第六話。鋼の手枷と護送列車
義父が施した精神操作と彼女の種族。
彼女は心も身体も傷つくことすら許されない。
悪魔の姿。微笑みを絶やさぬ少女。人形なのか人なのか。
「……変わったアクセサリですね」
セリカ(芹香)は戸惑いの色を隠せない。
厚さ15センチ。幅40センチ。縦20センチの鉄の塊に二つの穴。
「ええ。必要なのです。絶対自分から外さないでくださいね」
にこやかにセリカ(芹香)に指示する兵士。彼はだんだんセリカ(芹香)の扱いに慣れてきた。
恐ろしく素直なのだ。そして簡単に人を信じる。
言われるままに手枷にその細い腕を通す。
抗魔導された手枷が彼女の身体から魔力を抜き取ろうとするが、
セリカ(芹香)には軽い不快までしか感じない。
(都会のファッションって。変だなぁ)
全然違う。それ拘束具だから。
兵士は呪文を防ぐ猿轡をつけてもらうべきかと考えたが、流石にそれは憚れた。
セリカ(芹香)は物凄い美少女である。かなり、危険な光景になる。
それに、舌を同時に拘束する猿轡なので、唾液が外に出てかなり恥ずかしいのだ。
「♪♪ 」
腕についた大きな手枷と鎖を見ながら愉しそうにしているセリカ(芹香)。
初めての都会と未経験の「おしごと」に対する期待が彼女の心に一杯で、この異常さに気がついていない。
実際、魔族にとってこの程度は拘束にはならない。
「鉄のマガウタ」と言う術を使うと、ほとんどの金属類をただの鉱石に戻して砕いてしまえるのだ。
そして、その唄はそれほど難しい術ではない。
少なくとも幼少時のセリカ(芹香)はそれを簡単に行使して、
物置の扉をぶっ壊してしまい、父母に更に叱られることになった。本人は既に忘れているが。
「……」
セリカ(芹香)は促されるままに囚人用の護送列車の特別室に入る。
「ほかに、乗客の方はいらっしゃらないのですか? 」「あなた様専用です」
……。
頬を赤らめてセリカ(芹香)は恐縮した。
チタンで出来た特別室は、セリカ(芹香)の目から見てもお金がかかっている。
「父に、今後は三等室で良いと伝えてください」
……兵士達は特に何もいわなかった。
ちなみに、セリカ(芹香)が一般列車の三等室に入ろうものなら、
走行中の車両からでも乗客は逃げようとするだろう。本人には、当然。自覚がないが。
「……あの」
セリカ(芹香)は凄く戸惑った表情で兵士を見ようとしたので、
兵士達は必死で視線を外した。ダークエルフの瞳には魅了の力がある。
「……あまり。言いたくはないのですが。お手洗いにいきたいのですが」
「がまんしてください。たった30分です」「うううう」
セリカ(芹香)は涙目になったが、いい子なので我慢した。
そうして、完全武装の護送列車は無事、帝都に到着した。
セリカ(芹香)の護送を担当した兵士達は生きてもらえるとは到底思わなかった多額の賞与を手に戸惑うことになった。
ついでに言う。彼らは無条件で二階級特進した。
「身辺整理したんだが」「遊郭にでも繰り出すか」
「太夫を身請けできるんじゃないか? 」「……うーん」
笑顔で手を振る『楼蘭人大佐の娘』に手を振りかえし、
彼らは素直で優しい『ダークエルフ』の無事を心から祈った。
あと、それ以上に、帝都の平安を。
(やっぱ、適当に毒を盛っておいたほうがよかったかもしれない)
彼らがそう考えても、それほど不思議ではない。
ちなみに、ダークエルフには毒は効かない。
セリカ(芹香)は後日、素敵な『ひまわり畑』を見つけてそこで昼寝を愉しむことになるが。
『即死の危険。立ち入り禁止。放射能汚染高濃度』の立て札に気がつくのは更に数ヵ月後である。
ダークエルフは放射能も無効である。
……やっぱり。都会に出ないほうがよかったんじゃないか? セリカ(芹香)。
今更遅いのだが。




