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SeLica ~Who am I ? ~  作者: 鴉野 兄貴
第一部。お父様。お母様。芹香は就職します。

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第七話。任官

任官式を終え、彼女は新たな人生を始める。

任官式を終え、彼は人生を終了させる事を選択しようとしている。気持ちは分からなくはないが落ち着け。

履歴書


皇紀弐千六百九拾八年拾月拾日現在


戸籍登録名 楼蘭人ロウラント 芹香セリカ

RORAND     SELICA

本名(欄に収まらない場合は別紙に記載。)

芹香セリカ 九頭龍クトゥルー 楼欄人ローラント

Selica Cthulhu Rorand

昭和113年 四月 壱日生(満 壱拾七歳) 性別 女

種 HOMO SAPIENS SAPIENS FIRST (NATURE)

現国籍、政府、本籍 新日本帝国 中央帝都政府 ○○県○○郡○○-□□

臣民番号 ○○○○▲▲▲□

現住所:神奈川県○○郡○○-□□電話 無し

連絡先:帝都○○区○○○○ 遥 夢路電話 ○○○-○○○○


年月学歴・職歴(各別にまとめて書く)

       学歴

敬愛参拾弐四帝国通信大学初等科 卒業

参拾四四帝国通信大学高等科 卒業

参拾八四帝国通信大学 ○○科 卒業見込み

       職歴

     なし


     以上


年月免許・資格・言語

  免許・資格

   なし

   

  言語:日本語(会話 読解)

     英語(読解)

     独逸語(読解)

     仏語(読解)

志望の動機、特技、好きな学科など


 諸外国からの来訪者、迷子の道案内など、

 貴隊のこまやかかつ迅速な対応に親しみを感じました。

 入隊の暁には貴隊の活動を通して帝都に貢献していく所存です。


 特技:算盤、洋裁、和裁、琴、家庭料理など。

 好きな学科 対象歴史認識学通勤時間  約 0時間  20分

扶養家族数(配偶者を除く) 0人

配偶者及び配偶者の扶養義務 無し

本人希望記入欄(特に職種、勤務時間帯、勤務地、 其の他についての希望などがあれば記入


職種:広報、または観光案内を希望します。

勤務地 中央区を希望します。


保護者または保証人(本人が未成年者のみ記入)

ハルカナル ユメジ

 遥 夢路

Harukanaru Yumezi

住所 帝都○○区○○○○ 電話○○○-○○○○

********************************


 新日本帝国・中央帝都政府。人事部人事課。

セリカ(芹香)はここで『任官式』を受ける。

式は一対一で行われ、簡単な命令文と宣誓の言葉を述べて終わりである。


 履歴書は送らねばならないが、

志望者がその職業の実態を正確に把握してないと判断されない限り、

原則として一発採用となる。


 この世界の就業はかなり大変である。

最低一年間は食費、生活費(原則的に現物支給される)と僅かな小遣い銭を除いて完全に無給であり、

実労働時間6時間、『鍛錬』なども考慮すれば12時間勤務となる。

盆、暮れ、正月それぞれの2週間、日曜日と祝日を除いて休みもない。


 この仮採用期間に本人が辞める意思を示すか、

企業(『中央帝都政府』での正式名称は『民間委託部隊』。後述)が採用するかが決まり、

晴れて採用となった時から給料が支払われ、僅かながら有給が保証されるようになり、

選挙権などをはじめとする各種権利、飲酒、喫煙、特定料金までの公営賭博場の入場権利、

国民年金などの義務が与えられる。

なお、あまりにも無能の場合、一生試用期間もありえる。


 『中央帝都政府』においては全ての人間は、

『○○士官学校』などで学んだ軍人や軍属であり、

学生たちは通常の学業や戦闘訓練のほかに、高度な職業訓練を施される。


 新日本帝国において『法律上』は一般人の火器の所持は認められていない。

が、『人権』と同等の『権利』を所有する種の中には、『人間を食べる』種族も少なからずいる。

そういった種が少なからずいる中央帝都政府では、

人間種全員を一旦国家所属の『軍人』扱いにして、

その後一般企業(『民間委託部隊』と呼ぶ)へと『派遣』させる形で、

臣民に火器を持たせ自衛手段とさせているのだ。


 「楼蘭人ローラントセリカ(芹香)君だね??」

「はい!」

ちょっと緊張して大きな声を出してしまった。大丈夫だろうか?と芹香は思った。


 しかし、『緊張』しているのは人事の人間も同じだった。

(“ちょっと”? ちょっとどころではない件)



 履歴書には。

HOMO SAPIENS SAPIENS FIRST (NATURE)……『人間』と記載されている。


 目の前の少女に目をやる彼。

いぶかしげな彼の視線にセリカ(芹香)は不思議そうに瞳を大きく開かせて彼を見ようとする。

あわてて目を逸らす彼。不思議そうにしているセリカ(芹香)。

かたちの整った耳が髪の間から垣間見えた。


(妙に耳が尖っている。)


考えなおす。


(案ずるな。許容範囲だ。『ちょっと長すぎる気もしないでは無い』程度では無いか。)


 エルフ種に憧れて整形手術を受ける若者はいないでも無い。

が、『あの種族』に偽装する愚か者を『彼等』は好んで『玩具』にすることは周知の事実である。

表向きは暗黙の了解の範囲だが。


しかし、人間の、黄色人種であるこの列島の原住民族にしては。


 13年前の『終戦』時、

『敵』の『神罰作戦』により核攻撃の雨あられを受け、

戦闘員、非戦闘員含め八割以上が戦死しながらも、

驚異の復興を成した先住日本人の生き残りにしては。

あまりにも、あまりにも、容姿が違い過ぎないか?


 黒々としたつややかな髪。

(これはいい。)


 水気たっぷりのつややかな美しい黒い肌。

(日焼けしているにしても黒すぎる。日焼けしているにしては肌の状態が美しすぎる)


 彼とて先住日本人女性の肌のきめ細やかさ、瑞々しさは知っているが、

それでも黒人やエルフや『あの種族』ほどでは無い。


しかし。宝石のような淡い青い瞳はどう説明する? 日本人は黒、もしくは濃い茶色の筈だ。


(色つきコンタクトレンズなのかもしれない)


別紙によるとセリカ(芹香)の視力は2.0以上そくていふのうだったりする。


(調査は万全だ。まさか人間と『あの種族』を間違えるなど有り得ない! )


 読者諸君にはおわかりだろうが、彼の、普段発揮されるべき真面目さは、

逆に目の前の現実をあえて無視し、書類を盲信して精神の均衡を保つ為のみに費やされていた。


 そもそも『ダークエルフ』と呼ばれる一族は、将官を目指す事はあるが、

広報や観光案内を志願する事など絶対に無い。無いはずである。


(この娘は先の大戦の英雄、楼蘭人ローラント大佐の娘に相違無い! 相違無いはずだ!)


 顔が小さすぎる。手脚が長すぎる。

細かいことを言えば鼻の頭の脂肪の粒が無い。

産毛がなさ過ぎる。皺が無さ過ぎる。大きさの割に胸の形が良過ぎる、

顔立ちが整いすぎてる。ほのかにいい匂いがする。声が美しい。


 冷静に考えれば、日本人うんぬん言う前に、こんな人間。いないから。うん。

(何を案じているのだ。自分の仕事は、たった一言喋るだけだ)


 それも既に決まった人事で、且つ本人にも通達済みの内容を、

たった一言。たった一言いえば終わる。


問題は、彼自身とおそらく帝都の人々もちょっと終わるかも? 程度だが。


「楼蘭人。……きみ楼蘭人ローラント大佐の娘かね? 」


 「父の過去の地位や所属部隊などは父から教わったことがありませんので」

戸惑うセリカ(芹香)。道中で大佐の娘と何度も指摘されたが戸惑うばかりだ。


 「そうか。不躾ぶしつけで悪いが、君は日本人だね? 」

芹香は彼が何故このような質問をするのか全く分からなかったが素直に答えた。


 「はい。『Rorand』姓は約壱百年前の『魔王戦争』の時、

戦争孤児になった父の祖父にあたる祖先が、

独逸第三帝国軍所属だったRorand氏の養子になって以来の姓です」


 ……芹香を彼は片手で制し、

異常に干乾びた喉に向けてコップの水をぶつける様に飲み干した。


 暗い部屋。その中央に静かに直立する黒い美影。

心臓がネズミのように素早く時を刻んでいく。このまま動き続ければ寿命が縮む。


 「我が新日本帝国中央帝都政府は、

貴殿を本日付けで帝都陸軍、広報部、観光課所属、

第参拾八番民間委託部隊、『帝都観光』案内所勤務を命ず」


 この一言を言えば終わる。

しかし、この一言を言ってしまうと。彼の人生も終わってしまう気がした。


 ダークエルフが。

観光客の案内役とか。


 ありえんから。

異常とか、そういう問題では無い。



 「サードネームはクトゥルーで良いのかね?

クトゥルフ、ク・リトル・リトル、クルウルウ、九頭龍。……色々呼び名がある。

人間には発音出来ないからな」


サードネームの由来はちょっと判らないんですと芹香は戸惑いつつ返答する。


 「免許、資格を全く持っていないようだが?」

相変わらずアホな質問の数々だが、要するに彼は錯乱しているのである。


「山育ちで、ラヂオの通信講座と父母の教育しか受けていないからです」


 それ以前に。

父母以外の「人間」に会うのも彼女の記憶の範囲内では無いと言って良い。

それで良く人と顔を会わせる職を選んだものである。


志望するほうもするほうだが、許可してしまう方も相当な大失敗だった。


 「保証人は…『あの』ハルカナル少尉か。

……彼とはどのような関係だね? 」


 「小父様をご存知なんですか?」

意外だった。


 何故か人事の男は。

奇妙な表情を浮かべた。


 言いにくそうに一言。

「極めて、有名な人物だ」


有名である。有名ではある。

……いろんな意味で。


「手紙のみの御付き合いですが、今回の就職に当たって色々とお世話になり、

こちらの宿まで提供してくださると仰ってくださり、感謝しています」

頭が痛いのを彼はこらえ、芹香に伝えた。


 「君の、帝都における親権者だ」「?? 」

はじめて聞いた。


 「……そうなんですか? 」

「そうだ」


 不可解な話だ。セリカ(芹香)は問い詰めた。

「何故ですか? 」「私が知っているのはそれだけだ」

不思議だった。何故だろう?


 沈黙が続く。

彼は思った。もう限界だと。

震える手で書類を持ち。もうどうにでもなれとばかりに一気に読み上げるべく目玉が動く。

この一言を言ってしまうと取り返しは効かず、

一体何人の運命が狂うかもはやさっぱり分からなかったが、それが、かれの仕事だ。


 言いたく無い。言うな。

「我が新日本帝国中央帝都政府は」

……。


 「貴殿を本日付けで帝都陸軍、広報部、観光課所属」

言っている。


 「第参拾八番民間委託部隊、『帝都観光』案内所勤務を命ず」

言い終わった。言ってしまった。

『覆水。盆に返らず』そんな古い先住日本人のことわざが頭に鳴り響いた。



 「はい!わたくし、芹香・九頭龍・楼蘭人は、

誠心誠意を持って職務に当たり、帝都に貢献してゆくことを誓います!」

遠く、はるか遠くで彼の人生を終了させる声が響いていた。


(首を吊ろう。いや、切腹しよう)


 この責任をどう果たせばよいのか、彼にはもはや分からなかったが。

やるなら早い方が良いと思った。

最後の一言は、完全に彼の意志から外れたものだった。曰く。


 「君は人間だったよね?」

「そうですよ」

不思議そうに答えるセリカ(芹香)。


即答だった。

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