過去。
「ん…。」
ここはどこだろう。
ああ、死んだのかと私は悟った。
ナイフで刺したのだから、死ぬのは当たり前だ。
目をつぶって、お迎えが来るのを待った。
もしかして、地獄行きだろうか。
きっとそうだ。
彼を苦しめたから。
「なんだ?こんな所で寝て。
風邪引くぞ?」
…この声。
懐かしいな…。
まだ私達が学生だった頃、私が冬のバス停のベンチで寝てて…。
「…!?」
私が飛び起きると、彼は目をまん丸にして笑った。
「早く目、覚ませよ。」
優しい微笑み…。
私、本当は彼のことが好きだったのを見て見ぬフリをしてたのだろうか。
愛せば愛すほど、いつか彼が私の事を嫌いになってしまうのが怖くて、そうしてしまったのだろうか。
「あ、マフラー。
俺の巻く?」
昔、この一言を言われた事がある。
もしかして…私は過去に帰ってしまったのだろうか。
つまり、過去を変えればあのような悲劇を防げる。
…昔、この誘いを断ったことがある。
つまり、これを断らず「欲しい」と言えば…
簡単に言うと、素直になれば…
「…二人で使おう!」
後から少し恥ずかしくなる。
そして、彼 こと、 本田 憐は顔から戸惑いを隠せない。
「熱でもあるのか?」
そして私の額に手を置く。
本当に私は素直ではなかったのだ。
今は。
今は違う。
私は…
「ないよっ…。
ただ、今日は素直になってみようと思っただけ!
じゃあ憐には私の手袋の片方を貸してあげる。」
そうやって、私は微笑むと、彼は顔を赤くした。
可愛い。と思ってしまう自分。
「じゃあ」と改まってからマフラーを私の首に巻く、その横顔にときめいてしまったのは紛れも無い事実だ。
素直になるのは、意外と簡単だ。
ただ、素直になる決意をするのが難しいだけなのだ。
二人で同じマフラーを使って歩く。
お互いに、マフラーを引っ張らないよう気をつけて歩く。
…こういうのを、幸せというのだろうか。
「…かぐや。」
いきなり名前を呼ばれビクッと肩を震わした私に、彼は優しく微笑み、その後頬をぷくっと膨らませ言う。
「期待、していいのか?」
大胆な事を言っているくせに、目だけは素直で。
目を私から逸らして、私の返事を待っている。
「…うん」




