第二話。自立
『魔族』を世に解き放った。
『彼女』の両親は最後の瞬間を楽しみ。
そして。
荷物はすべて配送した。
(当然ながら引越し屋は悪路に対して文句を言った。)
もう引きとめることも出来ない。
セリカ(芹香)は都会に行ってしまう。
残る余生を娘と暮らす。
ずっとずっと。三人で暮らす。
それが当たり前と思っていた二人。
―――普通、若者は都会に惹かれると言うが、セリカ(芹香)は事情が違う。―――
通信教育(それも旧式の一方通行型のタイプ)で育ったセリカ(芹香)は都会の喧騒に憧れる傾向は極めて薄い。
にも関わらず、娘が外の世界に出る決心をしたのは、結局彼らの教育の賜物であった。
彼ら二人は常日頃において、
『一人前の人間は自らの権利を守り、保証する為、
社会の義務と責任を全うし、皆と家族と自分の為、絶えざる努力を怠らないもの』
……と、娘に『当たり前のこと』として聞かせていた事を考えれば娘の生真面目な性格からして、
彼女が『就職』と言う選択肢を選ぶのは当たり前の結果だったのだ。
今回、分かれて暮らす事になった理由もまた、
別に娘が都会に憧れ、外の世界に出ようとしたわけでは無く、
単純に就職先が都会にしかなかっただけであり、
この結果は、ある意味二人のミスと言える。
ともあれ、二人は最後の最後で自らが招いた形で、
娘が自分たちの希望通りに動かない事態(自立)を招く事になった。
何気なく『卒業後どうするか』聞いたところ、
「卒業後は働く。学校から送られた書類にサインした。
手続きは済んでいるから安心するように」と言う娘に、
当初は驚き、反対したが、もうどうしようもない。娘は行ってしまう。
就職することが『当たり前のこと』と思い、
知っている娘は不可思議そうな顔をしていたが。
娘は知らない。二人が反対した『本当の理由』を。
「いい?都会はいろいろな『人』がいるわ。
『何故か』あなたを見て恐がったり、泣いたりする人がいても怒ったり悲しんだりしないで。
優しくするの。きっとわかってくれるはずよ」
「そうだ。『意味も無く』襲ってくる『人』もいるが、冷静に。冷静に。
『じっと相手をよく見るんだ』
『きっとなにかに脅えている』だけだからね」
両親の忠告に素直に長い耳を揺らして傾けるセリカ。
(それにしても、『常識的に』聞けば父親の話は大げさにも程があるとも思ったが、
娘を想う父親のありがちな反応だとその時はそう思っていた。つまり、後に覆ることになる)
『行ってきます。』
可愛らしい笑みを二人に向けて旅立つ娘に手を振る両親。
娘のお気に入りの、袖の無いかわりに裾の長い白いワンピースが春風を孕み、なびく。
風になびくスカートと、つばの広い白い帽子を、
飛ばされないように押さえる娘をみて、
『あの日』はじめてセリカ(芹香)を迎えた日を想う二人。
娘は大きくなった。
あんな小さかった赤子が、育ったものだ。
気が付けば本日を持って十八歳になった。
優しく信心深く、慈悲深く、物事によく気がつき、
小動物や草木を愛し、よく笑い、親を大切にして家事も裁縫も、
自分のことも他人のこともそつ無くこなす。
二人の育てた娘は何処に出しても恥ずかしくない、今時珍しい『立派な人間』だ。
育ててよかった。心からそう思う。
しつこいくらいに手を振る娘と二人。
幸いなことに、
後ろ向きに歩いたにも関わらず、
運動の苦手なセリカ(芹香)は珍しく転ばなかった。
二人の愛する娘は、丘の上の道を降りる時に、やっと二人に背を向けた。
セリカ(芹香)の父は十八年前に仕舞ったきりの
金属の固まりをポケットから取り出した。
安全装置を外し、銃口を愛する娘の背に向けて。
……撃たなかった。
撃てなかったのかも知れない。だとすれば甘くなったものだ。
ゆっくりと自分の口中に銃口を当て、今度は引金を引いた。
彼は知らなかったが。
弾は暴発を恐れた妻が十八年前に抜いていた。
彼はゆっくりと家に向かう。
毒をなみなみと入れたお茶を片手に妻が微笑みかける。
『二人でお茶にしましょう』
彼は妻に微笑みかけた。十八年ぶりの二人の時間に。
基本的に「異世界冒険奇騨」の繋ぎとしてご覧下さい。
次回更新は未定。一旦完結扱いで様子見です。
評判を見て続きを考えるつもりっす。




