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SeLica ~Who am I ? ~  作者: 鴉野 兄貴
お父様。お母様。セリカ(芹香)は雨の日は少し安心して少し寂しくなります

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月が綺麗ですね

『ちょっとゆにぃくと敵性語では表現するのでしょうか。わかりかねますごめんなさい』(芹香)

『近寄らないでほしい』(江藤)

『恩は感じていますよ。でもちょっと……』(適恵)

 ばりぼりぼりばり。


 オイシイ。おいしいとってもおいしい。

 骨が砕ける音。舌を満たす血の味。喉から鼻を貫く芳醇な脳漿の香り。

 爪で肉を引き裂き、悲鳴を楽しむのだ。


 興奮する。ずきずきする。楽しい。たまごが生まれる。


 水になり川になり、地を走り空に塗れて。

 蛇のように忍び寄り魚のごとく泳ぐのだ。


 刃も銃弾も意味がない。

 殺戮と人が呼ぶことを自覚しなかった。

 それを知ったのが愛だったのかもしれない。



 剣では彼女を倒せない。


 彼女とて自分が無敵と思っていたわけではない。そのような自覚すらなかった。

 知性も言葉もあったが自覚がなかった。敗北と死の恐怖が初めて彼女の幼稚な心を人にした。


 死にたくない。

 爪を振るう。


 死にたくない。

 水になって逃れる。


 死んでたまるか。

 刃を振り死力を尽くす。


 なのに剣を遠くから振られただけで彼女の身体は寸断される。

 彼女の攻撃は彼にまるで通じない。


「ばけものめ」

「まぁ否定はしないね」


 青年は肩をすくめた。


「お前を斬ったら、吉原にでも行こうかな程度の人でなしさ」



 青年は剣を無造作に逆手に持つと左手は順手のまま後ろに捻る。

 西洋剣術のオスクを立てたような、山口県にある武蔵小次郎像のような構え。


 下半身が魚の異形と剣を持ったヒトのような異能者は暗闇の中相対する。

 わずかな月明かりは彼女の変化した『銀の水』で煌めいた。


 異能者の剣は彼女を斬る。

 いたい。イタイ。痛い。死にたくない。


 斬れぬはずの乳房を貫かれ、両手を切り刻まれ、液体であるはずの魚の下半身は混凝土コンクリートに縫い留められて彼女は知った。絶望という感情を。そして彼女はまだ知らなかった。彼女にあった肉たちが感じた同じ感情を。


「お前は人なのか」

「……わからない」



 人だと答えればよかったのだ。

 それを言い放ってから自覚した。

 そうすれば生き残れたかもしれない。


 後悔した。死にたくない。滅びたくない。無に戻りたくない。

 なぜ生まれた。なぜ産んだ。親も兄弟も一族も存在しない合成された命を。


 誰が生んだ。

 誰が望んだ。


 誰も望んでいない。

 彼女自身もまた、自分が存在するという自覚すらなく使命を果たしまた人を殺し続けた。



 月が見えた。

 キラキラしている。

 銀色の水、自分の身体を見下ろす。

 やっぱりキラキラしている。


 だが剣は刺さっていない。



「なら、今は斬らん」


 青年は納刀をして彼女に背を向ける。

 幸いだ。なんて嬉しいのだろう。


 彼女は咢を広げ、肉汁を喉に納めんとする。

 かりそめの胃袋を満たす。かりそめの骨身が震える快感のために。


 振り返る青年と目が合った。

 彼の瞳に月を見た。


「月が綺麗」

「月を背面にして夏目漱石かよ。穏やかじゃない命乞いだな」


 喉元で剣が止まった。


「吉原に行く気が失せたわ。結構面白かったぜ」


 青年はごみを蹴飛ばしながら進む。

 彼女もそのあとに続いた。


 胸が高鳴ると人は言うらしい。

 彼女は人がわからない。


 だが、理解したい。

 そうおもうようになった。



 彼女は、殺したい人ができた。

 彼女には潰したい他人ができた。


 彼女には興味を寄せるべき存在ができた。


 彼女の周りには居場所がある。



 彼女は。人になった。

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