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SeLica ~Who am I ? ~  作者: 鴉野 兄貴
お父様。お母様。セリカ(芹香)のお仕事が始まりました

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第十九話。河田先輩。やめてください

「愛している」「可愛い」愛しい人から言われてみたいその言葉。

しかし、そうでない異性からだと、恐怖でしかない。

セリカ(芹香)をまったく畏れない男が遂に彼女の前に現れたが。

 「ね。ね。セリカ(芹香)ちゃん。今日の勤務が終わったら僕とご飯を食べにいかない? 」

「私は保護者のハルカナル夢路ユメジと共に真由美さんのおうちに厄介になっている身です。勝手に遅く帰宅できません。真由美さんの妹の適恵カナエさんと一緒にご飯を作る約束をしております」

「だいじょうぶ! だいじょうぶ! 経理の子と僕は仲が良いんだっ! 経費で落ちるって! 」

軽薄にしてしつこい。セリカ(芹香)はおぞましさを感じた。

ダークエルフに鳥肌を立てさせる男。只者ではない。一言で言うとバカ。


 「それがお仕事で必要な事だとは私には思えません。河田先輩」

新入社員の分際で先輩に対してこの口の利き方で良いのかと内心苦悩するセリカ(芹香)だが、

真由美曰く「ソコまで言っても引き下がらないから言え」との事らしい。

真由美もまた新入社員の時に河田の口説きに閉口したらしい。


 「業務上横領は重罪ですよ」

プイッ。擬音があるならそう表現しようが無い態度でセリカ(芹香)は歩き出す。

しかし、河田は後ろから追いかけてきた。


 「ちょっとくらい良いじゃないか。泊まりの用意もしておいてね」

「しません」「今夜は最高の夜になるよ? 」「学習課題が残っています」「サボろう」「嫌です」

セリカ(芹香)は『帝都観光』の先輩、『河田かわた 義貞よしさだ』の口説きに閉口していた。


 「……『カナエちゃん』って真由美ちゃんの妹って事は……可愛いよね!? 姉妹丼キタ~! 」「……」

セリカ(芹香)は河田の言っている言葉の意味はわからないが、理解したら恐らく河田を許せなくなる類の話をされたことだけは理解した。


 「とにかく、お招きしていませんので、ついてこないで下さい」「え~? 」

義父が厳格な老人だったためかセリカ(芹香)もまた軽薄な男には虫唾が走ってしまうらしい。

セリカ(芹香)はツカツカと廊下を歩く。実はこの会社でセリカ(芹香)に声をかける『人間』はこの河田と真由美と白河しかいない。直属の上司ですら脅えてしまい、話す事すら出来ないのだ。


 横柄極まりないことで有名なセリカ(芹香)の上司である男。

新入社員相手にそんな状態では面子に関わるのだが、致し方ない事態である。

「やっぱりさ、社内の親睦を深めるためには、僕らの相互理解が必要だと」「不要です」


 不思議なことに、河田はセリカ(芹香)を見ても脅えない。

むしろ「真由美ちゃん以来の極上美少女。必ず落とす」と気合を入れている。当たり前のごとくその気合は空回りだが。

河田の手がセリカ(芹香)の手を掴む。

「ッ?! 放してください! 河田先輩ッ! 」

「つれないなぁ。ぼくはセリカ(芹香)ちゃんをこんなに可愛いと思っているのに」

そういって、セリカ(芹香)に背後から抱きつく。

「やわらかいなあ。良い匂いがするなぁ」「いやああああああ!!!!! 」

セリカ(芹香)は必死で河田を引き剥がそうとするが、河田ははなしてくれそうに無い。

「この香り、たまんないねぇ! 」


 そこに。

「河田君。うちの娘……もといセリカ(芹香)君に手を出さないでくれないかな? 」

河田の背後で優しく微笑む好々爺。セリカ(芹香)ですら気配に気付かなかった。警備主任・白河である。


 「セリカ(芹香)ちゃんが可愛いから仕方ないじゃないですか。白河軍曹! 」「……」

白河は背後から南部麒次郎開発の流れを汲む北支十九式拳銃という銃をグリグリと押し付けた。

現在では完全な骨董品だが、魔導強化や魔導弾との相性は抜群である。


 「もう一度は言わないぞ」「ハ、ハイ。軍曹殿」

「じゃ、セリカ(芹香)ちゃん、仕事が終わったら向かいの食堂で」白河はそういってほほえんだ。

白河の亡き娘とセリカ(芹香)は名前も背丈も顔立ちも比較的似ていたらしい。

そういうわけで白河はセリカ(芹香)を特別可愛がっている。


 「えっと、河田先輩。由香さんやジャスティンさん、常勝さんが待っていますので」

セリカ(芹香)はそういうとペコリと河田に頭を下げた。

無断で三人の監視を離れ、帝都の人々を脅えさせる事になればセリカ(芹香)は成すすべなく狩られる。


 「由香ちゃん! 由香ちゃん! あの清楚でキリッ! とした雰囲気がたまんないよねっ! ああ。汚したいよなぁ」

とんでもないセクハラ発言にセリカ(芹香)の頬が赤くなり、綺麗な眉が狭まった。


 「さっさと行け」

白河は好々爺の笑みを浮かべているが、目は笑っていない。

いまだ元気な河田の股間にグリグリと北支十九式を押し当てて圧倒的な殺気を込めて河田を睨んだ。


 「あ、あはは。用事を思い出した」

さしもの鈍い河田も男性器の損傷は危惧すべき案件だったようだ。

……白河はボロ布できたない物に触れた愛銃を丁寧にぬぐった。


 「まぁ、アイツには関わらないように」「は、はい……」

智魅トモミ真由美マユミにセクハラされるのとはワケが違うものがある。

というか、背後から抱きついてきたり、口づけを強要してきたり、身体に触られたりで散々だ。

どこからともなく煙のように現れる白河や真由美、三人の聖騎士達がいなければもっと酷いことになっている。


 「アイツはいまだ無給だからな。セリカ(芹香)ちゃんは早く給料もちになるようにね」「はい」

ああいうのは、嫌だ。河田には悪いが、セリカ(芹香)ですらそう思った。


……。

 ……。


 「そういうことがあったんですか」「まぁ理解できるがなぁ」

とぼけた事を言う破戒僧・常勝に侮蔑の目を向ける戦巫女・由香。

「いや。由香って胸の形良いよなぁ。『のうぶら』のはずなのに寄せて上がってるし」

真っ赤になって常勝に平手打ちをする由香だが、経で強化された常勝の体に痛みを与えることは出来ない。


 「常勝。由香をからかうな」聖騎士・ジャスティンは苦笑い。

場所変わってここは警備室。『茶』と書かれた湯飲みを手にくつろぐ五人。

「セリカ(芹香)ちゃん。肩揉んでくれんかのぅ」「はい。白河主任」

セリカ(芹香)は義父が年配だったこともあり、こういう事は得意だった。


 「俺も股間ココ揉んでくれ。擦ってくれると更に」「お前は、外に出ていいぞ」

常勝の破廉恥な言動に『聖剣』に手を添えて微笑むジャスティン。


 「く、くるしい! 持病のしゃくがっ! 」「嘘。よくないです。常勝さん」

百八の煩悩に自らを沈め、煩悩の力を身体能力に転換する。

それが願武装僧ガンボーズなのだが、同僚の心労は激しい。

上司であるジャスティンからすれば頭の痛い問題だが、常勝は『悪い』男ではない。


 所属部署が違うはずのセリカ(芹香)だが、何故か警備主任・白河の元に出向扱いになっていた。

理由は簡単。『じゃの道はへび』。


 セリカ(芹香)の行くところ、この三名が影のようについてくる。ならばとの案である。

『帝都観光』は労せずして白河一人分の給料と必要経費のみで腕利きの聖騎士をはじめとする三名と『純血』の魔族一名を警備室に迎えた。


 「しかし、見事に何も起きませんね」ジャスティンのため息に。

「そりゃ、『魔族』がいるところに喧嘩売る『眷属』はいないわなぁ」常勝が応じる。

適材適所といえる。だがセリカ(芹香)は不満だった。


 『帝都観光案内』なる本を手に、「皆様。ご、ご覧下さい。右に見えますは」とそらんじているのが何よりの証拠である。

其の様子に苦笑いしながら、「どもっちゃダメよ」と由香がアドバイスをする。

由香には戦巫女になる前において、ウグイス嬢の職業経験があるらしい。


 由香は「馴れ合うつもりはありません」と常に発言しているが、ジャスティンから見て一番馴れ合っているのは彼女である。

セリカ(芹香)もまた由香に懐いている。『子犬みたいだ』と常勝は表現した。あながち間違っていない。

 

 ほほえましい二人をニコニコと見ている二人だが。

「迷子の案内は」「目線を合わせて、しっかりしゃがんで」

「それは困るっ!!!!!!!!!! 」ジャスティンと常勝が慌てる。

子供に『魅了の瞳』を使われてはたまらない。


 「何故ですかっ! 」「ナゼて」

セリカ(芹香)の抗議に戸惑う二人。くすくすと笑う由香。

二人がセリカ(芹香)に『説明』をしてセリカ(芹香)が余計な戸惑いを得ないように由香は話題を逸らすことにした。


 「あ、これは私が作った羊羹ようかんですけど」「おっ! さすが由香っ! 」

「常勝さんにはあげません」「ケチ」セクハラばかりではそういわれても仕方がない。


 「由香ちゃんの羊羹、最高に美味しいね」

「……」「……」「……」「……」「何処から入ってきた。小僧」

白河は河田を蹴りだした。


 「本当に、懲りないな」「ですねぇ。私もこの間厭らしい目で見られました」

「俺は気が合うぞ? 最近の周回ローテーションが同じと聞いて一緒に酒を呑みに行った」


ジャスティンと由香は常勝に「なんの周回だ? 」と聞かなかった。

この破戒僧おとこの考えること。言わずもがな。


 「やはり、土曜日は濃厚に真由美ちゃん。日曜をセリカ(芹香)ちゃんで〆。

週の初めである月曜は清潔感溢れる由香が良いと意見が一致した」

「よくわかりませんが、お役に立てているようで光栄です。常勝さん」

ペコリと頭を下げるセリカ(芹香)。由香とジャスティンは何も言わない。


 「あれ? さっきまで常勝さんがいらっしゃったのに? 」

頭を上げたセリカ(芹香)は常勝が消えて戸惑っているが。


 「さぁ? 」「何処か遊びに行ったのだろう」

常勝を『神の手』を用いて富士山麓の『死神の樹海』まで吹き飛ばした由香とジャスティンは何事も無かったように茶を飲んでいる。


 「お~い! セリカ(芹香)ちゃん! 由香ちゃん! 入れて~! 」

ドンドンと扉を叩く河田の声を無視する四人。彼らは美味そうに茶を啜るのだった。


……。

 ……。


 「くそ。邪魔なジジイと聖騎士どもめ」

河田は悪態をつきながら着替えをする。河田の腕章は『更新』が出来ずに早くも色が落ちだしていた。

「しかし、俺は諦めん! 明日こそセリカ(芹香)ちゃんの」

これ以後の彼の発言は、少々掲載を見送らざるを得ない発言なので削除する。


 『腕章』は税金を滞納したり、市民の義務を放棄していると『更新』が出来ない。

河田にはそんなことをする気も無いが。


 「さて、賭場にでも行くか。終わったら遊郭にでも」

違法賭場で勝てると思っているところがお目出度い。


 夜の帝都を上機嫌で歩く河田。

河田の腕章の文字と紋章が。ゆっくり、ゆっくりと。

河田の腕章の文字と紋章が。ゆっくり、ゆっくりと消えていく。

しかし、河田は気がつくことは無かった。『腕章』の有効期日が過ぎた事に。


 次の日。

朝の光を浴びる河田。

彼はもう余計な言葉を話さない。その唇は顎の骨ごと何処かに飛んだ。

彼はもう女性の身体に触ることはない。その腕は引きちぎられ、喰われた。

彼の身体はもう女性を抱くことはない。その身体は、内蔵は全て襲撃者の胃袋に納まった。

彼……だったモノは『食人鬼オーガ』に骨までしゃぶられた『食べカス』になっていた。

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