第十一話。これは拉致ですか いいえ逢引(デート)です
(真由美。帰宅)智魅? 智魅は何処かしら? セリカ(芹香)ちゃん?
え? 買い物にいって二人とも帰ってこない?
適恵。太田君。え? 逢引かって? 同性愛は収容所行きよ?
若干遡る。
「うん。完璧じゃない! セリカ(芹香)ちゃん! 」「そ、そうでしょうか」
セリカ(芹香)が戸惑うのも無理はない。
ブツブツのついた鼻と鼻毛のついた丸眼鏡に頭頂部が禿げ上がった存在意義の薄い鬘。
無理やり長い耳をおしこまれた耳当てには猫の耳がついている。
その恐ろしさ。近寄りがたさは筆舌に尽くしがたい。
身体には夢路の厚手の陸軍コートを羽織り、智魅のズボンを着せられたセリカ(芹香)。
ダークエルフや魔族でなくても近寄りがたい恐ろしいまでの異様な瘴気が遥家の道場に充満する。
「お姉さま。流石に」「智魅さん。いくらなんでも」
適恵と大田少年が流石に苦言を挟むが、智魅は意に介さない。
「これなら誰が見てもセリカ(芹香)ちゃんとわからないわよっ!? 」
魔族には見えないだろうが、明らかに不審者である。
「じゃ、適恵。悪いけど、セリカ(芹香)ちゃんの服の洗濯お願いっ! 」
汚したのは智魅である。
「私、汚されてしまいました」
セリカ(芹香)は小声で呟いた。
珍しく智魅はうろたえた。
……。
……。
「だから、アレはちょっとした親愛の情ってヤツよ」「……そうですか」
「ちょ、ちょっと、聞いてる? セリカ(芹香)ちゃん? 」「よく、聞こえますよ? 」
すらりと長い手脚の少女はツカツカと智魅を無視するように歩く。
頭には禿頭の鬘。顔には鼻毛のついた眼鏡。そしてネコミミ。
セリカ(芹香)が本気で歩くと走っているのと大差がない。
智魅は追いかけようとしたが。
セリカ(芹香)はまたすっころんだ。
セリカ(芹香)は苦笑し、智魅はセリカ(芹香)に手を差し伸べて微笑んだ。
「ほら、犬だってぺろぺろするじゃないのっ? 敵性言語でいう『すきんしっぷ』っていう」
「智魅さんは犬だったんですか? 」「むしろ猫」
ニャァと声真似をする智魅に思わず表情を緩ませてしまうセリカ(芹香)。
「ほら、今日はお姉さんが色々買ってあげるからっ?! 」
そういって後ろから抱き付いてはしゃぐ智魅にセリカ(芹香)は苦笑いした。
「……」「……」
ひどいよ~。『妹』に頭に肘入れられたよ~。そういって愚痴る智魅に、
「反射的にやってしまいました。申し訳ありません」と返すセリカ(芹香)。
「だって、こんな美味しそうなおっぱいがあったら手を出したくなるのが人情じゃないの」
「……智魅さんは同性愛者なんですね。同性愛者は精神病棟に」「調子こいてました。正直申し訳ありせん」
微妙にキャラが違う智魅。
「では、帝都の案内をしますので、今回の件は赦してくださいませ」
ぺこぺことへつらう『乳飲み姉』に「わかった。赦す」
セリカ(芹香)は明るくそういって見せた。
一週間前のセリカ(芹香)では出来ない反応であった。
「あっ?! 電車ですっ! 智魅さんっ! 」「自動車が走ってます! 智魅さん! 」
セリカ(芹香)は智魅から見て比較的どうでもいいことでも物珍しいらしく、とにかく喜んでいる。
この一週間、遥家から一歩も出ることが叶わなかったのもあるが。
「犬です! 犬がいます! 」「猫さん! 猫さん! 」
巨大な猫を抱きかかえて「連れて帰っていいですか? 」と問うセリカ(芹香)。
智魅は「ダメ」と返した。セリカ(芹香)はしょんぼりした。
ちなみに9kgはあるメイクイーン種である。
なんとかセリカ(芹香)から猫を引き剥がした智魅の隣を歩くセリカ(芹香)。
気がつくと、知らない間に三色串団子をほおばっている。智魅はそんなモノを買った記憶が無い。
「智魅さん智魅さん。この和菓子美味しいですね」「……お金払った? 」
店主が凄い目で二人を睨んでいる。
「お金って。なんですか」
不思議そうに問うセリカ(芹香)に絶句する智魅。
店主と智魅の雷が小一時間ほどセリカ(芹香)に堕ちた。
「ふざけた眼鏡や鬘しやがって。餓鬼が」とキレる店主に必死で眼鏡を取らないようにする智魅。
「……お金というものが、必要なんですね」
「本当に、本当に注意してよ? 」「ごめんなさい。智魅さん」
変装していない状態なら『すべてタダ』になるが。
「この小袋可愛いなぁ」「買って進ぜ様」「わぁい♪ さすが智魅さんっ! 」「ふぉふぉ」
「智魅さん智魅さん。この服智魅さんに似合うと思います! 」「あ。いいなぁ。でも予算が」
「あ。この服も可愛いなぁ」「買ってあげようか? 」「でもこれを買うと智魅さんの服が」
智魅はニコリと笑う。
「セリカ(芹香)ちゃんの服、買わせてよ」そういって店主にお金を押し付けた。
「♪ ♪ ♪ 」
童謡を歌いながらご機嫌のセリカ(芹香)。
そのセリカ(芹香)を見守りながら歩く智魅。
その後ろには聖騎士たちや刀を持った戦巫女や武装願僧が様子見をしている。
「隊長! 今なら一般人への被害を最小限に抑えることが」「しかし、あの娘は民間人だぞ」
「あの面妖な格好……なんの意図をもって我が帝国婦女子をかどわかそうとしているのだ? 」
「今は下手に刺激せず、監視を続けるべきです」「うむ。あの面妖な様子。何をたくらんでいるかわからぬ。皆のもの、引き続き警戒を」「はい」「はい」
そのやり取りを智魅は流し目ひとつでやり過ごし、彼らに投げキスを放った。
「?? 智魅さん。あのお坊さんたち、智魅さんのお知り合いですか? 」「ふふふ」
不思議そうに小首をかしげて彼らを眺めるセリカ(芹香)に一気に緊張を高める武装僧たち。
智魅の狙い通り、セリカ(芹香)の尋常ならざる異様な風体にかれらは監視体制にはいってくれた。
これで今日一日はのんびりと買い物を愉しむことが出来るだろう。
「あのお坊様たち、時々睨んできて怖いのですが」「気のせいよ。私たちを護ってくれるんだから」
それに。と智魅は笑う。「狙われているの。私だし」
そういって愉しそうに笑う智魅はセリカの手を取って走り出した。




