力か呪いか?パート2
「動け!」誰かが叫んだ。
だが一年生の少年は動かなかった。
足が震えている。
武器が手から落ちた。
目は、亀裂から降りてくる“歩き方を覚えた死体”のような怪物に釘付けだった。
足が多すぎる。
関節が多すぎる。
口が多すぎる。
雷禅は胸に引き寄せられる感覚を覚えた。
肉体ではない。
もっと深い何か。
魂に釣り針が食い込んだような感覚。
黒い刻印が発光した。
「やめろ……」
だが能力は懇願を聞かない。
聞くのは“死”。
そして死は少年から三歩の距離にあった。
怪物が落ちた。
衝撃でアスファルトが砕ける。
粉塵。悲鳴。無意味な銃声。
雷禅はもう走っていた。
勇気があったからじゃない。
体が、思考より先に動いた。
「ライ、待って!」ポニーテールの少女が叫ぶ。
遅い。
雷禅は飛び込み、少年を軌道から突き飛ばした――
そして怪物の爪が彼の脇腹を貫いた。
世界が白く染まる。
痛みではない。
発動だ。
時間が遅くなったように感じた。
雷禅は他の誰にも見えないものを見た。
救った少年の胸の光る刻印。
点滅している。不安定。
消えかけている。
自分の黒い刻印がガラスの亀裂のように広がり、
二つの紋様を繋ぐ線を形成した。
「……ごめん」
少年に言ったのか。
自分に言ったのか。
光が吸い取られた。
奪ったのではない。
破壊して取り込んだ。
青い光の破片が剥がれ落ち……雷禅の胸へ沈んだ。
少年は意識を失って倒れた。
雷禅の刻印はさらに暗くなる。
そして彼の内側の何かが引き裂かれた。
新能力獲得 —『ライトステップ』
足音をわずかに小さくできる。
それだけ。
速度ではない。
回避でもない。
ただ……歩く音が少し減るだけ。
雷禅は笑いそうになった。
またゴミだ。
何の価値もないのに、また寿命の一片を差し出した。
怪物が悲鳴を上げ、彼へ向き直る。
脇腹の傷から血が流れる。
走れない。
勝てない。
「立花、下がれ!」教官が叫ぶ。
遠すぎる。
怪物が骨の肢を振り上げ、とどめを刺そうとする。
雷禅は反射的に手を上げた。
「スパーク。」
情けない電流が指から跳ねた。
怪物は反応すらしない。
「最高だな……」
そして彼は馬鹿な考えを思いついた。
だが彼にあるのは、馬鹿な考えだけだ。
「ショート・エコー。」
一秒前に聞いた音を再
怪物の鋭い悲鳴。
歪んだ音が響いた……だが近い。
頭のすぐそばから。
怪物が躊躇する。
“二つ目”の音へ体を向ける。
一秒。
それだけで十分だった。
ポニーテールの少女が強化能力で打撃を叩き込み、脚を砕く。
「今!」
チームが露出した核を撃つ。
怪物が倒れた。
静寂。
荒い呼吸だけが残る。
雷禅は膝から崩れ落ちた。
黒い刻印が焼けるように痛む。
亀裂はさらに広がっていた。
少女が彼の前に膝をつく。
「また使ったの……?」
彼は目を逸らした。
「少しだけ。」
「それは“少し”じゃない。」
彼女の手は傷口を押さえながら震えていた。
血のせいじゃない。
恐怖だ。
死ぬことへの恐怖じゃない。
ある日、彼が目を覚まさなくなることへの恐怖。
「ライ……その力、何を奪われてるの?」
彼は疲れた笑みを浮かべた。
「たぶん……返せない部品かな。」
光のバリアの上空で、声が観察していた。
『三度目の取得を確認。』
『戦術的価値、低。』
『精神損耗の累積……興味深い。』
間。
『対象周辺の出現率を上昇させよ。』
雷禅は知らなかった。
だがその瞬間から――
街は彼の周囲で、より危険になっていく。
彼が強いからではない。
彼が“異常”だからだ。




