第四章①
藍染ニシキは男湯の脱衣所でメイド服を脱ぐ。鏡の前で髪を結んでいる藍色のリボンを解く。金髪が落ちて、体に張り付く。誰かに見せるのに悪くない躰だ自分では思う。千場ヨウスケは二秒で浴衣を脱いで風呂に向かった。恥ずかしがる暇もなかった。もっと乙女な反応を見せたかった。体は十分に火照っているけれど。
男湯の脱衣所の入り口には立て看板を掛けてある。只今、営為清掃中。
従業員の誰かが首を傾げるまでは、ココにはニシキと千場しかいない。
ニシキは手拭いで大事な部分を隠しながら浴室へ入る。千場は湯船に肩まで浸かっていた。頭に几帳面に折り畳んだ白い手拭いが乗っている。お湯は白く濁っている。つま先で温度を確認する。顔がピンク色になりそうなほど熱い。つまり丁度いい温度。ニシキは千場の隣に移動して肩まで浸かる。
「ああ、生き還るぅ、」面白味のない感想をニシキは目を瞑って言った。声が反響して、千場の耳にはきっと少しだけ艶っぽく聞こえているのではないだろうか。「いいお湯だねぇ、ヨウスケ」
目を開けて横を見ると、すでに千場はそこにいなかった。
「ほら、髪を洗うんだろ?」
ニシキは振り返る。千場は手拭いで石鹸を雑に泡立てながら、後ろであぐらを掻いている。千場の大事な部分の先端を見てしまって顔がピンク色になる。言葉が出なくなる。千場はニシキに向こうを向かせて髪の毛を触る。「ま、待って」
「なに?」
「お湯から出なきゃ、お湯が汚れちゃう」ニシキは手拭いで体の前を隠して湯船から上がった。小さな手拭いではほとんど隠せてないけれど。とにかく、見せられたから見せてやろうという気分になったのだ。ああ、意味が分からない。
「ああ、そうだな」千場はニシキから目を逸らしている。
「は、はい、どうぞ、」ニシキは千場の前にぺたんと座り込んで目を瞑る。「優しくしてよね、意地悪したら、許さないんだから」
千場は優しくニシキの髪を洗ってくれた。とても気持ちよかった。この石鹸の匂いは好き。千場の指先がニシキの頭皮に触れるたび、感情が膨らんでいく。千場の指先が髪を梳くたびに破裂しそうになる。
「流すよ、目を瞑って」
言われてギュウっとニシキは目を瞑った。お湯が石鹸の泡を落とす。なんだか服を脱がされた気分。もう裸だけど。なんだか、生まれ変わったような気がした。そしてニシキの金髪は今、お湯に滲んで綺麗な光を放っているはず。
ニシキは千場にこのゴールドの輝きを見てもらいたかったのだ。
きっと明日の夜にはお別れだ。
だから覚えていて欲しかった。私の輝き。
いつか私が天使になってもっと輝いたら、もっと褒めてよ。
「もう無理だ」千場がニシキの耳元で囁いた。
「え?」ニシキは振り返った。
千場にキスされる。脳ミソの回転が止まる。白くなる。
「悪い」唇を離して千場が言う。
ニシキは首を横に振る。口元を触る。唇を触って、噛んだ。
「誰にも言うなよ」
ニシキは首を大きく縦に振る。
「浮気したら俺、」千場はニシキの髪に顔を埋めた。「あいつの金色のピストルに撃たれちまうんだ」
「……わ、私が守ってあげる、」ニシキは震える唇で話した。「私の素敵なシエルミラで」




