第2章:沈黙
保健室は安物の消毒液と焼けた金属の匂いがした。
ベッドは足りず、机やマット、引き剥がした扉さえ簡易担架として使われていた。
雷禅は座っていた。体を包む包帯。
怪物による傷は治癒能力者のおかげで塞がっていた……が、痛みは残っていた。
肉体の痛みは問題ではない。
もう一つの痛み。
誰も見ることのできない痛み。
「痛くないふりをやめろ。」
彼女は腕を組んで彼の前に立っていた。
高いポニーテールが肩に落ちる。
暗い瞳は柔らかくない。
早すぎる強さを自分に課した者のように、硬く強い。
彼女の名は水原葵。
クラスメイト。
同じ部隊の仲間。
この街で真実を知る唯一の人物。
「大丈夫だ」雷禅は言った。
「違う」彼女は声を荒げずに答える。「大丈夫じゃない。そしてどんどん悪くなる。」
雷禅は床を見つめる。
彼女にはわかる。
傷のせいではない。
刻印から首にかけてゆっくり広がる黒い亀裂のせいだ。
出会いのとき
三年前だった。
雷禅が初めて力を盗む前。
そして壊れ始める前。
学校の体育館に亀裂が走った。
混乱。血。悲鳴。
葵は落ちた梁の下に挟まれ、脚は粉々。
能力も使えず動けなかった。
怪物が近づく。
雷禅にはまだ力はなかった。
手にあったのは金属の棒だけ。
彼は彼女の前に立った。
震えながら。
だが後退はしない。
「逃げて……」彼女が言った。
「上手く走れない」彼は答えた。「だからここにいる。」
明らかな嘘。
だが彼女は笑った。
怪物が襲いかかったとき、別の生徒が助けに入り……代わりに死んだ。
その時、雷禅の胸に黒い刻印が現れた。
その時、初めて能力を盗んだ。
スパーク。
そして葵はそれを見た。
死にゆく少年から光が出て、雷禅の中へ入るのを。
その表情を見た。
勝利ではなく。
恐怖。
静かな契約
「誰にも言わない」その夜、彼が建物の裏で血を吐きながら言った。
「わかってない」彼は答える。「バレたら…標的になる。」
彼女は首を振る。
「違う。もっと悪いものになる。」
道具。
その日以来、二人は秘密を守った。
他の者にとって、雷禅はただの平凡な能力者。
「訓練が足りない」だけの。
悲しいケース。
それだけ。
現在
葵はため息をついた。
「今回、何を手に入れたの?」
雷禅は迷った。
声に出すのが嫌だった。
そうするほど、現実になる。
「歩く音を少し減らせるだけ。」
彼女は目を閉じた。
失望ではない。
怒りだ。
「それでほぼ死にかけた……だからよ。」
「少年は助かった。」
「そしてあなたは分割払いで死に続けてる!」
保健室の看護師は居心地悪そうに見た。
葵は声を落とす。
「ライ……そのままじゃ、いつか刻印はもう亀裂を作れなくなる。」
割れる。
彼はかすかに笑った。
「なら、その前に世界を直すしかないな。」
「バカ……」
だが彼女の手は、彼の手を握るのをやめなかった。
保健室の外、二人の生徒が囁く。
「立花、また怪我したのか?」
「うん。能力もひどいし、いつも行くべきでないところに行く。」
「ヒーロー気取りの無能。」
葵は聞いた。
何も言わない。
もし真実を知ったら……
無能とは呼ばない。
予備品と呼ぶだろう。
空に、さらに一つの亀裂が開く。
学校に近く。
雷禅に近く。
神々は決断を下した。
間違いを消せないなら……
壊れるまで押す。
葵は手を握りながら、任務後にいつも思うことを考えた。
「一人で死なせはしない。」
たとえそれが神々に挑むことを意味しても。




