第一話。旅立ち
美しい少女は親元を離れ、都会にて彼女の人生をはじめようとする。両親の無言の心配が嬉しい。そんな素直な少女。
しかし。彼女は。人間ではない。魔族と呼ばれる存在。
朝日が星空の煌きと夜の沈黙を追い払い、朝露が闇を溶かして行く。
この文明の色の無い山奥に、いまだ棲む人がいるなどと誰が思うだろうか?
この荒れ果てた獣道を進んでいけば、小さな一軒家がある事を知っているのは、
嘗てはさておき、今は棲んでいる人々と物資を届けるわずかなものたちだけだ。
「セリカ(芹香)? 忘れ物は無いの? 歯を磨いた?
向こうに行ったら遥叔父さんにちゃんと挨拶するのよ?
あなたが御世話になるんだから……。」
朝食を済ませ、旅支度をする娘に、
母親とおぼしき(……にしては少々年を召している)
少々神経質そうな女性が次々と声をかけている。
対して、父親とおぼしき長身の老人は終始無言で、時代がかった紙の新聞を広げてはいるが、
その瞳の動きを見れば新聞の内容は上の空。
その実は今だ見えぬ娘の将来を案じている事。
それは彼の娘として長い間共に暮らした『彼女』には良くわかる事だった。
「えっと、宿題はやったかしら? 運動判定テスト結果を送った? それから……」
そんな母親の様子に。
"くす"。微笑んで。『彼女』は答えた。
「お母さん。もう学生じゃないのよ?」
そう答える娘は両親のそれとは明らかに外見が異なっていた。
風にふわふわなびく黒く、細く、大河のように輝く豊かな髪。
産まれ持った小顔がその姿を七頭身の長身にみせるが、 実際の身長は160センチそこそこ。
その体長の半分、もしくはそれ以上が悩ましいラインを描く脚部に惜しげも無く費やされ、
そのラインはそのままなめらかなカーブを描いたまま臀部のほうに向かう。
腰骨は少々小さいが、尻が締まっている為、奥行きは深い。
尻から背中、うなじの辺りまで"きゅ"と引き締まっている。
正面から見てもその飛びぬけた容貌と優れた美貌は類を見ない。
くっきりとしながらも細く長い柳眉と長いまつげは優しげな瞳を彩り、
鼻は高くは無いがすっきりとしていて小鼻は小さく、
その下にはつややかにきらめく小さなくちびる。
掘りそのものは浅くとも、メリハリの効いた顔立ちはミステリアスな美貌を醸し出している。
よく締まった綺麗な首から下には形の良い鎖骨、
鎖骨の下の窪みからは、その形の良さからは想像できないほど豊かな双峰の頂点へ。
弓の如く胸の下へすすむ線は如何なる不思議か、馴染みとけ込み下垂を見せない。
そのまま絶妙な起伏をえがく腹部へと線は伸びていく。
引き締まった手首足首の妙。
手の甲も足の甲も小さい作りだが、指の一本一本が細く、長く繊細。
どれひとつとっても世の男の欲情を促さずにいられない完璧さだが、
その上にある『人間味のある』可愛らしい表情がその悩ましさを良い意味でぶち壊していた。
なにより。
その滑らかで艶やかな漆黒の肌。
小さく、かたちよく尖った長い耳。
セリカ(芹香)は両親と同じような人間では無い。
この世界における最強の戦闘種族・魔族(通称:ダークエルフ)だった。
外見と身体だけは。




