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SeLica ~Who am I ? ~  作者: 鴉野 兄貴
お父様。お母様。セリカ(芹香)のお仕事が始まりました

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第十五話。初出勤の朝

四月。新たな日常が始まろうとしている。

春休みがなくなった適恵と大田は再開した学校に。智魅は友人の病室に。

セリカ(芹香)と真由美は『帝都観光』の初仕事へ。置いてけぼり。約一名。

 「行ってきます。お姉さま」「はい。学んでいらっしゃい」

朝もやの中、適恵はゆっくりとハルカナル家を出る。


 『一週間』経っても適恵が学校に出ない事実により、

級友の7割が精神を病んで精神病棟に送られ、9割が髪の全てが抜け落ち、

全ての学級の生徒が『適恵さん許して』『適恵さん許して』と、

半狂乱かつ必死で『電子郵便メール』を送っていた。


 その事実に適恵と大田が気がつくのは、

適恵と大田が智魅とセリカ(芹香)をはじめとする女性たちを人身売買組織から救出する一件が解決し、

ハルカナル家と大田家の郵便受けが謝罪の手紙で埋め尽くされてからであった。


 無責任な話だが、教師たちの半数以上が生徒を残して自殺し、

生きている連中の三割が再起不能の状態だった。

適恵の学校は事実上閉校に追い込まれたのである。


 各軍から新しい教師たちが任命され、校長たちが決まり、学校が再開されたのは。

適恵や大田がこの生活をはじめてから、2週間後であった。


 「大田君」

適恵は花のような笑みを見せる。朝もやといっても時間が時間。

夜も同然の中を一目散に走ってくる小柄な影。


 「適恵さん! 」大田である。

「適恵さん。息子がお世話になったようで」

若き日の美貌に年齢による色気を重ねつつも、

気品溢れる40前の女性。大田の母。共恵ともえだ。

「そんな……私は」謙遜する適恵。


 「いえ。男として、帝国軍人として当然のことをしたまでです」

唐突に現れた朝に弱いはずの青年が大田の母の手を取る。

キラキラとした瞳で大田母を見つめる男。夢路である。

「あ、あら。夢路様」「大田君は私が亡き父上に代わって……」


 「……」

ぎゅ。軽く眉を顰めた適恵は勢いをつけて夢路の靴を踏んだ。

それをみていた真由美もツカツカと歩み寄り、黙って夢路の背中をつねった。


 「おほほ。今朝も良い天気ですよね」

そういってわざとらしく大田の母に微笑む真由美。まだ太陽は昇っていない。


 「おじさーん。いい加減諦めようよ~。アレなら、あ た し と ♪ 」

いつの間にか現れた智魅が夢路の首筋に息を吹きかけながら呟く。

「吹きかけるなら、つねられたところにしてくれ」250年以上生きている夢路は、若い娘に興味がない。

自分の子供同然のハルカナル三姉妹なら尚更だ。

特に、智魅のように人をからかうことが趣味で、恋心を他人に抱いたことのない娘は論外といえる。


 「師匠、諦めも重要ですよ」「お前まで言うか」

大田は苦笑する。「父上。って言うより、師匠って言いたいですしねぇ」


 「セリカ(芹香)ちゃん。そろそろ行くわよ? 」「まってふらはいっ? 真由美さんっ?! 」

派手に転ぶ音が邸内から聞こえる。彼らは闇の中ため息をついた。


 「じゃすてぃんさん。常勝さん! おはようございまふっ?! 」

「おはよう」「おはよう。セリカ(芹香)殿」

頭に「ばっしゅ」を乗せて、「靴はどこれすかっ?!」と叫ぶ黒い肌の娘に闇の中でも白く輝く甲冑に身を纏った青年と、漆黒の経を全身に塗った破戒僧は思わず苦笑い。


 「麺麭ぱんくらい、食べてから出てきてください」

刀をもった戦巫女がセリカ(芹香)を叱責する。「ふぁい……由香さん」


 彼ら三人は、セリカ(芹香)の監視役として各神殿、寺院から正式に派遣されている。

この三人を仲立ちとして、セリカ(芹香)はやっと御近所様と「お付き合い」が許された。

『何故か』異常に脅えたり、『体調不良』に陥る御近所の皆様を癒したり宥めたりとしてくれ、セリカ(芹香)は感謝を禁じえない。今日だってセリカ(芹香)が起きる前から職場まで送ってくれるらしいし。


 「どうして、起こしてくれなかったんですか。真由美さん」「初出勤は、甘ったれない」

ツンと済ましてから優しく微笑む真由美。

「ほら、ちゃんと腕章つける。絶対外しちゃダメよ? 逮捕されるから。あと、ベレッタは持ったよね? 」


 「銃は苦手です」「筆記用具は借りればお仕舞いだけど、銃は無理よ? まず銃を持ちなさい」

真由美に叱られて厭々ベレッタを巾着袋に入れるセリカ(芹香)。苦笑する真由美。


 「じゃ、いってくるね。おじさん。鍵宜しく」そういって、夢路に鍵を渡す真由美。

「へ? 俺も共恵さんと学校まで」頓狂な声をあげる夢路に。

「いってきます。夢路小父さま。しっかり鍵をかけておいてください」

セリカ(芹香)はそういって手を振る。


 「戸締り、まったくしてないから、しっかりやっておいてね」

全国規模の大問題に発展し、大学は休校。各企業のトップの首が入れ替わる事態になった事件をセリカ(芹香)とともに解決した智魅。

柴田達の看病に向かう智魅は今までよりいっそう明るい笑みを浮かべるようになった。


 「師匠! 帝国男子。大田正宣! 学んできます! 」「大いに学んで来いっ! 」

あ。しまった。そういう夢路は、大田に戸締りを手伝わせるつもりだった。

ニヤリと笑う大田は、踵を返して刀を背に母と適恵と三人で歩きだす。


 「おじさ~ん? お土産は私のチューと、皐月庵さつきあんの饅頭とどっちがいい? 」

呆然と智魅に「饅頭」と答える夢路。


 「邸内は広いから、しっかり戸締りしてね♪ 」

夢路に『はしたなく』投げキッスをしてみせる長身の女性。真由美。

なれない智魅の真似をしてしまい、耳と首筋まで赤くなってしまう。

「と、とにかく。行ってくるから! 」

そういって、セリカ(芹香)の手を無理やり引いて歩き出す。


 「! 」誰かとぶつかる。

「あなた……」「ひっ?! 」

真由美とぶつかって震えだす娘。歳は大田と同じくらいだが、女性にしては背が高い。

「江藤。さん? でしたっけ」セリカ(芹香)が呟くと。「ひぃっ?! 」と飛びのく江藤。


 「いや。……ダメ……銀の水が襲ってくるよぉおっ?! 」「大丈夫ですよ? 」

入浴中の浴槽の栓からでも侵入してくる『銀色の水みずき』は江藤のトラウマになっている。


 「江藤さん? 」「江藤さんじゃないですか」

適恵と大田は意外な人物の登場に足を止める。大田の母もだ。


 「ごめんなさい。適恵さん。

ごめんなさい。大田君のお母様。大田君。

江藤えとう君江きみえ。このまま魔族に魂を捧げることがあっても。

……甘んじて受けます。ゆるして、下さい」


 「許します」

適恵は昼も夜も全てをあまねく照らす月の灯りのように優しく微笑む。

「僕は、僕の弱さを恥じます。適恵さん。母上。江藤。……僕を許してください」

その横にいる優しい顔立ちの少年はそれだけいって女たちに頭を下げた。


 涙腺が決壊した江藤はただ、泣くだけ。

「あ、あ、ありがとう。……ありがとう」


 その足元には、泥に汚れた二人分のノート。二週間分の学業の成果であろう。

成績を常に適恵と争う江藤のノートは綺麗な文字と解りやすいまとめで他の生徒にも閲覧されている。

学校に友人がいなかった適恵と大田にはありがたい贈り物だ。


 「ねえ」「セリカ(芹香)さん? 」

適恵と大田が笑っている。「僕ら、江藤さんを赦してあげようと思うんだけど……」

「御自由に」セリカ(芹香)はそういって、江藤の手を握り、彼女を立たせた。

「これから、宜しくお願いします」


 「……お前等、俺を軽んじてね? 」

全員が去った後、夢路は呟いた。背中に哀愁が宿っていた。

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