戦いの狭間に
離れていても、別れても、ほのかな思いは残る。
「こんにちは」サーコートから銀のミラーアーマーが見える。
兜を被っていて顔だちはわからないが、柔らかい声から若さを感じた老夫婦は暖かくその聖騎士を迎えた。
「久しぶりに来たな」青年は兜をはずし、艶やかな笑みを浮かべる。
あちこち無精ひげが残り、くたびれたコートは青年がその若さに似合わぬ激しい戦いを演じてきたことを思わせる。
「相変わらずいい雰囲気だ」珈琲を啜りながらその青年は微笑む。
カウンターに触れようともしない。鎧姿ではテーブルや椅子を傷つけてしまうという配慮なのだろう。
「どうぞご遠慮なさらずおかけになってください」老婆が気を使って着席を促すと青年は軽く手を振ってやんわりと断ってみせた。
「この編み物」手を止めた青年が壁にかかった編み物に目をやる。
「趣味のよい壁掛けですよね。気が付いたらありました」店主である老人が青年につぶやく。
ところどころ失敗とそれを補った痕があるが、編み物の上に楽しげな刺繍を施したそれは。
「我が教団の守護印だ」青年が小さくつぶやく。
軽快なジャズの音楽が鳴り、シナモンの香りが何処からかする。
「手が焼けるのにも関わらず、ぼくらの無事を祈ってくれていたのか。君は」小さくつぶやく青年。
魔族は守護印に触れると火傷を負う。
丁寧な仕事で守護印を描いた壁掛けには楽しそうに戯れる三人の人物が描かれている。
「編み物なんてあの子、出来たっけ? 」とぼける大柄の僧の全身には経文が描かれている。
「あ。コレひでぇ」僧、常勝は目ざとくその小さな刺繍を見つけた。二頭身の僧を描いた刺繍は明らかに常勝に酷似しているが、あまりうれしい容貌に描かれていない。
「この刺繍の癖は知り合いに似ているんだ」青年は懐かしそうにつぶやく。
「心当たり、全くないかな? この壁掛けを作った女性に逢いたい」
青年のつぶやきに老人たちは小さくかぶりを振ってみせた。
音楽が鳴り終わると、青年たちは小さく会釈をして去っていった。
「また来る」「来れたら。だけどな」「帰ってくるさ。必ずね」
(ばんがいへん ちょっとだけもどってきたSeLicaさん 了)




