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第 1 章: 力か呪いか?

午前6時のサイレンは、目覚ましではなかった。


それは“確認”だった。


「まだ生きている。」


金属的な音が第7地区の崩れた建物の間を駆け抜け、割れた窓や金属板で補強された壁に反響した。

人を優しく起こす音ではない。

街そのものが「目を開けろ」と命令するかのように、眠りを引き剥がす音だった。


雷禅・立花はすでに起きていた。


ベッドの縁に座り、胸の中心から鎖骨へと広がる黒い刻印を見つめていた。

まるでガラスに入ったひび割れのようだった。


他の刻印のようには光らない。


普通の刻印は青、赤、金色に輝く。


彼のは黒だった。


そして、ひび割れていた。


「……まだここにいる」


安堵ではない。

諦めだった。


灰色の防衛学院の制服Tシャツを着て、強化ジャケットを手に取り、彼はシェルター校舎の廊下へ出た。

同年代の少年少女たちが無言で歩いている。


朝に会話はない。


夜が明けるたび、前日より人が減っているからだ。


学校ではない学校


校庭は自動砲塔に囲まれていた。

サッカー場は補給物資の着陸地点。

教室には黒板の代わりに武器が置かれている。


それでも皆「学校」と呼び続けている。

普通だった頃を忘れていないふりをするために。


「立花。」


雷禅が振り向くと、黒髪を高いポニーテールに結んだ少女が水筒を手に歩いてきた。


鋭い目。迷いのない足取り。


化粧も無駄な装飾もない。

淡い緑色に光る刻印が彼女の手首にあった。


身体強化能力。

単純。効率的。価値がある。


「また遅刻ね。」


「生きて来た。時間通りってことで。」


彼女は目を回したが、水筒を差し出した。


「プロテインスープ。昨日より顔色悪い。」


「昨日より悪いからな。」


彼女は一瞬長く彼を見た。


知っていた。


彼の能力は知らない。

だが、彼の中で何かがすり減っていることは。


「今日はそれ、使わないで」小さく言った。

「朝の巡回は低リスクよ。」


雷禅は皮肉な笑みを浮かべた。


「街もそう思ってくれればな。」


第7地区で最も役に立たない秘密


雷禅は、この街の均衡を変えうる能力を持っている。


そして、それはほぼ使い物にならない。


これまで盗んだ能力は二つだけ。


どちらも……ゴミだ。


能力1 —『スパーク』

指先から小さな電気の火花を出せる。

気絶もしない。

火傷もしない。

戦闘より焚き火向き。


能力2 —『ショート・エコー』

直前3秒以内に聞いた音を再生できる。

音量は小さい。

歪んでいる。

実戦では無意味。


以上。


“能力を盗む者”の攻撃力はライター以下、

技術は不調なオウム並みだ。


それでも……


盗むたびに、何かが内側で壊れる感覚がある。


寿命が縮むような。


魂が前払いさせられているような。


朝の訓練


「整列!」


顔の半分を焼かれた元兵士の教官が列の前を歩く。


「西側に低レベル亀裂確認。タイプII生物。偵察任務だ。ヒーロー気取りはするな。馬鹿なこともするな。」


雷禅を見る。


「立花。命令があるまで能力使用禁止。」


雷禅は手を上げた。


「使えるもんがあればの話ですが、教官。」


何人かが笑った。


嘲笑じゃない。

緊張の逃げ場だ。


この街では、冗談は心の防弾チョッキだ。


亀裂地点へ


進むほどに建物は高く、そして壊れていた。

空は光のバリアに覆われ、偽物の第二の大気のようだった。


そしてそれを見た。


二つのビルの間に空間を裂く光の線。


亀裂だ。


「接触まで30秒」ポニーテールの少女が言う。


雷禅の胸が焼ける。


恐怖ではない。


別の感覚。


嫌悪しているもの。


誰かが死ぬ。


彼の能力は彼より先にそれを知る。


指が震え始めた。


もういらない。


これ以上、異物が魂に突き刺さる感覚はいらない。


これ以上壊れたくない。


だが空から落ちてきたその怪物——

骨と肉の塊が物理法則を無視するように蠢いていた——を見たとき、雷禅はもっと最悪なものを見た。


一年生の生徒が転んだ。


怪物の真正面。


誰も助けられない距離。


生き残れない距離。


そして雷禅の胸の黒い刻印が——


光り始めた。


「やめろ……」


彼の能力は意思に従わない。


死に反応する。


そして今、次の“対象”を選んだ。

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