第五話。春の陽射しの様に温かく。秋風の如く爽やかに
戦闘ヘリに乗り帝都を目指すセリカ(芹香)。
彼女はその善良さに反して。畏れられ、憎まれる運命。
しかし、一人の兵士は。それでも彼女の無事を祈った。
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
「あの……」
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
激しい爆音、こんな音は産まれて始めてだ。
「何ですか?? 」
「あのおじさんはっ!! 」
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
「どうなったんですか!!! 」
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
「気にしなくても構いません……早く乗ってください!」
蜻蛉を思わせる生体戦闘ヘリへとセリカ(芹香)を導く兵士。
そしてヘリは飛び立った。遥かなる帝都へと。
話は少々前後する。
今にも死にそうなほど調子が悪いおじさんの手を取り、
おじさんを励ましつつ必死で山を降りるセリカ(芹香)だったが、
おじさんの容体はもはやどんどん悪くなっていく一方だった。
顔色の悪さに加え、発熱、白髪化、髪が抜け落ち始め、汗と涙と涎、大小問わぬ失禁、
意味不明のうわ言と、“何故か”異常に脅える様子から
なにか恐ろしい幻覚すら見ているのかも知れない状況。
……事態は一刻を争うようだ。
目指す帝都軍駐屯地が見えた時、
おじさんを救うためには手を引いてあそこまで歩くより、
走って助けを呼ぶべきと考えるのは至極当然であり、実際。彼女はそうした。
帝都軍駐屯地に向けて全力疾走。
ずぺっ。転んだ。
駐屯地に向けて全力疾走する。
ぺたん。
走ってるのだか転んでるんだか。
いや、必死な彼女には悪いがこのまま転がった方が早く無いかというペースで駐屯地を目ざすセリカ。
木々の合間から柵に囲まれた駐屯地と、正門前にただずむ番兵が見える。
息急き(いきせき)駆けて急ぐ。
彼女を迎えたのは顔色の異常に悪い番兵ふたり。
完全武装していてものものしい。
セリカ(芹香)はこの辺は疎くて分からなかったが、
兵士の小銃には通常とは異なり、弾倉がついている。
(普通、暴発を恐れて警備中の兵士は弾倉を使わない)
いつでも撃てる体勢だ。
必死になって、おじさんを助けてと叫ぶセリカ(芹香)に対して、
『あなた様がいらっしゃる事は既に連絡が入っております』と番兵たちは全く頓着せず、
「その件については入れ違いで処理済みです。こちらへどうぞ」と導く。
番兵の一人が残り、もう一人がセリカ(芹香)の前を先行する。
番兵の顔が土気色である事、がたがたと震えている事から、
セリカ(芹香)は心配して声をかけようとした。「あの」
「……な!! なんでありますかっ!! 」
びくっ。
「え。いえっ! なんでも無いんですっ! 」
いきなり大声を出されてちょっと涙声になってしまうセリカ(芹香)だった。
「では、こちらへ!」
鉄条網の柵を通され、荒れたコンクリートの道を踏みしめながら、
セリカ(芹香)は体調が優れなくても、
その日すべき事はその日の内に終わらせてしまっていた父の事を思い出していた。
このひと、いまにも死にそうなのに。
―――お仕事熱心なのね。―――
全然違う。
兵は『くれぐれも指示にしたがってくださいね』
と震える声で彼女に言うと、基地内部へと導いた。
時々、他の兵士に挨拶をしようとするセリカ(芹香)を、
彼は「やめてください! 」と静止し、背中の陰に隠すようにして通りぬけると、
『あちらのヘリの中へ!!到着先で人事の者に会ってください!!』
見ると蜻蛉を思わせるデザインの『ヘリ』が地上数メートルをホバリングしていた。
いや、実際、人が内部に乗れる蜻蛉なのかも知れないが。
そして冒頭に戻る。
セリカ(芹香)は父の知り合いに挨拶しようと得意のお菓子を作って持って来ていたので、
父の知り合いに挨拶もせずに先に行って良いのかと少し戸惑った。それに。
『発進寸前のヘリに礼儀正しく乗りこんで、パイロットたちに挨拶する作法』
そんな作法は。無いと思われる。
震えながらも堂々と彼女に敬礼する番兵さんに、スカートを押さえつつなにか叫ぶ。
もういちど、番兵さんは敬礼をした。
声が届かないと知り、セリカ(芹香)は番兵さんの方に走りよった。
今にも昏倒しそうなほどに顔色が悪くなって行く兵隊さんの手のひらを取り。
兵隊さんは何故か目を固く閉じた。
「これ!!このおくすり!!
……よく効くんです!!
お体を……!! 大事にいたわって! おしごとしてくださいね! 」
爆音の中、必死に声をあげるセリカ(芹香)。
番兵さんはまじまじと可愛らしい小袋に入った薬と、
セリカ(芹香)の顔を覗き込んだ。
……その容姿の美しさより、心配げで優しそうな瞳におもわず惹き込まれた。
爆音唸るヘリの下で手を振るセリカ(芹香)に、彼は手を振り返した。
「では!!ご無事で!! 」心の底からそう叫んだ。
セリカ(芹香)は『何故か元気になった』兵隊さんに手を振り、縄はしごに手をかけた。
「ご無事で……」
遠のいてゆく『ヘリ』を眺めながら、
彼はあの美しい瞳を思い出していた。
手の平に、もう不用になった薬を握り締めて。




