第四章⑨
エリコは新田にバーニング・モータのある部分に「触って」と言われた。エリコはバーニング・モータに触って、その冷たい鉄の感触にビックリする。一度手を離してから、もう一度触り直す。「触ったよ、それから?」
「エリコ様にとっては屈辱的な経験かもしれません、だから、ごめんなさい、」新田は早口で言って鮮やかで不思議な色の髪の毛を揺らした。「この工場に並んでいる機械は風、火、鋼の魔力を作り出す装置です、最高の魔力を作り出す装置です、それらをバーニング・モータに集めて形にするんです、形にするには膨大な火の魔力が必要なんです」
「なぁに、私を信じていないの?」
「違います、」新田は真剣な表情のまま首を横に振った。「魔力を吸われるのは気持ち悪いことだと思うんです、それにもしかしたらバーニング・モータはエリコ様の全てを吸い尽くすかもしれません、成型に集中すると、供給の制御まで私の頭で追い切れないから」
「心配しないの、私は大丈夫だから」
「心配なんてしていません、」新田は首を横に振る。「エリコ様は私の憧れです、エリコ様は私の中で揺るぎない存在です、だから心配なんてしていません、でも、忠告させて下さい、絶対にバーニング・モータから手を離さないで下さい、絶対に、手を離してしまって魔力の流れが止まってしまうと機能を停止してしまうんです、だから、どんなに気持ち悪くても離さないで下さいね、エリコ様っ」
「やる気満々ね、」エリコは新田が可笑しかった。「私もだよ、新田ちゃん」
「始めましょう」
エリコが手を触れている場所の丁度反対側に新田は移動した。だから新田の様子を見ることは出来ない。けれど、バーニング・モータが起動して上部のシリンダが音を立てて回転し始めると、新田の脳ミソに溢れる真倥管の設計図が流れ込んできた。エリコには到底理解できない設計図。それを眺めながら、新田の感情がゼロになっていくのを感じる。同時にエリコは徐々に危ない経験に近づいているんだなと感じていた。情けないことに怖かった。手を離してしまいそうだった。手を離さなかったのは徳富がエリコを見ているし、エリコがエリコであるというプライドを引きずっているから。時にはエリコを困らせるプライドも、時には役に立つ。
「リボルブ」新田が呟いた。
眩い光がエリコの脳ミソに流れ込んできた。
瞬間、魔力が心臓の奥の方からバーニング・モータに流れ込む。物凄い勢いで。気持ち悪い。滅茶苦茶気持ち悪い。濁流。手は吸いついたようだ。工場の一部になったみたいだ。確かにコレは屈辱的だ。濁流から顔を出すのに必死だ。コレは、なんというか、新田ちゃん、とエリコは新田に叫びたかった。
手を離す余裕なんてないじゃないのよ!
「出来た!」新田の声が聞こえた。
バーニング・モータが起動を停止。エリコはバーニング・モータから手を離した。離したというよりバーニング・モータの方から切り離された感じだ。お前はもう用無しと言われたような感じだ。なんだか空っぽで、なんだかスッキリしたエリコはそのまま仰向けに床に倒れ込んだ。自分の汗が目に入って沁みる。
「エリコ様!」新田がエリコの顔を覗き込む。新田は胸の前で出来上がったばかりの真倥管を握り締めている。新田はエリコのことを心配してくれるのだと思った。けれど違った。新田は無邪気に笑っていた。「見てください、コレが真倥管レクティファイアです」
「あははっ」
なんだか分からないけれど可笑しくなって、笑いながら真倥管レクティファイアに触った。「少し試させてよ、新田ちゃん」
「エリコ様?」新田は首を傾げる。
「私のエンドレス・バーレイを見たくない?」エリコは新田に顔を近づけてその瞳の色を見る。
「エリコ様、」新田は真剣に忠告する。「ココにはBBCのアームストロング家みたいにオブジェになった無数の大砲はありません、それより私はエリコ様の、」きっと新田は勇気を出して口に出した。「ヘンリエッタのスターダストが見たいです」




