ダークエルフは女給に向かない
お父様 お母様 私は女給になりました。
「ぎゃああああああああ」
仕事は皆尊く、大事である。
「お仕事が見つからないのです」
ずずんと落ち込むセリカ(芹香)。
実際に周囲の『影が集まっている』のだが本人に自覚はない。
心配した村上少年がスイカを差し入れてくれていたのだが最近は手を付けていない。
「ま、まぁその。いい仕事あるわよ」額からダラダラと冷や汗を流す家主一族の三姉妹長女・真由美だが。
「幼きころからの夢であった観光案内詰所業務」
セリカ(芹香)の小さな呟きは遺伝子改良人類の真由美の耳にはバッチリ届いていた。
セリカ(芹香)の失職の大きな原因は彼女の届け出ミスである。
禁制のハズの敵性音楽が近くの光学式蓄音器から流れる中、
シャリシャリと次女・智魅がかき氷を食べる音だけが響く。
「食べないの? 」智魅はかき氷を差し出した。
「……」黒く、つややかな肌を持つ長い指が智魅に伸びた。
桔梗との悲しい別離を超え、なんとか退院を果たしたセリカ(芹香)兵長だったが、
腕章の期限切れが近づいている。このままでは食人鬼の胃袋にぽこたんインしたお! しかねない。
「まぁ。お前なんか食うやついないから安心しろ」
ケラケラと笑うのは彼女の『帝都』での親権者である遥夢路少尉。
こんな残念な娘だがセリカ(芹香)はこの世界で最も恐れられる戦闘民族。魔族ことダークエルフの『純血』である。
本人にはいまいち自覚はないので残念度は更に高い。
「だって。だって。穀潰しなんて耐えられません」「俺もお前も元から居候だ」
この家の家主は軍務に行って帰ってこない。
向うでは三女の適恵がポンプの井戸水を級友の太田少年とはしゃぎながらくみ出しているのが見える。
このポンプの水は圧縮されて無電気で六時間にわたってミストクーラーとしてこの家を冷却する仕組みになっている。
「なので、腕章の期限を延ばすため、女給になることを決意しました」
涙ながらに切々と語るセリカ(芹香)。その手には『女給さん募集』のチラシ。
「娘を風俗にやる気はないんだが。九頭竜的にはアリかもしれないが」この世界ではまだウェイトレスは風俗産業に近い感覚で見られている。
理由はいろいろあるが、『買ったほうが安い』。
この世界では人間すらデザインヒューマンとして生み出すことができる。
完全な容貌と完全な接客を行うロボットやデザインヒューマンがいるのだ。
セリカ(芹香)が通おうとしている喫茶店は老夫婦が趣味で運営している雰囲気の良いお店であり、
セリカ(芹香)は以前ジャスティンこと森田と雨宿りに訪れたことがあって、あの音楽と雰囲気には密かに憧れていたのだ。
そこが求人をしていると来れば意外と行動的なセリカ(芹香)は喜んで求人応募……するかというと、軍人の一族なのにナニをやっているのだろうかなどなどの葛藤はあったらしい。とりあえず働け。
この世界のパーソナルコンピュータは『紙』と呼ばれる立体動画や『色』が直接浮かび上がる形式の画面。右手もしくは左手のみで文章を入力できる音律打鍵器。指先の支持を感知して空間に映像を出力する出入力探知機によって構成されている。
「芹香 九頭竜 楼蘭人」と書かれた履歴書の『画像』。
その三次元立体画像は真っ暗な中でサングラスをかけて、黒いフードつきローブで髪の毛まで隠した不審人物であった。
森田と訪れた時の思い出の服装であった。
「不採用」
予想通りの結果に泣き崩れるセリカ(芹香)を無視して編み物を続けるのは監視員・『図書館』。
「思いますに。直接いって情熱をぶつけるのはどうでしょうか」余計なことを言う。
「そ、そうですか」「『誠心誠意』頼み込めば就職できますよ」
表情一つ動かさず、編み針を動かす彼女に決意したように頷くセリカ(芹香)。
『図書館』の指先は夏用のセーターを編み終えていた。
セリカ(芹香)は言われたとおり、覚えたての化粧を施し、身なりをきっちり整え、スーツ姿で小さな喫茶店を訪れた。
……老夫婦は心臓麻痺をおこし、セリカ(芹香)が当面店を運営する運びになった。
数日後。
「いらっしゃいませ!!!!!!! 」
女性の体形がよく出た作務衣と和服とメイド服を合わせたような服は我々の世界の某チェーン店Aを思わせる。
その華やかな装束をまとったセリカ(芹香)の元気な声が場末の小さな喫茶店に響いた。
愛想よし、給金に文句を言わない。スタイル抜群、美貌は完璧。
若くて気遣い上手。時間厳守で一時間前にやってきて三〇分前にはスタンバイ完了している。まさに適職と思われたが。
客は予想通りセリカ(芹香)の姿をみた瞬間、全員気絶した。
結論。ダークエルフは接客業に向かない。




