雨の思い出
昔、カタツムリの観察をしていたことがあるんですよ。
むか~し、むかし、家は貧乏な家庭でした。テレビもなく、ゲーム機もなく、ラジオすらありませんでした。そんな家でしたから夏休みとか冬休みとかの学校に行かない期間はすごく暇だったんです。数少ない友人たちも旅行に行ったりおじいちゃんやおばあちゃんの家に遊びに行ったりで、幼い私は長いお休みが嫌いで嫌いで、なければいいのにと思っていました。
そんなでしたから、夏休みのしとしと雨が降る日も私は暇を持て余していたんです。退屈で仕方なくて、窓からずっと雨が降る様子を眺めていました。その時にふと思いついたんです。私は卵の入っていた透明なパックを持って外に出ました。そこで、のたのたと歩いていたカタツムリを捕まえたんです。パックに乗せて、干からびないように水道水を満たしました。そうしてカタツムリの観察を始めたんです。
しばらくは熱心に見ていたんですけど、変化のないカタツムリに段々と飽きてきました。またしても暇になってしまった私の脳は、あることを思い出したんです。カタツムリやナメクジに塩をかけると溶けるという話を。私はその行いが残酷なものとは思いもせず、ただ好奇心のままに塩を持ってきてふりかけました。
カタツムリは殻だけを残して本当に溶けてしまいました。実際には溶けてはいないらしいですが、子供の私には溶けたとしか思えませんでした。しばらくは生物の不思議に歓喜していたのですが、喜びというのはすぐに失せてしまうようで。数分後には興味をなくしていました。そして興味がなくなると、途端に溶けたカタツムリが気持ち悪くなったんです。
だから私はパックを持ち上げて庭に放り投げました。なるべく遠くにいくように力いっぱい。哀れなカタツムリの残骸は草むらの中に消えていきました。その後の私は別の遊びに熱中し始めて、カタツムリのことなんて綺麗に忘れていました。そして翌日、よく晴れた空に気分を良くしながら庭に目をやったんです。
そうしたらね、庭を囲うコンクリートの壁に何か黒い染みがあるんです。昨日まではなかったんですよ、そんなの。その染みがなんだかカタツムリの形に似ているような気がして、薄気味悪かったです。成人した今でもその染みは残っていて、私はそれを見るのが嫌で実家にはあまり帰りません。ただ、この前母から電話があって……。庭の壁の染みが動いてる気がするって言うんです。
気のせいだよって言って電話を切りました。それからは母のLINEも見ていません。きっと母はボケ始めてきてしまったんです。ね?そうですよね?私は悪くないですよね?このぐらいのこと、誰でもやったことがあるでしょう?ここまで読み進めてきた貴方だって。ね?
カタツムリってよく見たら気持ち悪くない?という思いつきから書いた話です。




