婚約者が愛人をつれて婿に入りたいと言ってきた。しかし、断れないよう脅しもかけて来たの。でも、幼女の言葉に従ったら何とかなりましたわ。なったのかしら?何これ?と思った話
「天にまします我らが女神様に告発します・・・」
婚約破棄ならまだ良いですわ。
愛人を連れての婿入りの修羅場小説がありますが、私には無縁の世界だと思っていました。
どうか、お導きをお願いしますわ・・・
☆☆☆
私のスマイリー様は婿に来る予定でした。
とても優しくサラサラ流れる金髪、微笑みが素敵な殿方でした。
真面目に領地経営を学び。父からの評価も高いのです。
しかし、街のカフェでデートをした時、知らない女を連れて来ました。
『スマイリー様、この方は親戚の方ですか?』
『いや、街の酒場で出会ったウェイトレスだ』
『初めましてメリッサ様、私、アミンと申します』
ええ、唇にホクロがあって、可愛いと言うよりも色っぽい感じの平民でした。
『あの・・・』
『実はさ。結婚したらアミンも一緒に暮らそうと思ってさ』
『メイドとして雇うと言う事ですか?』
『察しが悪いな。愛人だよ』
『よろしく、奥様』
『帰ります!』
信じられません。すぐにお父様に報告に行こうとしたら・・・
『いいのかい。メリッサ、でないとこれを売るよ』
『何かしら・・・これは当家の手形ですわ!』
ええ、領地経営の勉強でどうしても見本が見たいと言うことでお父様の机から1枚持ち出しましたわ。
額面は未記載です・・・
『ここに金貨百万枚と書いて市場に流せば君の家は領地も取り上げられるよ』
『ひ、ヒドいですわ!返して下さいませ』
『おっと、これは貴族の決闘だ』
『まあ、必死ね。奥様、クス』
『ここには手形の番号も記載されている。本物だ。売れるぜ』
『じゃあ、考えておいてね。奥様』
・・・・・・・・・・・
「・・・ええ、こうして、今の状況に至ります。婿なのに愛人と一緒にこの屋敷と暮らさなければならないと思うと・・・一体、何故、スマイリー様は変わったのでしょうか?」
「・・・それは誰かに空気を入れられたからなの~」
「空気?」
「そそのかされたの~」
「そんな要求は通らないのはスマイリーも分かっているの。初めから手形を流すつもりなの~!」
「それでは女神様、誰がスマイリー様をそそのかしたのでしょうか?」
「スマイリーの父のダミン伯爵当主なの~」
「ああ、では女神様、私はどうしたら・・・って、その間延びした幼女の声はメアリー!」
「メアリーちゃんなの~」
部屋の中にメアリーがいた。忍び込んだのね・・・
「メアリー、それよりも、熱病はいいのかしら?」
「治ったの」
メアリーは私の妹、5歳、十日前から熱病にうなされていた。
「どうして部屋に入ったの?」
「ノックしたの。返事がないから入ったの~、良い子会への付き添いをお願いするの~」
「良い子会、こんな時に・・・」
良い子会、ウォルフ公爵家のイザベラ様が同年代の幼女を集めてお茶会とかを催している。
公爵家にお近づきになりたくてメアリーも参加させている。各家門、令嬢やメイド長クラスを付き添いに出している。
メアリーはたしか、評判は悪かったわね・・・
「行くの!行くの!」
「仕方ないわね」
☆☆☆ウォルフ公爵家
温室の中でお茶会は行われたわ。メアリーはいつも退屈そうにムスッとしていたわね。
「皆様、良い子の会にお集まり下さり有難うございます」
イザベラ様の挨拶でパチパチと拍手が鳴り響く。
公爵夫妻はニコニコして眺めているわね。
「皆様、お菓子とジュースです。歓談しながら頂きましょう」
「「「はい」」」
「イザベラ様、私のドレスは如何ですか?清楚系ですわ」
「まあ、イザベラ様、私、毎日文字練習を欠かしていませんのよ!ノートをご覧になって」
「皆様、順番ですわ」
皆、アピールに必死だわ。
だけど、メアリーはおすまししているわね。
皆は幼女ながらイザベラ様に近づくのが家の繁栄になると分かっているのね。
そして、イザベラ様はいつも寂しそうなメアリーの元に一回だけは様子はどう?と聞きに行く。
「ホロット伯爵家のメアリー様、熱病に罹患したと聞きましたわ。お加減如何ですか?」
「はいなの~、お見舞いのお品ありがとうなの~」
「どういたしましてですわ」
え、メアリーがお礼を言えたわ。
「メアリーもイザベラ様みたいに良い子になりたいの~、質問よろしいですかなの?」
「はい、どうぞ」
「メアリーは大失敗をしたの~、ここでは言えないくらいなの~、お父様、お母様にまだ言っていないの~、話したら良い子ではなくなるの~、どうしたら良いか悩んでいるの~」
「まあ」
イザベラ様はご両親を見るわ。
公爵夫妻はニコニコ微笑んでいる・・・
イザベラ様はウンと頷いてメアリーに向き合ったわ。
「人は誰でも失敗しますわ。それをお父様とお母様に言うのも良い子ですわ」
「グスン、お父様、お母様はメアリーを嫌わないかなの?」
「嫌いませんわ。ええ、ホロット家は誠実をもっとうにしているではないですか?」
誠実に告白して。
誠実に謝罪して。
誠実に対処する
のです。
そしたら道が開けますわ。
言葉が刺さるわ。
私はイザベラ様の言葉通りにお父様とお母様に話した。
「な、何だって!何日前だ?」
「グスン、三日前です」
「まあ、すぐにダミン伯爵に抗議だわ」
ダミン伯爵邸に行っても・・・
「旦那様達は家族で旅行です。先触れを出して頂けないと」
「君、急ぎだ。いつ帰って来るのだ?」
「十日後です」
「面会の約束を取り付けてくれ!」
留守だったわ。
それから商業ギルドに行っても・・・
「誤って手形を流した?人の手に渡ったら。もう、どうしようもないです・・・とにかく決済をしてから訴訟を起されることをお勧めします」
法律家に聞いても・・・
「これは、信用の問題です。一度、決済をしなければ・・・一度までの不渡りでも法的には大丈夫ですが、事実上の倒産となります。手形を使えなくなるだけではなく。領地債も紙くずになるでしょう」
絶望的だわ。
「グスン、グスン、お父様、お母様、私・・・」
「メリッサだけのせいではない・・・もっと、手形の恐ろしさを教えていれば・・」
「金貨百万枚と言ったのね・・・それは領地を差し押さえ受けても払えないわ・・・」
「あの、お姉様、良い子会の付き添いお願いするの~」
「グスン、メアリー、それどころではないわ。ベッキーにつれて行ってもらいなさい」
「はいなの~、子守メイドのベッキーとお出かけなの~」
メアリーは幼女だからか。危機感はないわね。仕方ないわ。
「お姉様、大丈夫なの~、額面金貨百万枚なんてあり得ないの。金貨三万から四万枚が妥当なの~」
メアリーがクルッと首を回して言ったわ。
幼女の戯言かしら。
「何故かしら・・・」
「大きすぎるの。お屋敷のお値段が妥当なの~」
「そうかしら・・・」
「お姉様は当日、何も話さなくて良いの~、こちらから、婚約の破棄を持ち出さなければ良いの~」
「ええ、何故、スマイリー様は私を正妻にして愛人を入れるのよ。耐えられないわ」
「向こうは一回脅して婚約を破棄すると言うの~、そしたら、ウンと言うの~」
「メアリー・・・」
「上手く行くの~」
「メアリー様、馬車の準備が出来ました」
「はいなの~、ベッキー行くの~」
「は、はい、お嬢様!」
本当かしら。
ダミン伯爵一行が旅行から帰ってきた当日、屋敷にダミン伯爵とスマイリー様、アミン、それと知らない強面の男達がやってきた。父と母、私で対面をする。
「ダミン伯爵、こちらの方は?」
「オスカー商会のオスカー殿です」
「ホロット伯爵殿、お初にお目にかかります。オスカーと法律家のザイムです」
「初めまして」
オスカー商会、裏組織だわ。オールバックの茶髪に眼光が鋭い。30歳くらいかしら、
お付きの法律家も目が鋭い。
お父様は抗議したわ。
「娘が見本で渡した手形でスマイリー君が脅しているそうではないか?すぐに手形を返したまえ!」
「・・・・・・・・」
ダミン伯爵は無言だわ。
「だいだい。当家は金貨百万枚などない」
「金貨四万枚ですな・・それで手を打ちませんか?」
やっと口を開いたわ。都合の悪いことには一切答えない。
「金貨四万枚なら当家は何を対価に振りだしたか?」
「・・・・・・・・」
また、無言だわ。
圧力があるわ。
お父様は汗がダクダクだわ。
「もし、息子とメリッサ嬢と婚姻、アミン嬢を上級メイドとして入れるのなら。手形を返すのもやぶさかではないですが・・・」
「何!」
意味が分からないわ。そこまでして息子の愛人を我が家門に入れたいの?
父は私を見る。
「メリッサ、どうする?婚約を続けるか・・・」
私も無言を貫いた。しばらく静寂が支配したわ。
そして、遂にダミン伯爵が・・・
「やれ、やれ、でないと、婚約を破棄しますよ・・なあ、スマイリー」
「そうだね。父上・・」
婚約破棄と言い出したわ。
だから、私は・・・
「婚約破棄を受けますわ!」
と言った。
するとダミン伯爵達は目が一瞬丸くなったわ。
でも、
「フム、そうか、ならやりようがある」
「父上、この屋敷を取り上げるのもいいね。オスカー殿、ホロット伯爵から取り立ててよ」
全く、効かなかったわ。
その時、ドアがドン!と開いた。
現われたのはメアリーと子守メイドのベッキーだ。
「はにゃ、婚約破棄が成立したの~」
「お、お嬢様、入ってはいけないと言われましたのです」
「誰だ、この幼女は!」
「メアリー、お母様と一緒に子供部屋に行きましょう。ベッキー、お前がついていてどうしたの?」
「ヒィ、奥様、申し訳ないです!聞き耳を立てるだけと言ったのです。グスン」
「オスカーしゃん!」
メアリーが裏組織のボスに話しかけたわ。
「これで金輪際、ホロット家とダミン家は親戚関係にならないの~!」
「・・・ほお、何故、分かった。手形の振出人であるホロット家からの取り立ての条件はスマイリー君とメリッサ嬢の婚姻だ。ダミン家は資金が乏しい」
「裏書人のスマイリーから取り立てるの~!」
「・・・しかし、こっちは、ホロット家から取り立てる事も出来るのだぞ」
「ダミン家は王都近郊に山林を持っているの~、これから文書行政、出版業界が伸びて、紙が足りなくなるの~、高く売れるの~」
「その見込みは後で調べよう・・」
「それとホロット家は詐欺にあった善意の第三者になるの。頑張って金貨四万枚決済して裁判になったら勝てるの~」
「ザイム、どうだ?」
「五分五分でしょうね。メリッサ様とスマイリー様が婚姻すれば、被害者と加害者が一緒になり容易に勝てましたが・・・」
「ほお・・・ククククッ、まあ、どちらでも良いが、お嬢ちゃんの度胸に免じてダミン家から借金を取り立てようか」
「そ、そんな!」
「オスカーさん。話が違う」
「すまないね。確実に儲ける方に行く・・・ところでお嬢ちゃん。名は?」
「自分から自己紹介するの~」
「ククク、ますます良い。オスカー、家門名は無し。これからオスカー・ダミンになる予定だ」
「メアリー・ホロットなの~」
「分かった。名を覚えていこう。おい、ザイム、プラン2だ」
「はい、商会長」
結局何が起きたか。分からなかったわ。
それからメアリーは元に戻った。
ベッキーとおままごとをしている。
「ベッキーしゃん。ご飯なの~」
「はい、お嬢様」
「違うの~、お母さん役なの~」
「ヒィ、はい、お母様・・・」
一時的な精霊付と判断されたわ。
「ありがたい。守護精霊様が助けて頂いたのだ」
「ええ、教会でお礼の祈りを捧げましょう」
・・・お父様とお母様はそう判断しているけど、本当にそうかしら。
メアリーが1人の時にこっそり聞いたわ。
「メアリー、何故、額面金貨四万枚と分かったのかしら」
「金貨百万枚だと現実味がなさ過ぎて決済されないの~、遠い国であったの~」
・・・あたしゃ、メアリー転生者だ。熱病でうなされて思い出した。
前世、どこかの総会ゴロが、銀行に百億の手形を持って行った情報を聞いたのだ。
どういう経由か分からないが本物の大企業の手形だ。
だけど、支払いは銀行の判断で差し止め。手形は絶対だと思っていたから驚いたよ。
いや、銀行は自分が関わるときは現実的な判断をするのか?
「メアリー、裏書人って何かしら・・・」
「手形を売るときに、裏に名前を書くの~、その人にお金を請求しても良いの~」
制度上、スマイリーは裏書人にならざる得なかった。裏書人はただ書いた人でも請求する事が出来る怖い制度なのだ。
「そして、スマイリーと籍を入れたら、当家の人間になって、ホロット家から差し押えが絶対になるの~」
「じゃあ、もし、婚姻を承諾したら・・・ダミン伯爵は手形を渡したかしら」
「それはないの。嘘つきなの。その場でオスカーに売ったと思うの」
「結婚してから手形を流せば・・・バレなかったのではないかしら」
「オスカー商会から借金をしていたの~、資金繰りの問題だと思うの~」
「そう、安易に裏書人にはならないわ」
「それがいいの~」
「メアリー、その知識はどこで知ったのかしら?」
「窓に怪鳥さんが来て、お話してくれたの」
「嘘仰い!」
その時、執事長が呼びに来たわ。
「メアリー様、大変です。フォルク家から使者が・・・メアリー様、イザベラ様のご学友に選ばれましたぞ。旦那様がお呼びです」
「今行くの~」
あのときの質問が良かったのかもしれない。
もしかして、メアリーは前世持ち?
それから、オスカーが伯爵になってヌケヌケとお父様に挨拶に来た。
ダミン家を乗っ取ったのね。
顔がボコボコになった首輪をつけられた男を引き回していた。
服はボロの貫頭衣だ。
メアリーに面会指命だったので、お父様と私、メアリーで応接室で対峙する。一応、向こうは伯爵だし。 また、精霊が落ちるかもしれないとお父様は判断したわ。
「オスカー・ダミンでございます。ホロット伯爵殿にご挨拶を申し上げに来ました」
ダミン家は乗っ取られたわね。養子縁組かしら・・・
お父様は首輪をつけられた男に驚きを隠せない。私は怖くて震えたわ。
「ヒィ、これは・・・」
「ウウ、ウグ、ハア、ハア」
「オスカー殿、それは・・・」
「ああ、犬が粗相をしまして・・躾けですね。犬のくせに裏社会に首を突っ込むものですから、番は娼館に売りました。親犬は庭師として飼っています」
「人ではないですか?誰ですか?」
「ああ、スマイリー号です。邪魔でしたら門の外につないで置きますが」
「このままで良い・・・つつがなく挨拶は受けた。帰り給え」
「いえ、まだ用事がございまして、実はメアリー様に公爵令嬢様のご学友就任祝いを持って来ました」
「メアリーに?」
「ええ、どうぞ箱をお開け下さい」
箱の中身はペロペロキャンディーだったわ。
「ワーイ!キャンディーなのー!」
「喜んで頂いて光栄です」
何これ。メアリーが転生者だなんて、きっと違うわね。
そう思うしかなかった。
最後までお読み頂き有難うございました。




