第四章⑬
救われたような気がした。
あらゆるものが鮮明に見えて、頭痛がして、体中の痛みを感じて、大きな息を吐く。
ニシキは右手に激痛を感じて真倥管を離した。真倥管は転がり光を消した。
左手にはもう一つの真倥管。その真倥管は熱くない。暖かかった。ニシキはその温度と微細な揺れにとても安らぐのを感じる。明らかに二つは違うものなのだと気付く。
そして周りは火の海だ。燃えていて、逃げるルートが見つからない。
近くに千場が仰向けになって寝息を立てている。
もう一人、男の人が工場の機械を背に座って寝息を立てている。
そしてなぜかニシキは少女に抱き締められていた。
ニシキのよく動く目を見て、少女は幸せそうに微笑んだ。
そして涙を落とすのだ。
彼女の悲しみがニシキには分からない。困る。
ロマンチックな言葉一つ思い浮かばないから。
こういうときに何か文句の一つでもすぐに出てくればいいと思う。
きっとまだ私は天使に近づいていないから。笑って誤魔化して。
そして黄金色に染まる。
「シエルミラ」あらゆることを優しい真倥管に全て任せた。シエルミラは二人を包むシェルタになる。シェルタは千場と、もう一人の男の人も包み込む。
そのときどこからともなく大量の水が工場に流れ込んできて火を飲み込んでいく。
シエルミラの黄金色のシェルタも呑み込まれてあっという間に工場は水で満たされた。
シェルタの中から水で満たされた工場を見回すとそれは金魚が見る風景。
私は金魚鉢の中の金魚で。すると天使はきっとずっと、雲の上。
一人でここから飛び出すのはとても難しいだろう。
そしてここは居心地がいい。そしてなんだか、楽しそう。
天使への憧れちょっと忘れてしばらく泳いでいようって、思ったのだ。




