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第二章②

目を覚まして二秒。

 目の前に模様があることに気付く。十五センチ四方の銀色の格子が目の前に広がっていて模様に見えたのだ。事態が呑み込めなかった。まず手と足が重たいと思った。眼球だけ動かして手と足を見ると白い手枷と足枷。次に痛みが襲ってきた。顔と、唾を飲んだら口の中に激痛が走った。その拍子で思い出した。美作という鋼の魔女のブーツに何度も蹴られた思い出。千場ヨウスケが「素敵なブーツですね」と言った思い出。

 阿倍野アキヒトは壁にもたれ、眠っていたらしい。その姿勢のせいで首の筋肉が柔軟に動かなかった。首を動かす。視界の端に白い手枷と足枷をされた千場が見えた。阿倍野と同じ姿勢で寝息を立てていた。千場の顔は傷だらけだった。阿倍野の顔もきっと傷だらけだ。傷のせいで熱っぽい。とても不愉快な気分だった。不愉快な気分で、現状を把握しようとした。

 銀色の格子。つまりここは牢屋だ。美作が言っていた、ゆっくりと殺すための牢屋だろう。牢屋にいる自分。少し信じがたい感覚。

銀色の格子は一つの部屋の丁度中央にあり、部屋を二つに区切っていた。格子の向こうに扉がある。その扉は木でできている色をしている。金色のノブ。今にもそれが動いて誰かが登場しそうな気配がある。気軽さがある。扉の左手の壁際には化粧台のような引き出しの多い机、そして椅子。反対にはヨーロッパかどこかの古城を描いた小さな絵画が飾られている。床には赤い絨毯。模様は日本的でないものだ。扉の傍には振り子時計。時間を知ることが出来た。九時。午前か、午後か。外の光の入り込む隙のないこの部屋で、それを知ることは出来ない。

格子の向こう側に比べると、阿倍野と千場が座っている牢屋側はとてもシンプルな造りだった。余計なものは一切なく、壁に凹凸すらなく、壁は白く染まっていた。格子の銀色も、白銀と言った方が正確かもしれない。部屋の半分は白い世界。阿倍野にはこの色のない世界の意味が分からない。しかし、なんて綺麗な白なんだろう。

「……千場、起きろ」

声がやけに響く。千場は反応しない。

 阿倍野は千場に肩を当てて揺すった。千場は向こう側にゆっくりと倒れた。しかし、起きない。規則正しい寝息。完全に寝ている。怒鳴ってもよかったが、止めた。千場を起こしたところでどうにかなる状況でもないような気がしたのだ。打つ手がない状況だ。逃げるなんて考えるだけ無駄だ。手足を不自由にしているものを観察した。格子の扉を施錠している鍵を観察した。少しだけ力を入れて格子を揺らしてみる。本当にビクともしなかった。完璧な仕事がされている。

阿倍野はしばらく格子の向こう側の扉を睨んでいた。

阿倍野は目を瞑って息を吐く。眠ろうとした。……徳富は無事だろうか?

 しかし魔女二人に追いかけられて、捕まらないはずがないだろう。別の牢屋に入れられているかもしれない。

 さてこれからどうなるのだろう。美作と話をして、誤解を解くしかないだろう。とても難易度の高い作業だろうが。…………。意識が一度堕ちる。しかしすぐに飛ぶ。目を見開く。どれくらい堕ちていただろう。時計の針の位置にほとんど変化はない。堕ちた時間は指を折って数えられる数秒間。阿倍野が堕ちている間に格子の向こうの景色に変化があった。格子の向こう、手を伸ばせば届く距離に、少女が立っていた。彼女は阿倍野を見ている。

 まだ小さい。手も、足も。顔も幼い。

 目が大きい。色が凄くよく見える。

 凄くよく見えるんだけど。

何色かは判別できない。その種類を阿倍野は知らない。

髪は肩まで伸びている。その髪の色も個性的だった。橙色。朱色よりも、僅かに明るい色。何色と言うのが正しいのだろう。

少女は赤いワンピースに、黒いミリタリィ・ジャケットを羽織っている。その組み合わせはキャブズのものだ。箒の後ろに誰かを乗せて報酬を得る、空を飛ぶことしか脳がない魔女に向いている職業。それがキャブズ。

「真倥管、」この声は、確か、一度だけ、聞いたことがある。「あなたは真倥管を触りにここにいる?」


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