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E* 日曜日の出来事

僕の恋人は可愛い。

無表情で何を考えているのか分からないとよく言われるがそこがまた可愛い。

感情表現が苦手で、よく殴る。しかし可愛い。

ただ少し変わっただけの、普通の恋人だと思っていた。


(はな)、またそんなの見てるの?」

彼女はグロテスクな洋画が好きだ。日曜日はいつも僕の部屋でそれを見ている。

高校時代から何も変わらず、付き合いはじめて早4年がたとうとしていた。

「見て、永杜(えいと)。脳がこぼれてます」

嬉しそうにそういう華にできるだけ優しく笑いかけて、画面から目をそらす。

「楽しそうだね」

「楽しいです」

これが18禁でないことが不思議だ、と思いながら楽しんで観ている華を観察する。

こんなふうに感情をあらわにすることは極めて珍しい。

「永杜。永杜は華がもしロボットなら、どうしますか」

華は非日常的質問が好きだ。

この質問も今観ているテレビの中で自分の母親であるはずの人間を殺す主人公が実はロボットであるという設定から出てきたのだろう。

「次は夫だね」

「はい。わくわくですね」

わくわくですか、と思わず笑ってしまう。

テレビの中では叫び声や何かがぶつかる音が響いている。それとは真逆で明るい太陽が室内を照らし、のんびりとした空気にあくびがでそうになる。

「華がもしロボットだったら僕を殺しにくるのかな」

膝を抱えてじっとテレビを見ていた華の目がちらっと僕を見てまたすぐにテレビに戻された。

部屋には華が買ってきたドーナツの甘い匂いが漂う。チョコのドーナツは華がかじったままおかれている。それを手に取り食べてみる。想像以上の甘さにすぐコーヒーを口に流し込んだ。

「甘いですよ、それ。永杜、甘いの苦手なのに」と華が笑う。

「食べる前にいってよ」と僕はもう一杯コーヒーを淹れにキッチンへと向かう。

その僕の背に華の柔らかな声が聞こえた。

「食べる前にいうと永杜は食べないでしょう?」

ポットのボタンを押すと熱い湯がこぽこぽと音を立てて落下してカップに入った。

その湯にインスタントコーヒーの粉が溶ける。思いのままにコーヒーが出来上がり、僕はまた華の隣に腰を下ろした。

テレビの中では顔の皮がはがれ金属がむき出しになった主人公が家の外へ繰り出し、村人を襲い始めていた。

「華は人ですよ」

突然華は僕をまっすぐ見ていった。

「さっきの話?」

「はい」

「もしもロボットだったらの話じゃなかった?」

「そうでしたっけ」

「そうだよ」

華は首をかしげ、小さくうつむき、すっとまた僕を見た。

「もし華がロボットで永杜を殺せという命令が出されたなら従うと思います」

「従っちゃうんだ」

「ロボットですから」

「まぁ、そうなるよね」

機械はそういうものだ。ボタンを押せばお湯が出る。それと同じ。

「けれど」

少し寂しいなと思いテレビに目を移した僕を呼ぶように華が声をこぼしたので僕はうっすらと微笑みを浮かべる恋人に目を向けた。

「華は人間ですから。命令されても従いませんよ」

華は自分を人間だと強調した。命令に従うだけの機械とは違う。食べる前に言ってよといっても、決して従わない人間。

「フィオじゃなくて、ティオでよかったです」


付き合って4年がたとうとしていたその日、彼女の眼は何かいつもとは違う色をしていた。


「え?何?」

「人間化された機械じゃなく、機械化された人間でよかったです」

「にんげんか・・?きかいか?」

華は哀しげな目を僕に向ける。

「時は満ちたそうです。調査は終わりだといわれたのです」

僕の愛しい恋人はとても切なそうにそういうと暖かいその手で僕の手を握った。

相変わらず暖かな春の日の昼下がりは心地よく、あくびをしそうになるほどのどかだった。

部屋はドーナツの甘い匂いとコーヒーの香が混ざり合っている。

「調査?」

「華は永杜を殺せという命令がでても従いませんが、連れてこいという命令には従うつもりです。桜井永杜、私は貴方にお願いがあります。私と一緒にベースメントポリスに来てください」

少し変わった僕の恋人は、きっと少し変わっているだけだと思っていた。

確かにホラー映画が好きだったり、時折意味も分からない攻撃をしてくることはあるが、それでもただ平和な世界に生まれた僕と同じただの人間だと。


なんでもない日常が突然とんでもない日常に変化する。

今がその時なのだと僕は愛しいばかりの恋人の黒い瞳を見つめているだけだった。



ちょっと暴力的でホラーが好きで虫に強い少女が大好きな乃空です。

感想などいただけると喜びます(私が)。非常に喜びます(私が)。

週に一度のまったりペースで更新予定です。

これからもよろしくお願いします^^

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