか。


「夕斗、百合、腹減ってるか?」

「僕はそこまで……」

「わたくしもですわ」


お昼時にポップコーンやら食べていたし、向こうもお腹空いてないのか。

お犬様はうんうん、と頷くと口を開く。


「じゃあ、どこか行きたいところある人〜」

「じ、実はわたくし、1つありますの…… よろしいですか?」


百合様、くれぐれもそういうところはやめて下さい。

主に弟の教育的に。


「ペットショップ、ですの!」

「ペットショップ?」


女王様がそれに聞き返す。

うん、分かりますよ、それ。普通、友達というか師匠(?)と遊びにペットショップは行かないですよね。


「わたくしのお慕いしている方がデートに誘って下さいましたの。それで、彼女の飼っていらっしゃるペットの風早くんさんのエサを買うことになりまして」

「百合、それデートなのか?」


じょ、女王様鋭い……!?

後百合様、頬を染めながらはやめて下さい。

…… これは、ますますデートしなきゃいけないことになってきたな。

というか先輩、こっちを睨まないで下さい!

ばれたらどうする。


「な、何故あの美少女が我が家のペットの名を!?」


動揺していたのは、あっちだけじゃなかった。

旭は4人の会話を聞いていたのか、顔を真っ青にしながらロボットみたいな不自然な動きで私に顔を向ける。

ところで風早くんの威力で、百合様の百合発言はスルーされたみたいだ。良かった良かった。


「じゃ、そのペットショップとやらに行くか」


え、行っちゃうんだ。

まだトラウマ再生中の旭に声をかけ、地面にしゃがみこんでいたのを立たせる。


「ふふふふ…… 皆さん、それはこの私への挑戦状と受け取っても良いのですね!?」


何故そうなる。

お犬様は、さっきまでののんびりとした口調はどこへいったのか聞いたこともないような低い声で笑い出す。

それに先輩もハッとしたように目を見開くと、口を開いた。


「ペッ、ペットショップ………… それは、犬としての力が試される時!?」

「ええ…… そうです、仮にもこれは犬界のトップとしての私の実力を試される時では!」

「そして仮にも、そのお犬様から直々に犬としてのあり方を教わった僕も試される時だ……!」


頼みますから、そういうことは大声で言わないで下さい。

後、女王様も百合様も止めて下さい。何、微笑ましげに見てるんですか!


「何あの人たち。変態?」

「おー、ようやく旭も分かったか」


無表情でつぶやく旭に、私も悟ったように返す。

もう、諦めた。


「ねー、おばさん。帰りたいんだけど」

「ダメだよー、バイト代出さないよ」


もう既に背を向け、歩き出そうとしている旭の肩をがしっと掴む。

しばらくその場で足を上下に振っていた旭だったが、諦めたようにそれをやめた。


「………… あーもう! 大体、何なんだよ!? 何で尾行しなきゃいけないんだよ!? あんな映画まで見せられて! オレもう帰りたいんだけど!」

「なっ!? だって、承諾したの旭だよね!? 私だってこんなことはしたくないよ! こっちは旭と違ってバイト代も出ないしね。理由はまあ、うん、色々あるんだよ……」

「何哀愁漂わせてるの!?」


旭が逆ギレした。

というか、私だって悪いけど旭、そんな大声出したら____



「まあ、雪音さんではありませんか!」



………… ほーら、見つかった。



____________________



それからはもう、大変だった。

まず、先輩と百合様には私がショタコンだと疑われ(百合様はともかく、悪いのはどっちだ)、バイト代とか言っていたせいで、更に私が旭と援助交際をしていると思われたらしい。

完全に嘘なので、思いっきり否定しておいた。

そうしたら、何故か先輩が百合様とのデートを私がサポートしようとしたことがバレた。

百合様の怒りは、全部先輩に向かっていった。


先輩は、怒られるのかと思いきや、凄く甘やかされていた。

頭を撫でられ、良い子良い子ー、とか言われていた。

それがお仕置きになるのかと思ったが、よく考えたら先輩はマゾだった。

殴る蹴る踏みつける、そして罵倒がご褒美になる人だった。

逆にこういうことをやった方が、お仕置きになるのか。

確かに、先輩は泣きそうだった。

うん、今度先輩が何かした時のために私も覚えておこう。


そんなわけで翌日、月曜日。

百合様が教室にやって来た。


「雪音さん、本当に何とお礼を申し上げたら良いか!? ありがとうございます!」


またもやクラス中の視線が私たちに注がれ、今回は何だ何だという風に好機で満ち溢れている。

他クラスからも野次馬が来て、クラスは大にぎわいだった。

私の席は窓際なので、窓に張り付いてまで百合様を見たいという人までいた。

この教室、3階ですよ。


「え? あ、ああ、いえ別に……」

「ご謙遜なさらなくても結構ですわ!」


さりなげなく、百合様を遠ざけようとした私の思惑はどこへやら、百合様は私に思いっきり抱きついた。

百合様、衆人環視の前でそんなことやったら、どうなるか分かってるんですか。

案の定、百合様との関係を聞かれ、その日1日中私は単独行動が出来なかった。

皆、女王様、お犬様事件の時も同じような質問してたよね。


「ごめん、桜海さん!」


更には放課後、いつもの校舎裏へ向かうと篠宮先輩に会うと早々、土下座をされた。

百合様に何か言われたのか。

………… まあ、誰も見ていなかっただけ良しとするか。


そんなわけで、今まで誰とも深くは関わらなかった百合様にハグされたせいで、しばらく学校には百合様と私の百合疑惑の噂が流れた。

その噂を聞く度に百合様は、ドヤ顔だったという。

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